二人の加勢(正真バトル編 第四話)
東雲の来訪および、ホストクラ部と高援部の正真バトルが決定してから翌日。
「なんだこれ」
俺たちのもとには正真バトル運営委員会なるものから書類が届いており、そこには正真バトルにおける規約や、今回俺たちが東雲たちと行うバトルの内容についてなどが記載されていた。
規約をざっくり要約すると、勝利した部は敗北した部に一つだけ言うことを聞かせられること。両部活とも必ず委員会が定めたルールに則って正々堂々勝負すること。不正が発見された場合、摘発された部は約半年の謹慎を科せられ、不正の内容によっては廃部になること。等々が規約として書かれていた。
「思ってたよりもちゃんとしてるな。ガチの書面だぞこれ」
書類を持つ俺の両脇から覗き込む柏木と鹿苑に話しかける。
「えぇ、なんかよく分かんないけど、ちゃんとした文だわ」
「はい、何だかとても物々しいです」
「つーか、お前らくっついてないで離れろ!鬱陶しいんだよ!」
両脇からぐいぐい顔を覗き込ませる二人を俺は一蹴する。
「はいはい、しょうがないわね。でも、新田が私たちにちゃんと見せないのがいけないんじゃない」
「そうですよ。私たちだって勝負の内容が何になるのか気になってるんですから」
全く、日に日にこいつらは傲慢になっていくな。しかし、普段から咲姫のわがままによく付き合わされているせいか、あまり苦とも思わない。俺は根っからのお兄ちゃん属性らしい。我ながらラノベ主人公の鑑だな。
「それで、勝負の内容は確認したのか?」
今日も今日とて、炎天下にも関わらず坂野は屋上に来ていた。さすがに暑さには懲りたのか、野晒しのベンチではなく、俺たちがいるパラソルが指されたテーブルの下で対面の椅子に座り、俺たちの取材に励んでいる。
「いやまだだな」
俺は規約に一通り目を通しただけで、肝心の勝負内容が記載されたA4紙には目を通していなかった。
「ならさっさと確認したまえよ。というか君は敬語を使え。一応僕は二年生だぞ」
「いやだなぁ。親しみを込めての話し方ですよ」
坂野は俺の返答に対して軽く舌打ちをした後、早く勝負内容を確認しろと顎をクイッと動かした。
「どれどれ」
俺は規約やその他のどうでもいい紙たちをめくっていき、該当のA4紙を探した。
「あったこれだ」
俺がそう声を上げると、先ほど振り払ったはずの二人がまた両脇から顔を覗かせてくる。暑苦しいったらありゃしない。
「お、おい。なんだ、、、これ」
今までめくってきた書類は全てが文字だらけの白黒のA4紙だったが、今手元にあるA4紙はカラーで印刷されており、ポップな吹き出しや、カラフルなデザインなどが織り交ぜられており、一際異彩を放っていた。
そこに書かれていたのは…。
「恋愛シュミレーションバトル!?」
俺の肩の上からひょこっと顔を覗かせていた柏木が叫ぶ。
「うるさい馬鹿」
俺は柏木のおでこに裏拳を食らわせた。
「眼鏡先輩、これって過去にもあった勝負なのか?」
坂野の方に顔を向ける。だが、坂野も知らないようで、首を横にふっていた。
「とりあえず詳細を読んでみろ」
俺は再びA4紙に目を向けた。
そこにはこう記されている。
〜ドキドキ!恋愛シュミレーションバトル〜
恋愛シュミレーションバトル・・・両チームの代表者が審査員と模擬デートを行い、審査員をより満足させた方が勝利となる。
1.両チーム代表者を5人選出し、審査員と恋愛シュミレーションを行う。
2.先鋒戦、次鋒戦、中堅戦、副将戦、大将戦と進行していき、先に三勝したチームが勝利となる。
3.基本的には代表者に対して異性を審査員に据えるが、ホストクラ部には女性が存在しないため、高援部の女子二名は男役として出場するものとする。
※人数が足りない高援部は、学内の人間を2人だけ助っ人として招集することを許可する。また、助っ人の性別は男女問わない。女性の場合、上記と同様に当日は進行する。
「だそうだ」
俺は記載された内容を読み上げ、3人に伝えた。
「ねぇ!これどうやったって相手の方が有利じゃない!?しかも私たち2人は男として模擬デートしなきゃいけないみたいだし!」
「あぁ、どうやったって俺たちが不利だぞこれ」
「しかも、助っ人の2人を学内の人から見つけなければいけませんし。この不公平さは一体…」
俺たちはこの疑問に対して答えを持っていそうな坂野へと目線を書類から移す。
「これはおそらく部活の規模の差によるものだ」
坂野は胸ポケットから手帳を取り出し、ページを変わる変わる確認しながらそう答えた。
「昨日、過去の新聞部の記事からこれまでに行われた正真バトルの内容を見てみたんだ。そうしたら、勝負内容の不公平さが正真バトルにはあることが分かった」
過去にも同じような不公平さが存在していたのか。何が正々堂々真っ向勝負だ。ふざけやがって。
「まぁ、君たちの思う気持ちも分かる。だが、考えてみて欲しい。正真バトルの内容が対戦を行う両部活の規模に関係なく、公平なものだとした場合、下克上というものが簡単に起こってしまうんだ」
坂野は間を置くことなく言葉を続ける。
「学校としては優秀な部は優遇したい。ここは私立だし、部活動の活躍で学園の名が有名になった方が得だからな。そんな優秀な部がポッと出の部活に正真バトルで叩き潰されることがあれば損をするのは学校だ。だから、学校側は弱小の部活の方に不利なルールを科す」
不公平の理由を聞いた柏木が口を開いた。
「そんなのどこが正々堂々なのよ!」
怒る柏木を静止するように坂野はまた話し出す。
「落ち着きたまえよ。しかし、規模の差があれば、賭けるものの差もあるというのも理解しておいた方がいい。君たちの廃部と大人数のホストクラ部の廃部とじゃ、その価値も違ってくるだろうしな。そういうところも諸々含めてこの不公平というものは存在しているんだろう」
なるほどな。学校は優秀な部を残したい。加えて、規模の差がある部同士の対決であれば、片方はハイリスクローリターン、片方はローリスクハイリターンになるから。そこそこ納得のいく理由ではあるな。
「しゃあねぇ。このルールでやるしかないか」
そう俺は呟いたが、どこか浮かない様子の柏木。
そんな様子の柏木に、俺は柏木の肩をポンと叩いて檄を入れた。
「なに弱気になってんだよ。お前らしくもない。何か思うところがあるなら話してみろよ」
「ありがとう新田。私ね、恋愛シュミレーションバトルでどうしても新田が勝つ未来が見えなくて1人で悲しくなってたの」
檄じゃなくて焼でも入れようか、このアマ。
そんなことを考えていると、今度は俺が肩をポンと叩かれた。その手の主は鹿苑だった。柏木同様、浮かない顔をしている。
「新田さん、私たち一敗は確定してますけど、頑張りましょうね」
ねぇ、その一敗は誰の一敗?
「しばくぞ、お前ら」
パン、パン!
テーブルを挟んでパイプ椅子に座る坂野が手を叩いて、俺たちの注目を集めた。
「それはそうと、君たちは助っ人を2人集めないと戦う資格すら与えられないんじゃないか?」
確かに坂野の言う通りである。しかし、今の俺たちの人脈の中で選ぶとなると、かなり絞られてくるな。まず、男だけで考えた場合に浮かぶのは高木先輩と吉村の2人のみ。しかし、この2人は模擬デートには不向きな気がしている。というのも、きっと当日の勝負で求められるのはエスコート力やカッコよさ、スマートさだ。2人はそういうところが突出しているわけではなく、人としての温かみみたいなところが魅力だと思っている。高木先輩の実直な性格しかり、吉村の天然しかり。
「眼鏡先輩の言う通りだな。お前らは当てあるか?」
俺の問いかけに対して頭を悩ませる2人。しかし、意外にも当てが見つかったのか、2人ともハッとした表情で答えた。
「いるわよ!」
「私も思いつきました!」
◇
「それで、お前らが呼んできたのがこの2人か」
柏木と鹿苑が各々連絡をして呼び出したのは、、。
「お前ら、一体何のようだ。お前らは夏休みでも私はしっかり今日も仕事中なんだぞ」
久々登場。松浦美希。俺と柏木の担任兼高援部の顧問。御年2○歳のアラサー教師だ。この年で彼氏が未だにいないらしい。
「ふん!」
いきなり俺にゲンコツを食らわせる松浦先生。
「先生、、、いきなり何を…」
「いや、なんだかムカついてな」
この高校に入学してからというもの、女性に殴られてばかりな気がする。
「それで、なんで私は呼ばれたわけ」
秋元凛花。夏休み前に俺たちのもとへ依頼にきた同級生。夏祭りでは意を決して吉村に告白し、無事交際へ。学年では美男美女カップルと話題になっている。高校一年生でさえこうして交際をしている人間がいるというのに、横の女教師ときたら。買い手がなかったら俺が貰おうかな。
「ふん!」
再び俺を殴りつける松浦先生。
「いやだからなんで殴るんですか!」
「ムカついたからだな」
そんなこんなで集まった2人の助っ人なのだが。
「ていうか、うちの陣営、男は俺だけなのかよ」
「しょうがないでしょ。私たちの人脈じゃあこれが限界よ。幸い、松浦先生と凛ちゃんは2人とも美形だし背も高いわ。そこらの男よりかは十分魅力的よ」
自信満々に宣う柏木。
松浦先生は鹿苑が、秋元は柏木が連れてきた。
「話戻すけど、なんで私と先生は呼ばれたの?」
俺は2人に今までのことを話した。
「正真バトルかぁ。私がここの生徒だった頃はよくやってたわねー。それにしても恋愛シュミレーションバトルって」
「私、普通に嫌なんだけど…」
「そこを何とか!」
嫌がる2人に手を合わせて懇願する柏木。それに続いて俺たちも頭を下げてお願いした。
「お願いします!俺たちを助けると思って!」
「私たち、廃部の危機なんです!」
渋い顔でお互い顔を見合わせる松浦先生と秋元。
数秒の沈黙が流れたあと、2人の声が俺たちの耳に届いた。
「可愛い生徒たちにそう頼まれてはしょうがないな」
「私もなんだかんだ皆んなには世話になったし、恋愛シュミレーションバトルだっけ?恥ずかしいけど、やってみるよ」
その返答を聞くやいなや、柏木は2人に抱きついた。
「本当!?もう2人とも大好き!」
調子のいいやつ。
「ありがとうございます。お二人の力をお借りすれば、ホストクラ部なんてけちょんけちょんです!」
「俺からも礼言わせてください。ありがとうございます、松浦先生。ありがとう、秋元」
「ふん、大船に乗ったつもりでいろ」
「私も頑張るよ」
こうして難航しそうだった助っ人探しは案外簡単に終わり、俺たちは当日に向けて作戦を練ることになった。
「そうやって笑顔でいられるのもいつまでかな」
ポツリと側から見ていた坂野は呟いた。
正真バトル編 第五話に続く。




