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火花散る屋上(正真バトル編 第三話)

「その名も『正々堂々真っ向勝負』、別名 正真せいしんバトルだよ」


正真せいしんバトル?なんだそれは。これが東雲のいう力づくなのか?


「何そのダサい名前。厨二病かしら。うちの新田でもあるまいし」


柏木さん?毒吐くのに俺を巻き添えにするのやめてくれるかな?ていうか俺は結構カッコいいと思ったんだけど。


「それで、正真バトルって一体なんなんですか?」


鹿苑の質問に対し、よくぞ聞いてくれたとばかりに反応したのは坂野。


「一年坊のお前らに教えてやろう。正真バトルとは部同士の揉め事を正々堂々の真っ向勝負で白黒つけるこの学校のルールのことだ。勝負に負けた部は勝った部の言うことを聞く。これが正真バトルだよ…」


最初こそ得意げに話す坂野だったが、最後はどこか歯切れの悪い様子だ。


「そう、これが僕の言った力づくの意味だよ。あー、そうだ。それと思い出したよ。君は去年、僕らホストクラ部に敗れて多目的室を追い出された新聞部の坂野君だったね。お久しぶり」


歯切れが悪かったのはこのせいか。

東雲の口ぶりからして、新聞部はホストクラ部に正真バトルを持ちかけられ、それに敗れて部室を追いやられた。俺たちと状況が一緒じゃないか。


俺は坂野の方に目をやると、坂野は冷めた笑みを浮かべてこちらに顔を向けた。


「そうだ。僕の新聞部はこの男率いるホストクラ部に活動場所を奪われてね。今の新聞部の活動場所は掃除用具室だ。おかげでこんなところで活動なんかできるわけがないと不満を漏らす部員が増え、今じゃ新聞部は僕を含め二人だけになった。笑えるだろ?」


坂野の表情は悔しさを通り越して諦めた人間のそれだった。普段は調子づいている坂野だが、今の姿とのギャップが当時の出来事の重さを俺たちに伝えてきた。


「笑えねーよ」


俺は東雲を睨みつける。


「笑ってあげた方がいいんじゃないかな?負け犬は負け犬らしく嘲笑されるのがお似合いだとも」


「俺は弱いものいじめが一番嫌いでな。お前みたいなのを見てると吐き気がしてくる」


飄々とスカしていた東雲の瞼がピクリと動いたのが見えた。


「ははっ、くだらない矜持だね。この世は弱肉強食だよ。君もあっちの眼鏡くんみたいに食べてやろうか?」


「誰が弱肉だよ。俺はあっちの眼鏡先輩とは違って一筋縄じゃいかねぇ。やれるもんならやってみろ」


穏やかな夏の空の下、恵星学園の屋上では火花が散っていた。


「その発言、僕らホストクラ部との勝負を受けるということでいいかい?」


「あぁ、やってやるよ。その腐った根性、俺が叩き潰してやる」


「全く、生意気な後輩だね、君は。それじゃあ、ホストクラ部と高援部で正真バトル決定だ。日時やルールは追って連絡が来るはずだ。それじゃあ、今日はこの辺で」


東雲は立ち上がり、出入り口の方へ歩いて行く。

東雲は扉の前で立ち止まり、こちらに振り返って一言呟いた。


「あ、そうだ。こちらが勝ったら君たちにはこの屋上を明け渡してもらうだけにしようと思ったんだけどね、僕はこうしようと思う。僕らが勝ったら君たちは廃部だ。せいぜい最後の時間を噛み締めることだね」


ドアノブに手をかけ、屋上を後にしようとする東雲に向かって、俺も一言呟く。


「その言葉、そっくりそのまま返す。せいぜい最後の時間で姫さまたちにちゃんとお別れしてやるんだな」


「減らない口だな」


重い扉がゆっくりと閉まり、屋上には再び俺たち四人が残った。


「新田…」


柏木が不安そうな瞳で俺を見つめる。それもそうか。またここに来て廃部の危機だからな。


「まぁ、不安な気持ちも分かる。でも安心しろ。俺がどうにかして、」


「じゃねーだろ!!!」


柏木の踵落としが俺の頭に直撃し、座っていた木製のベンチにはひびが入った。


「いてーよバカ!急に踵を人の脳天に振りかざすな!」


「あのさ、あんた様は何をしでかしてくれちゃってるわけ?なに、あれか?三年生の先輩がちょっとイキっててムカついてたからって自分もちょっとイキちゃった?今の俺カッコいいとか思っちゃってた!?」


俺は柏木の踵が当たった頭を撫でながら返す。


「あんだけコケにされて黙ってろって方が無理だろうが。男は売られた喧嘩は買わなきゃいけないもんなんだよ。うわ、タンコブできてる」


「おい、もじゃ毛。お前が無駄に挑発したせいでまたうちの部廃部しそうになってんだけど。どう落とし前つけんのこれ?」


「なんだか今日の柏木さん、語気強くない?いつもは『〜だわ』とか『〜よ』みたいな女の子っぽい言葉遣いなのに、今日は随分と男勝りな口調になってるわよ?乙女たるもの、言葉遣いはきちんとしなさいよ」


「お前殺すぞ」


ボキボキと拳の関節を鳴らしながら話す柏木。


助けて〜!鹿苑さん助けて〜!


「こらこら芽依さん、新田さんの言うように女の子がそんな乱暴な言葉遣いしちゃダメですよ?」


やはり鹿苑。いや鹿苑さま。日々俺たちの喧嘩を仲裁してくれる鹿苑には感謝しかない。そのおかげか、鹿苑が入部してからは凸凹コンビの高援部だったのが、なだらかトリオの高援部になっている気がする。


「芽依さん、お前殺すぞは乙女的にノーです。それを言うならこうです」


鹿苑はゆっくり深呼吸をし、口を開いた。


「てめぇ殺すぞ」


柏木同様に拳の関節を鳴らしながら言葉を吐き捨てる鹿苑。


「いや何も変わってないんだけど!」


どこか乙女的にノーだったのか教えろよ!お前がてめぇに変わっただけで乱暴な殺害予告に変わらないんですけど。


「あと、セリフの後にこうやって唾吐いたりするとより乙女っぽいですよ。ぺっ」


とんでもねぇ悪になってるよ鹿苑さん。一体どこでこんなこと覚えてきちゃったの?ねぇ。なだらかトリオのつもりが全然凸凸凹トリオだよ。俺だけ明らか窪んでるよねこれ。尖りすぎたよこの二人。


「やめないか、君たち。彼は僕のために怒ってくれたんだ。確かに無駄な挑発のせいで高援部の存続の危機になってしまったかもしれないが、新田くんの発言は何一つ間違ってはいない」


横で見ていた坂野が俺のフォローに回る。

確かに俺は、東雲にコケにされた坂野を庇うように怒ったわけで、少なくとも坂野からしたら俺は何も悪いことはしていない。


「そう、新田君は何一つ間違っていない。ある一つの発言を除いて」


「え?」


坂野は眼鏡を外し制服の胸ポケットにしまう。そして俺の方へ顔を近づけた。


「貴様殺すぞ」


お前も殺害予告かよ!つーかなんでこいつはキレてんの?俺助けたよね?坂野のこと庇ったよね?


「何があっちの眼鏡先輩とは違って一筋縄じゃいかないだ?あぁん?なに、僕のこと舐めてんの?僕のこと弱肉だと思ってんの?」


面倒くさいよこの眼鏡。別に誰もそこまで気に留めてない発言で一人でキレてるんですけど。そんだけ怒れる気力あるなら東雲にコケにされた時にキレろよ。


「はぁ、もう本当に呆れたわ」


正気に戻った柏木がため息をついた。


「でも、ちょっとカッコよかったわよ…」


柏木は照れまじりに話した。


「はい、私も東雲さんの発言にはイライラしてましたから。負けてませんでしたよ、新田さん」


「お前ら…」


「それで、勝てる見込みはあるのかしら」


「勝てる見込みと言ってもなぁ、ルールがまだ分からないんじゃどうとも。そうだ、眼鏡先輩。勝負の内容っていつも同じなんですか?」


「誰が眼鏡先輩だ。まぁ、勝負の内容はその時々によって違う。正真バトルが成立したら勝負を誘った側がその旨を正真バトルの運営をすることになる学校に報告する。今回の場合は東雲が届け出を出すはずだ。勝負の内容は早くて明日には学校から伝えられるだろう」


この先輩、聞けば何でも答えてくれるな。


「成立したらって言ってたけど、正真バトルって成立しないこともあるの?」


今度は柏木が坂野へ質問を飛ばす。


「あぁ、単純に勝負の申し出を断ればいい」


「「「え?」」」


「ちょっと待って。それって今回、私たちが東雲の誘いを断った場合、正真バトルは成立しなくて、尚且つ私たちが力づくで部室を奪われることもなかったってこと?」


「あぁ、そういうことだ。だってよくよく考えてみろ。正真バトルをお互いの承諾なしに行えるら、実力のある部活が好き勝手できてしまうだろうが。まぁ、今回はお前らが一年だから正真バトルの存在を知らないだろうと東雲は勝負をふっかけてみたんだろうな。承諾するような発言をするように仕向けたんだよ。やつは」


横の鹿苑と目が合い、俺たちはお互い冷や汗を垂れ流す。そして、柏木は俯いたまま坂野に質問を続ける。


「じゃあなんで、それを知ってるのに私たちが東雲の誘いになりそうになってるのを止めなかったの…」


癖なのか、坂野はまた眼鏡をクイッと動かし答えた。


「僕は新聞部だぞ?正真バトルなんて、年に二、三回あるかないかだ。それをあの華方のホストクラ部とまだ名前も売れてない弱小の高援部がするんだ。どう転ぶか分からないが、面白い記事が書けそうじゃないか?」


「…」


坂野の返答を聞いて黙りこくる柏木。


「あーあ、これ完全にキレてるよ」

「ですね。眼鏡さん、ちょっと歯食いしばった方がいいかもです」


「え、ちょっとどうにかしてよ新田くん。それになんで歯食いしばらなきゃいけないのかな?」


狼狽える坂野の背後にいつのまにか柏木が立っていた。


「お前殺すぞ」


「いや、ちょっ、待って、僕そういうのはNGで、」


「ふんっ!」


本日二つ目のタンコブが屋上に咲いた。



正真バトル第四話に続く。

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