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力づく(正真バトル編 第二話)

新聞部の坂野が取材に来てから4日が経った。


「君たちはこれでいいのか」


坂野は屋上で各々暇つぶしをしている俺たちを見て宣う。


「まぁ、良くはないですよね」


俺も現在の高援部の現状が健全だとは思ってはいないので、坂野に正直に答えた。


「でも依頼がこないんじゃねー」


柏木がぼやく。


柏木の言うことも間違ってはいない。依頼が来ないからこうして暇を潰しているだけで、依頼が来れば俺たちはしっかりと仕事をするつもりだし、坂野の取材のネタにもなってやりたい。ただ、夏休みということもあってか、いつにも増して依頼人は一向に訪れない。


一方の鹿苑は、坂野に対して少し面目なさそうな様子だった。


「すみません、坂野さんの期待に応えられず…」


最初こそ面倒なやつが来たと俺は思ったが、ここ数日間は坂野はあまり愚痴をこぼさず、俺たちの様子をただただ眺めていた。いつか来るかもしれない依頼を待って。


そのような態度をとられると、こちらとしても不甲斐なさというものが湧いてくる。


俺以外の二人も同じことを感じているのか、俺たちの間には少し重たい空気が流れていた。


「あのさ」


柏木がその重たい空気を破るように言葉を発する。


「どうした、柏木」


「いや、この部活ってこういう風に依頼が来ないとかボヤいてると依頼来るのよね?」


「あのな、毎回そんなこと起こるわけ」


トントン。


屋上のドアが屋内から叩かれる音がした。


「ほら来たわよ」


「ほら来たわよじゃねーよ。なんかこれじゃ俺たちが仕込みしてるみたいだろうが」


なぜこの部活は依頼の話をしだすと、こうもタイミングよく誰かが屋上に来るのだろうか。何者かの意思を感じざるを得ないの。いや、まだ今回の尋ね人が依頼人かというのは分からないのだが。


「おい、早くこちらに呼ばなくていいのか?」


坂野に声をかけられ、俺はハッとする。そして俺は、扉の向こうにいる誰かに向けて声をかけた。


「は、はーい!どうぞー!」


屋上の扉がゆっくりと開く。

屋上の扉は他の扉より頑丈にできているためか、その質量のせいで開くのが遅い。毎度毎度思うのだが、この重い扉を俺たち三人以外が開けて、こちらに顔を覗かせるまでの時間がこのせいで微妙に長いため、そのもどかしさでドキドキさせられて心臓に悪い。


さて、一体今回の依頼者はどんな人なんだろうか。


俺は例の如く、鼓動を少し早くさせながらゆっくり開く扉を見つめた。


「ご機嫌よう、ここが高援部かな?」


現れたのは黄色のネクタイをつけた金髪ロン毛の男。前髪はしっかりかき上げてセットしてあり、顔ははっきりと見える。背は高いが、少し飄々としており、強い男いうよりはエロい男という印象を受けた。それに首にはネックレス、腕にはブレスレット、他にも指輪やピアスなどのアクセサリーが身につけられており、とても高校に登校する格好とは思えない。一応、制服は着ているが。黄色のネクタイということは三年生か。


「は、はい。ここが高援部です」


男の奇抜さに気圧された俺は、少し戸惑いながら案内をする。


「ど、どうぞこちらに」


俺はパラソルがさされたテーブルの下へと男を連れ、パイプ椅子に座るよう促した。


「ご丁寧にありがとう」


男は礼を言い、椅子に座る。テーブルを挟んで男と対面にあるベンチに俺たち三人が並んで座り、いつもの布陣が完成した。


「彼はこちらには来ないのかい?」


一人、離れたベンチに座る坂野を見ながら男は聞く。


「あの人はうちの部員ではなくて、私たちを取材しに来た新聞部の坂野さんです」


「あー、どうりで見た顔だと」


男は坂野のことを知っているようだった。一方坂野の方はというと、何故かこちらを見ようとはせずに、明後日の方向を見ながらゆさゆさと貧乏ゆすりをしていた。


なんで苛立っているんだ、あの男は。

まぁ、いい。坂野のことは気にせずに目の前の男の話をまずは聞かないとな。


「それで、今日はどんな依頼でうちに?」


俺は男に尋ねる。


「いや、実は今日は依頼じゃないんだ」


そう言いながら、男は少し不敵な笑みを浮かべた。

どうやらこの男も依頼でここに来たわけではないらしい。坂野といい、この男といい、一体なんなんだ。


「はぁ?依頼じゃなきゃ何なのよ。まさかあの男と一緒で取材だーとか言わないわよね?」


俺と同じことを考えていたのか、柏木は少し語気を強めに男につっかかる。


「そうだ、自己紹介がまだだったね。初めまして、3年 東雲翔太 恵星学園ホストクラ部の部長だ」


ポカーン。


俺たち三人は東雲の自己紹介の内容に唖然としていた。


何言ってんの、この人。恵星学園ホストクラ部ってなに?ホストクラ部ってホストクラブのことを言ってんの?ならホストクラブ部でいいじゃん。ホストクラ部って字面がなんか微妙にだせーよ。つかなんで高校にホストクラブがあるんだよ。


「いや、ホストクラブ部だとブが連続で続いて言いづらくないかい?」


なんでこいつは俺の心の声に反応してんだよ!今までにはいなかったタイプで怖いんですけど。


「どうせならホスト部でどうかしら」


ホストクラ部の名称に異議を唱える柏木。


「いやそれだと、クラブ感がない。ただホストっぽいやつが教室に集まっているみたいな感じがするじゃないか」


どっちでもいいわ!


ったく、今回もまた頭がおかしなのが来た。しかも東雲は坂野と同じで依頼ではないときた。では、東雲は何の用件で一体うちの部に来たのだろうか。


「そうだ。話の続きがまだだったね。僕がここに来た理由は一つ。君たち高援部にはこの屋上を僕らホストクラ部に明け渡してもらいたい」


東雲の発言に困惑する一同。


屋上を明け渡す?一体どんな料簡でこんな突拍子もないことを宣っているんだこの男は。


「ま、待ちなさいよ!屋上を明け渡せってどういうこと!」


立ち上がって東雲に問いただす柏木。


「まぁまぁ、落ち着きたまえよ。僕たちホストクラ部は現在、一つ下の階の多目的室を放課後に部室として活動しているんだが、どうにもキャパが狭くてね。日々増えていく姫たちに対して部屋が一つじゃ部が回らないんだよ。そこで、多目的室とも比較的近く、大きいこの屋上を僕たちの第二の部室としたいんだ」


なるほど。東雲は俺たちをどかしてさらにホストクラ部の活動場所を拡張したいと。多目的もそこそこ広いが、そこにこの屋上も加わればそれなりの規模の運営が可能だ。ていうか高校の部活なのに運営ってなに?姫ってなに?


「嫌ですよ?私たち」


意外にも東雲へ否定の言葉をいの一番に発したのは鹿苑だった。


「そんなこと頼まれても私たちは屋上を明け渡したりなんかしません。ここは私たちの大切な部室なんです。今までも、そしてこれからも」


普段は穏やかな鹿苑。今も一見穏やかそうに発言しているが、この数ヶ月間を共にした俺たち二人には鹿苑が今までで一番怒っているのが分かった。


「そうか、それなら仕方がない。この屋上は、力づくで奪うまでだ」


東雲の言葉に疑問を感じた俺は口を開く。


「力づく?」


「あぁ、そうだ。力づくで奪う」


「はっ、何言ってんだあんた。力づくって、俺たちを殴る蹴るでもするのか?んなもん、学校が許さないだろ」


先ほどまで俺たちの様子を傍観していた坂野の眼鏡が再びくいっと動いた。


「あるんだよ、この学園には。力づくでも部室を奪う手段がな」


俺たちとは一つ離れた横のベンチで坂野が話す。


「君たちはまだ一年生か。なら知らないのも無理はない」


勿体ぶって核心の情報をすぐには話さない坂野に、柏木が苛立った様子で迫る。


「あんた、何か知ってるんでしょ?なら早く話しなさいよ」


「あ、あぁ、分かったよ。この学園は他の高校と比べて部活動が盛んだ。それに伴って部の数もかなり多い。これは知っているな?」


「え、えぇ」


そう、ここ恵星学園は部の数が他校と比べて圧倒的に多い。その影響でどの教室も使えない俺たちはこの屋上に追いやられたわけだ。ホストクラ部の部長さんはこんな部室が欲しくてたまらないらしいが。


「そのせいか、この学園では昔から部同士の諍いが絶えなくてな。活動内容が被っているだの、部の名前が紛らわしいだの。今回のように活動場所を寄越せなんてな」


前半の二つはどうでもよくない?


「いや、よくないよ。僕らのホストクラ部も数年前にホストクラブ部とは大きく揉めたらしいからね」


だからこいつは心の声を読むんじゃねーよ!

ていうかホストクラブ部存在したのかよ。


「そんな部たちの争いを見かねた教師陣が校則としてルールを一つ設けたんだ」


坂野の眼鏡のレンズが怪しく光った。


「その名も『正々堂々真っ向勝負』、別名 正真せいしんバトルだよ」



正真バトル編 3話に続く。

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