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芽依と愛依 (夏祭り編 第二話)

吉村の依頼から翌日、柏木の秘策とやらで、俺たちは放課後の屋上に集まった。高木先輩は受験のための補講があるらしく、今日は不参加だ。


「あのー、肝心の柏木さんの姿が見えないんだけど」


と先ほど到着した吉村。


「あのバカ、まだ来ないのか?」


「おかしいですね、もうすぐ着くと先ほど連絡があったんですが」


そんな会話をしていたところ、屋上の扉がゆっくりと開いた。そこに現れたのは柏木と柏木が連れてきたであろう人物。


「なぁ、あれって…」


「えぇ…」


俺たちは顔を見合わせて困惑の表情を浮かべる。


「ほら、みんなに挨拶して」


柏木が横に立つ人物にそう急かすと、腕を組んで足を大きく開き、自己紹介を始めた。


森野もりの小学校一年、6歳、柏木愛依かしわぎあいよ!」


俺たちよりうんと若いその少女は、自己紹介を終えるとプイッとそっぽを向いてしまった。


「こら愛依ちゃん、お姉ちゃんの友達にそんな態度とっちゃダメだよ?」


「ふんっだ。あいつらだって初めて会う私にちゃんと挨拶しないじゃん」


柏木は俺たちに早く挨拶をしろとばかりに目配せをしてくる。なんでこんな生意気なガキのご機嫌取りをしなければならないんだ。


「芽依さんと同じ一年の鹿苑茜です。お姉さんと一緒にここで部活をさせていただいてます。よろしくお願いします」


いち早く折れた鹿苑が生意気な少女に向けて自己紹介をする。そしてそれに吉村も続いた。


「お、同じく一年の吉村大輝です。お姉ちゃんと部活は違うけど、よろしくね」


俺が二人の言葉に続くことなくいると、少女の後ろにいる柏木が拳と拳を打ち合わせて、お前も何か言わないと殴るぞというメッセージを送ってきた。


仕方がないので俺は適当に挨拶を済ます。


「新田将也、よろしく」


俺の自己紹介を聞いた少女が俺の下へと無言でトコトコ歩いてきた。


「なんだよ」


少女は無言のまま俺を見つめてくる。数秒間の沈黙を遮るように少女の右足が動いた。


「フンッ」


「いて!」


動き出した少女の右足が俺の足にクリーンヒットする。


「何すんだ、このクソガキ」


「あんたの態度が悪いからよ。ね、お姉ちゃん」


…ズコン!


こちらに近づいてきた柏木によって少女はゲンゴツをくらう。


「い、いたぃ…」


「コラ!初めて会う人にそんなことしちゃダメでしょ。ごめんね、新田。痛くない?」


「い、いや、痛くないが…」


日常的に暴力を振るってきた人が言うセリフなんですかね。もしかして初めて会った人じゃなきゃセーフなのか?


「改めてこちら、私の妹の柏木愛依ちゃん。みんな、よろしくね」


少女の正体は柏木妹。先日柏木から見せてもらった写真より一回り大きくなっている印象。とはいえ俺たちからしたらサイズは大分小さい。


「ほら、愛依ちゃんも」


「よ、よろしくお願いします…」


泣きながら頭を下げる愛依の姿に柏木の面影を見る。見た目もさることながら、普段は勝気なのに泣いたら素直になるところとかそっくりだ。


「よろしく。それで、なんで妹をわざわざ高校に?」


「そりゃあ、これのためよ。ほら」


柏木は愛依の髪に留まっているヘアピンをツンツンとつつく。そのヘアピンは昨日話していたガリペンのヘアピン。なるほど、話の大筋が見えてきた。


「まさか、愛依さんにガリペンについて教わるんですか?」


「ふふーん。さすがあーちゃんね。そうよ、今日はそのために連れてきたの」


偉そうにそう続ける柏木だったが、不安しかない。こんなほぼ幼児みたいなやつに任せて大丈夫なのか?いくらガリペンが好きだからといってその知識の信憑性が怪しい。


「何よ?」


俺が向けていた視線に愛依が気づく。


「いや、なんでも?」


俺たちがバチバチ威嚇し合っているとそれを仲裁するように吉村が割って入る。


「ほらほら、今日はガリペンについて教えにきてくれたんでしょ?新田くんもそこら辺で。相手は小学生なんだから」


たしかに吉村の言う通りだ。こんなガキんちょに付き合うほど時間の無駄だな。


「そうよ、二人とも仲良くしなさい」


今日は妹がいるからか、どこかお姉さんらしい立ち回りをする柏木。でもこの妹、明らかに姉の悪いところを見て育ってるよな…。


「ったく。姉が姉なら妹も妹だな」


「今なにか言ったかしら?」


ボソっと呟いたつもりの俺の言葉が柏木の耳に届いてしまったらしい。


「別に。何も言ってねーよ」


「あのさ、前から言おうと思ってたんだけど、新田のそういうねちねちしたところ本当嫌い。だから未だに男友達ができないのよ!」


「はぁ?お前だってクラスじゃ誰とも話してねーじゃねぇか。たまたま新しく入部してきた鹿苑が女子で、校内でつるむやつができたからって調子乗んなよ」


「うっさいバカ新田!新田は気づいてないかもだけど、お昼にあーちゃんが教室に迎え来てくれるとき、こっちを恨めしそうに見てるのバレバレだから。混ぜてほしいならそう言いなさいよ!」


「いいよお姉ちゃん、もっと言っちゃえー!」


熱を帯びた俺たちの舌戦はとどまることを知らず、愛依のガヤを交えながら続く。


一方、それを側から見ていた鹿苑と吉村。


「俺、部活休んでまで今日は来たんだけどな…」


「どうやら新田さんと柏木家の相性は最悪みたいですね。本当にすみません、うちの部員が…」


「い、いや、鹿苑さんを責めるような意味で言ったわけじゃないから」


「分かっています。でもこれはさすがによろしくないですね」


「え、パイプ椅子なんて持って何を…」


絶賛喧嘩中の3人のもとへパイプ椅子片手に歩みよる鹿苑。


「あのー、お三方とも今すぐ口論をやめていただけますか?」


「なんだよ鹿苑、邪魔すんなよ」

「そうよ、あーちゃんは引っ込んでて」

「そうだ!そうだ!」


ドーン!!!


パイプ椅子の角を思い切り地面に叩きつける鹿苑。屋上のタイルにはうっすらとヒビが入った。


「やめていただけますか?」


「「「はい」」」


高援部の力関係が更新された瞬間だった。



「では早速依頼の方を進めましょう」


「「はい」」


文字通り、鹿苑の"力"によってテーブルに一堂に会した俺たち。ベンチには依頼者である吉村。その対面にパイプ椅子で座る俺たち。いつもの布陣である。柏木の膝の上に座る少女を除いて。


「それじゃあ、愛依ちゃん、ガリペンについて教えてもらえる?」


「うん。ガリペンはね、なんかガリガリでペンギンっぽいやつだからガリペンなの」


それは前にも聞いたな。


「ガリペンの元ネタってなんなんだ?漫画とかアニメとかが原作なのか?」


「漫画が原作よ。ネットで連載してるからママの携帯とかお姉ちゃんのスマホで読んでるの。公式で無料で公開してるから誰でも見れるわよ」


「え!?私のスマホ使って読んでるの?」


こくりと頷く愛依。柏木の反応からして愛依が自分の携帯を使って漫画を読んでいることは知らなかったようだ。確かに、それを知っていれば昨日の段階で柏木がいち早くガリペンの存在に気づいていたか。


「ねぇ、愛依ちゃん。ネットってことは何かのサイトとかにアクセスするわよね?もしかして私の検索履歴とかって見たの…?」


どうやら柏木のスマホには見られちゃいけない検索ワードがあるらしい。


「お前、人に見られちゃいけないような検索してるのか。メモメモ…と」


「め、メモるんじゃないわよ!それで、どうなの、愛依ちゃん」


「見てないよ。家族のそういうの見たくないから私だけ違うブラウザ入れて読んでるわ」


「そ、そっか」


胸を撫で下ろし、ホッとした様子の柏木。


この妹、本当に小学一年生か?ブラウザとかの知識もそうだが、気配りの仕方が年齢に見合ってないんですけど。もしかして結構頭良かったりするんだろうか。


「それでガリペンってどんなお話なの?」


対面に座る吉村が愛依へ質問をとばす。


「いや、無料で読めるらしいし、みんなで今から読めばよくないか?愛依、話数はどれぐらいか分かるか?」


「うーんとね、80話くらい」


ページ数にもよるが、それなら2時間もあれば読破できそうだな。


「なら決まりだな、これからみんなで読もう。まだ日が沈むまで時間がある」


「でもなんで私たちまで読む必要があるのよ」


「俺たちがガリペンについて知らなきゃ、秋元に対してのアプローチの仕方を吉村に教えられないだろ。どういう風なガリペンの話題を振ればいいとか」


「たしかに」


「新田さんの言う通りですね。ここは皆んなで読書としましょうか」


こうして俺たちはガリペンを全員で読むことになった。



スマホと睨めっこをすること約一時間。屋上には静寂が流れていた。鹿苑が漫画の読み進め方が分からなかったり、柏木がサイトまで辿り着けなかったりと、初めこそ会話があったものの、現在誰一人としてスマホから目を離すことはない。ガリペンに見入っている証拠だろう。かくいう俺も夢中で読み進めていた。


「なぁ、柏木。お前どの辺まで」


「今いいところだから話しかけないで」


「お、おう」


「鹿苑は?」


「今いいところなんです。話は終わった後に聞きます」


「吉村は?」


「今いいところだから、後でいいかな」


「…」


俺は黙ってスマホの電源を再びつけた。



全員がガリペンを読み終えてから30分ぐらいが経った。先ほどまでとは打って変わり、静寂に包まれていたはずの屋上は俺たちの声で賑わっている。


「あそこのシーンめっちゃ良くなかった?」


「いやー分かってるね、柏木さん。俺もガリペンがインターハイ決めたシーンは泣いた。めっちゃ泣いた。同じバスケ部員として滾るものがあったよね」


「うんうん、自信のなさが欠点だったガリペンが今までの先輩たちとの練習思い出して最後の点決めたのは胸熱すぎたわ。私も今すぐバスケしたい!」



対面のベンチで盛り上がる柏木と吉村。そしてこちらでは。


「だから俺はエンペラーちゃん派だって言ってるだろ?普段はツンツンしてるけど、なんだかんだガリペンのために行動するあの健気さがいいんだろ」


「いいえ、私は断然シュレーターちゃん派です。あの未知な感じがたまらないんですよ。実際ガリペンもシュレーターちゃんのこと気になって目で追ってますし」


「いやいや結局は正ヒロインのアデリーちゃんよねー。素直で明るくて、思いやりもある。たまに見せるお茶目な一面なんかもグッとくるわ。こういうのでいいんだよっていうヒロイン像を詰め込んだ感じよ」


俺、鹿苑、愛依の3人でどのヒロインが一番いいかで議論が白熱していた。


いやこのままじゃ駄目だろ。


このまま語り合いたいという欲を殺して、俺は吉村の依頼に向き合うことにした。


パチン!


俺は両手で音を鳴らし、全員の気をこちらに向けた。


「よし、そろそろ本題に戻ろうか。ガリペンを読み終えた諸君らに聞く。何かいいアプローチの方法は思いついたか?」


「いやそんなの、ガリペン好きなのーって聞けばよくない?秋元さんっていつも一人なんでしょ?きっとガリペンを語り合う仲間が欲しくてたまらないはずだわ」


「芽依さんの言う通りだと思います。同じガリペン好きなら変に作戦を立てる必要もないです。ガリペン愛だけでどうにかなります」


「吉村はどうだ?」


「俺も変な小細工はする必要ないと思う。不思議と今なら秋元さんと話せそうな気がするんだ…」


「決まりだな。結局俺たちが吉村に何かしてやれることはなかったが、あとは大丈夫か」


「そんなことないよ。新田くんたちのおかげでガリペンについて知れたわけで。愛依ちゃんもありがとう」


「別にお礼なんかいらないわよ」


プィッとそっぽを向く愛依。おそらく照れ隠しだろう。


「俺、行ってくるよ!秋元さんと友達くらいにはなってみせるさ!」


「ああ、行ってこい」


読後のホワホワした空気を纏ったままの俺たちは駆け出した吉村の背中を見送る。


「成功するといいわね」


「そうだな」

「そうですね」


結局この後、部活もしていない秋元が学校に残っているはずもなく、何の成果も得られなかった吉村が屋上に舞い戻ってきて、今日のところは解散となった。肝心の作戦の決行はでるだけ早い方がいいと判断し、翌日の昼休みとなった。


吉村の行く末はいかに…。





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