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恋バナ(夏祭り編 第一話)

一学期も終盤にさしかかり、太陽も容赦がなくなってきた日の放課後、俺たちは今日も屋上に集まっていた。


「なぁ、最近鹿苑とやけに気まずいんだが。やっぱり三人でファミレスに行ったあの日何かあったんじゃないのか?」


俺は奥のベンチで一人、読書を嗜む鹿苑を見つめながら呟く。

鹿苑が高援部に入部してから1週間が経った。だと言うのにあの日以来、鹿苑に話しかけてもすぐに会話を打ち切られ、目もまともに合わせてくれない。柏木はおそらく何らかの事情を知ってはいるが、俺と鹿苑の仲を取り持とうとはしない。


「きっとそのうち元通りになるわよ。だから今はそっとしといてあげなさい」


「そうは言ってもな、今後ずっとこのままだったらどうするんだよ」


正直、今の高援部の空気はあまり良くない。俺と鹿苑の間にある謎の確執が部全体の雰囲気にまで影響しているのだ。少人数の部活だと部員同士の不仲による影響がより顕著になる。


「んー、依頼でも来れば話すようになるんじゃないの?嫌でも共同作業はしなきゃいけないしねー。きっとあーちゃんも新田のこと本気で嫌ってるわけじゃないし」


「なるほどな。ま、確かに言えてる。鹿苑は私情を仕事に持ち込むタイプの人間には見えないし。ここいらで何かやり応えのある依頼が来てくれれば助かるんだが」


噂をすればというもので、久方ぶりに屋上の扉が俺たち以外の手で開かれる。そこに現れたのは男子生徒二人組で、片方は見覚えのある顔の男だった。


「あ、高木先輩じゃないですか!」


あれは夏が本格的に始まる少し前。俺と柏木の誤解のせいで告白が失敗したと思い込み、さらには俺たちにわけもわからず殴られた先輩。色々あって、最終的には意中の折口先輩と付き合えた高木先輩だったが、あれから俺たちが話したことはなかった。


「やあ、久しぶり。新田くん、柏木さん。もう一人いるのは新しい部員の子?」


「こんにちは、一年鹿苑茜です。先週この高援部に入部させていただきました。よろしくお願いします」


「茜…。へー、朱音ちゃんと同じ名前だ。あ!あのね、朱音ちゃんってのは僕の彼女で、彼女とは幼い頃からの付き合いだったんだけど、2ヶ月くらい前にね、僕が彼女に告白しようと呼び出したところ、彼女から告白されちゃってね。いやー、参った参った。それからというもの校内でもずっとくっつきぱなしでね。可愛いのなんのって…」


高木先輩の彼女である折口朱音と鹿苑の名前が一緒だったことが高木先輩が惚気る契機になってしまったようだ。それを面と向かって聞かされていた鹿苑は終始苦笑いで、無駄な情報をいなすように適当な相槌で対応していた。


「め、芽依さん…!なんですかあの人、一生惚気が止まらないです。正直もう聞いていられないんですが」


「まぁまぁ、許してあげてよ。きっと今が一番幸せな時期なんだって」


いよいよ惚気を聞いていられなくなった鹿苑が高木先輩を尻目に柏木に助けを求める。しかし、救助を得られずに意気消沈としていたところで、高木先輩の後ろにいた男子生徒が口を開いた。


「高木先輩、高援部の人たち困っちゃってますよ!」


「あ、ごめんね!つい」


ようやく高木先輩の口が止まり、俺たちはそっと一息ついた。


「もう、全く。ごめんね、うちの高木先輩が。うるさかったら全然言ってもらっていいから」


後ろの男子生徒が俺たちに高木先輩の非礼を詫びる。


「あーいや、高木先輩が幸せそうで何よりです」


一時は俺たちのせいで破局しかけたからな。


先ほどから気になっていたがこの男子生徒は一体。

高木先輩との関係も気になるところだ。


「それより君は?俺たちと同じ一年みたいだけど」


男のネクタイの色は青で、俺たちと同じ学年であることが分かる。


「俺は吉村大輝よしむらだいき、一年C組だよ。高木先輩とは中学からの付き合いで、相談事があるならここだと」


「僕が紹介したと言うよりかは朱音ちゃんがね」


「つまり依頼ってことね。暑いしこっちで話しましょ」


柏木が二人をパラソル付きのテーブルに案内する。

高木先輩と吉村がベンチに座り、俺たち三人がその対面に設置したパイプ椅子に座ってテーブルを囲む。


距離が近くなり、テーブルを囲む全員が汗ばんでいるのが分かる。気温が高く、日差しもより一層強く感じられるようになってきてからはこのパラソルも意味がないような気がしてきた。何か新しい暑さ対策を考えないとな。


「で、今日はどんな依頼でここに来たの?」


柏木が吉村に尋ねる。


「じ、実はクラスに気になる子がいてですね…」


先ほどまで流暢に話していた吉村が下を向いたまま少し照れ気味に答えた。


「というと!?」


柏木が身を乗り出して食い気味に吉村に迫る。

さっきの時点でどのような依頼か大方検討がつくが、柏木は吉村の口からその内容を聞きたいらしい。最近は雑用やそれに近い依頼しかなかったからか、久しぶりの面白そうな依頼に柏木は興奮しているようだ。それに恋愛要素が絡むとなれば尚更か。


吉村が柏木の気迫に気圧されているのが見て取れたので柏木を静止する。


「おい、柏木」


「ご、ごめん」


「うちのバカがすまんな」


「い、いや大丈夫」


吉村は深呼吸をしてから話を切り出した。


「お、俺、その子が好きなんだ。でもその子との近づき方が分からなくて、どうしようかと思って」


吉村がはっきりと依頼内容を口にしたとき、横の女子二人はというと、胸の前で手を合わせて目を輝かせていた。


「キャー!愛の告白、生で聞いちゃったー!」

「わ、私、過度のドキドキで心不全寸前です!」


「お、お前ら、依頼人の前なんだから少しは慎めよ」


「しょうがないでしょ。女の子はこの手の話には目がないのよ」


柏木は何を言ってるんだ?高援部の女子部員は鹿苑一人のはずなのだが。


「女の子って…」


「ねぇ、新田。なんか言った?」


柏木が笑顔のまま詰めてくる。

どうやら心の声が漏れてしまっていたらしい。

ここでまた変なことを言うと一発お見舞いされそうだったので大人しくしておくことに決める。


「い、いや、何でも。女の子は恋バナとか好きだもんねぇ…」


「うんうん、分かってくれたならいいの」


チラリと見えた柏木の握り拳が引っ込んでいくのが見える。やはり一発お見舞いするつもりだったらしい。


俺たちが一触即発の状態になっている横で高木が鹿苑にひっそりと話しかける。


「ねぇ、鹿苑さん。君たちはいつもこうなの?」


「私はまだ1週間しか一緒に活動していませんが、大体こんな感じですね」


「そ、そうなんだ。大丈夫かな…」


「高木先輩?どうかしました?」


俺は高木先輩の様子が少しおかしいのに気づいて声をかける。


「い、いや、なんでもないよ!」


気のせいだったか。それはそうと依頼だ。横のバカのせいで脱線してしまった。


「ご、ゴホン!つまり吉村は俺たちにその子と仲良くなるための手伝いをしてほしいということだな?」


「うん、そういうこと」


とはいえ、冷静になって考えてみると俺たち三人の中に恋愛経験のある人間はいない。だがその中には横の女子二人も含まれる。たとえ恋愛経験がなくとも、こうされた方が嬉しい、こうされた方が印象がいい、などの女子目線での意見は出てくるはずだ。柏木は怪しいが鹿苑からの意見は期待できそうだ。それを吉村には実践してもらうことにしよう。でもまずは吉村とその女の子が今どのくらいの距離にいるかを聞かなければな。


「よし、まず一つ聞くが吉村とその気になる女の子は今どんな関係なんだ?学校で少し喋る程度なのか、家でも連絡し合う仲なのか」


現状で学校で少し話す程度の仲だとすれば脈アリかどうかは判断がつかないな。向こうはただのクラスメイトだと思ってる可能性の方が高い。逆に家でもメールや電話などで連絡を取り合っているとすれば可能性はうんと上がる。正直俺なら勝ちを確信して告白まで行ってしまうかもしれないな…。


そして吉村が俺の質問に答える。


「じ、実はまだ一回も喋ったことがないです…」


ん、終わった。


いや、厳密に言えば始まってすらないのだが。


「え、じゃあなんでその子のこと好きになったのよ」


確かにそれは気になる。今度は柏木が吉村に質問をぶつけた。


「彼女、クラスであまり誰かと群れることはなくて、その凛とした感じがカッコいいなって思って。そしたらいつのまにか目で追うようになって…」


「ふーん、なるほどね。私と同じタイプね…」


「お前の場合、群れたいけど群れる相手がいないだけだろうが」


俺がボソッと呟く。


「殴るわよ?」


どうやら柏木に聞こえてしまっていたらしい。

というかそのすぐに暴力でねじ伏せようとするのいい加減やめません?


「吉村さんは彼女をずっと目で追っていたんですよね?何か彼女の趣味や嗜好などは掴めなかったんですか?」


今度は鹿苑が吉村に尋ねる。

さすが趣味が人間観察の鹿苑。いい質問をする。


「もしかしたら彼女は可愛いものが好きなのかも。この前スクールバックにデフォルメが効いてるペンギンのキーホルダー付けてるの見たし。それにスマホケースも同じペンギンのやつだった!」


軽く今までの情報を整理する。そして俺の中で例の彼女とやらの大体の像が形作られていく。


うん、ギャルだな。

それも勝ち気な感じの。


学校では一匹狼で立ち回ってて、案外可愛いものが好きとか確定ですよね。数多のラブコメを視聴し、数多のヒロインを見てきた新田さんが言うのだから間違いないのですよ。


「そのペンギンが何のキャラだか分からないの?もしアニメのキャラとかだったらそこから話題広げられるだろうし」


柏木の言う通りだ。初めて話しかけるきっかけには丁度いい。


「ごめん、あのペンギンがなんなのかはちょっと…」


「では特徴を教えてもらってよろしいですか?もしかしたらここにいる誰かなら分かるかもしれません」


「確か、細長くてガリガリで頭が少しハゲてたかな。身体の色は普通のペンギンと一緒で黒と白の二色だよ」


それ、可愛いのか?

ペンギンってあの丸っとしたフォルムが可愛いんじゃないのか?なんだ細長いって。しかもガリガリだしハゲてるらしい。


「どうだ、柏木、鹿苑。分かりそうか?」


俺が横の二人に尋ねると二人とも分からないと首を横に振る。


当然俺も知らない。だって人気なさそうだもん。絶対可愛くないし。


「あ!」


「高木先輩、どうしました?」


「あ、いやね。僕もそのペンギンについては知らなかったんだけど、今ダメ元で朱音ちゃんに聞いてみたら知ってるって!」



「それでそれで?一体なんのキャラだったの?」


「なんかガリガリでペンギンっぽいやつ、略して『ガリペン』だって!」



もろち○かわのパクりじゃねぇかよ。ていうかペンギンっぽいってなんだよ。そいつはペンギンじゃねーのかよ…。


「あー!ガリペンか!うちの妹のつけてるヘアピンが確かガリペンのグッズだった気がする」


横の柏木がガリペンのワードに食いついた。そういえばこいつも変なミツバチのヘアピンいつもつけてるよな。妹も変なペンギンのつけてるみたいだし血筋か。


「ほらこれ」


そういって柏木がスマホの画面を俺たちに見せてきた。


そこに写っていたのはおそらく小学校低学年ほどと思われる柏木妹の姿。


「柏木がそのままちっこくなったみたいだな」


他の三人も同じような反応を示す。


「そうじゃなくてこれよ、よく見て」


柏木が指差したのは柏木妹がつけているヘアピン。


「あー!これだよ、秋元さんがつけてるやつ!」


吉村が気になる女子は秋元というのか。どうやら秋元が好きだというペンギンのキャラはガリペンで間違いないみたいだ。


「じゃあこれでガリペン関係の話が秋元さんとできるな」


「でも俺、ガリペン全く分からないし」


「そんなの今から知識つければ問題ないだろ」


「ふふっ、私に秘策があるわ…。明日もまた同じ時間に来なさい!」


柏木は不敵な笑みを浮かべて自信満々な様子。たまにはこいつに任せてみるのもいいかもしれない。


そんなこんなで話はまとまり、俺たちは翌日にまた集まることになった。



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