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番外編 クリスマス 最終話

「んっ…」


目を開くと俺の視界には保健室の天井が広がっていた。


「ここはあの世か」


「いいえ、保健室です」


鹿苑が寝ている俺の横で椅子に座っている。


「俺はどれくらい気失ってなんだ?」


「20分ほどですかね。そこまで時間は経っていませんよ」


20分か。確かに思ってたより時間は経過していないが…。


「サンタは?まだ見つかってないのか」


「はい、皆さん苦戦しているようです」


そういえば柏木の姿がない。あいつは一体どこに行ったんだろうか。


「柏木はどこに?」


「お手洗いです。そろそろ戻ってくるころだと思います」


「そうか。別に俺を置いて二人でサンタ探しに行ってもよかったんだぞ?」


「芽依さんが言ってたでしょう?みんなでやりたいって。だから新田さんが起きるのを待つことにしたんです」


「すまないな」


「いえ、私も三球ほど投げさせてもらったので看病はしてあげないとなって思ってましたから」


ん?この子は一体何を言っているの?


「お前も一緒になって投げてたのか?」


「はい。最近の新田さんのデリカシーのない発言にはイライラしてましたので。その分だけ投げさせていただきました。もう一球投げようとしてたら芽依さんに止められましたが…」


柏木が止めるレベルってどんな威力の球投げてたんだよ。しかも四球目とか確実に死体蹴りだろ。どんだけ鬱憤たまってたんだ。


「そ、そうか。これからは気をつけるよ」


早く柏木に会いたい。この人怖いよぉ…。


「確認だが、最後のヒントはサンタは仮面を被っているだったよな?」


「はい」


これまた訳のわからないヒントだ。運営は本当に解かせる気あるのか?進学校でそれなりに頭の良い人間も多いこの学校の中でまだ正解者がいないって中々の難問だろ。


「まだ続ける気なんですか?」


「ここまで来たらもう意地だな。三度目の正直といかせてもらうじゃないか」


「ふふっ。その意気です」


「俺が寝てる間に何か思いついたか?」


「色々考えてはみましたが、三つのヒントが当てはまるような人物は思い浮かびませんでした。一つ一つのヒントに該当するような人物はいても、共通してヒントに通ずるものをもつ人は誰も…」


「そうか」


今までのヒントは三つ。


「サンタはトナカイの横にいる」

「サンタはすでに鐘を鳴らした」

「サンタは仮面を被っている」


まずは一つ目のヒントからだ。最初俺はトナカイは場所を表しているんだと思った。だから思いついたのがカランコエが咲いている花壇だった。けど、トナカイが場所を指しているという決めつけはできない。さっきの推理のようにトナカイが人物を指している可能性もある。鹿苑のようにトナカイに関連した何かをもつものが校内にいるかもしれない。


次に二つ目。鹿苑の吹部の誰かにサンタがいるという説は未だ否定しきれない。もし何も浮かばないようならここを洗うしかないかもな。俺が考えていた鐘が学校のチャイムだという考えは横田のくだりで否定された。未だ俺たちが思いついていない鐘に該当するものがあるかもしれないし、まだ考える余地は一つ目同様に残されている。


最後に三つ目だ。仮面を被っているとあるが、これもこれまでのヒント同様何らかの比喩だろう。そもそも仮面を被る意味ってなんだ?顔を隠す、つまり正体を隠すためか…。いや、サンタ役は元々正体を隠して行動しているんだからわざわざこんなヒント出す必要はない。でも運営はこのヒントを出した。正体を隠して行動しているということを強調したいがためのヒントか?つまりサンタは…。



「ただいまー。ってやっと起きたんだ」


俺が考え込んでいたところに柏木がカーテンを開けて戻ってきた。柏木はカーテンを戻さずに開けたままにして座った。


隣も誰か寝てるのか。


隣のカーテンが閉まっているのが見えたためだ。まぁ、そんなこと今はどうでもいい。


「起きるの待っててくれたんだって?ありがとな」


「べ、別に考えるくらいならあんたのこと看ながらだってできるし」


「ふふっ、本当かわいいですね。芽依さんは」


「な、なによー!」


またまたイチャつきだす二人。


「おいおい、イチャつくのもいいけどほどほどに」


隣のカーテンの奥にいる患者が起きたのか、カーテンに影が浮かび上がる。


「おい、お前らもう出るぞ」


「え、なんでよ。もう身体はいいの?」


「あぁ、ここにいてはならない。今からここは戦場となる」


隣のカーテンに浮かび上がった影は二つ。四つん這いになった一つの影の後ろに、くっつくように膝立ちしている影がもう一つ。


「あと絶対に振り返るなよ?仲間の死を惜しむのは今じゃない」


「はいはい、あーちゃん行こ。新田お得意の厨二芸だから変に相手するより従ってた方が楽だからさ」


「え、えぇ」


柏木いつもありがとうね。


「よし、それでは離脱するぞ」


俺たちはクリスマス仕様の保健室を後にした。



「ふぅ、温まるな」

「そうねぇ」

「ふぁい〜」


「って、またまた三人揃って何やってるんですか!」


鹿苑がストーブの前で温まる俺たち二人を咎める。


「あのな、鹿苑。このストーブは言うなればセーブポイントなんだよ。ここで温まらなければ寒さで記憶が飛んでしまうんだ」


「適当言わないでください。それにサンタ探しはどうするんですか!」


「そのことなんだが、サンタが誰か分かった」


「「え?」」


柏木と鹿苑が二人して間抜けな声を出す。


「本当なの?新田」


「あぁ、今回ばかりは間違いない」


「じゃ、じゃあ今すぐサンタを捕まえに行きましょうよ!」


「いや、その必要はない」


「どういうことです?」


なぜならば…。


「その前に屋上へ行こう。せっかくならこんなシケたところじゃなくて空に1番近い、サンタに1番近い場所でサンタを当ててみせようじゃないか」


渋々了解した二人とともに俺は階段をのぼる。そして屋上への扉を開けた。


「なんだか屋上に出るのも久しぶりね」


「あぁ、そうだな」


真冬の屋上はとても寒く、吹き抜ける風が体の芯を冷やしていく。


「それで、一体誰がサンタなのよ」


「私も気になります」


俺は二人の方へと振り返り、一呼吸する。


「サンタはお前なんだろ。柏木」


俺の言葉を聞いて狼狽えている鹿苑とは対照的に柏木はピクリともしない。


「なんで私がサンタだと思うの?」


「そりゃあ全部のヒントに当てはまるのがお前だからだよ」


「芽依さん、本当なんですか?」


黙りこくる柏木。


「まず一つ目のヒント。サンタはトナカイの横にいる。結局このトナカイは鹿苑を表していたんだ。あの時、放送室で鹿の名前が入ってる鹿苑をトナカイだという考えをいち早く思いついたのは柏木だった。それはもともと第一のヒントの意味を知っていたからじゃないのか?」


柏木は返事をしない。


「次に二つ目のヒント。サンタはすでに鐘を鳴らした。鐘が金管楽器だの、校内放送のチャイムだの振り回されていたが、どちらも違う。このヒントが言う鐘は携帯の着信音だ。柏木はこのサンタ探しが始まる時に俺に一回電話を鳴らしてる。だから柏木は第二のヒントにも当てはまる」


冬の夕焼けが俺たちを静かに照らす。


「最後のヒント、サンタは仮面を被っている。このヒントはサンタが正体を隠していることを強調するものだ。つまり、サンタ役は意外な人物だということ。また、仮面を被る=欺くという風にも考えることができる。これらの考えから俺はサンタはクイズに参加している誰かだと確信した。そこから導き出されたのが柏木、お前だった」


俺の考えを全て聞いた柏木はようやく重い口を開いた。


「正解よ、新田」


そのとき、またあの機械音の校内放送が流れた。


「サンタが見つかりました。これにてサンタ探しは終了です。参加者のみなさん、お疲れ様でした」


「本当にお前だったんだな」


「えぇ。でもまぁ、新田の推理は70点ってところね。結局他の可能性を排除しきれなかったみたいだし」


「確かにそうだが、回答回数の制限はないんだから別にいいだろ。外したならまた考えてたさ」


「でも新田さん、あんなにカッコつけた後に外したら正気を保てなくなっちゃうんじゃないですか?」


…ギクリ。


「その時は柏木みたいにフェンスをよじ登ってたかもな」


「ところで芽依さん、クリスマスプレゼントは一体なんなんですか?」


確かに。最後の方は意地になっていたが、最初はそれ目的で始めたわけだしな。もらえるものはもらっておいた方がいい。


「もうせっかちなんだから。ちょっと待っててね」


柏木は屋上から出ると何かを後ろに隠し持ってすぐに戻ってきた。


「はいこれ、クリスマスプレゼント!」


柏木は隠し持っていたものを両手で差し出す。


これって…。


「アルバムか」


「うん」


表紙には『私たちの高校生活支援部!!』とデコレーションを交えてオシャレに書かれていた。


「ふっ、俺たち以外にサンタ当てさせる気なかっただろ」


「まぁね〜」


「中見てもいいか?」


こくりと柏木が頷いたので、俺はアルバムの中をあらためる。中に入っていたのは一学期から現在までの俺たちの写真。まだ俺たちが二人だった頃や、鹿苑が入ってからの写真。それに加えて天木先輩や折口高木カップル、吉村のような依頼者たちとの写真がたくさん入っていた。


「いつの間にこんなにたくさん…」


ページをめくるたびに今までの思い出たちが巡る。全てはあのとき、柏木と屋上で出会ってから始まったんだ。目の前の風に靡かれる柏木の姿があのときの姿と不意に重なり、目頭が熱くなっていくのを感じた。


「泣くほど嬉しかったの?」


「お前も泣いてんじゃねぇかよ…。バカ」


目の前の柏木もボロボロと涙を流していた。


「だってぇ、だってぇ」


「ありがとな、これ。大切にする」


「うん。このアルバムね、まだ半分も埋まってないでしょ?だからこれからも皆んなでたくさん思い出つくろうよ」


「言われなくてもこのアルバムは埋まりますよ。ね?新田さん」


「そうだな、じゃあ早速埋めるか」


俺はポケットからスマホを出してカメラアプリを起動する。


「え、嫌よ。今めっちゃメイク崩れてるもん」


「よし撮るぞー、鹿苑もほら。はいチーズ」


「ちょ、新田、待ちなさ」


カシャ。


俺は撮れた写真を確認する。


「ははっ、良い写真じゃねぇか」



少しゆっくりした後、俺たちは解散して各々の帰路についた。途中まで一緒の俺と柏木は帰り道を並んで歩く。


「そういえばなんで今回みたいなイベントをわざわざ開いたんだ?アルバムなら普通に渡せばよかったのに」


「年末が寂しいって言ったでしょ?だから皆んなで特別なことがしたかったのよ」


「そうか。それで?寂しさは紛れたのか」


少し間をおいて柏木が答える。


「うん、でもちょっと足りないかなー」


「というと?」


「わ、私はもっと新田と一緒にいたいかなーなんて…」


「へっくしょん!」


柏木が話し出すと同時に俺はくしゃみをしてしまった。


「あ、すまん。もう一回いいか?」


すると柏木がスクールバックからあるものを取り出した。


「おい、なんでバスケットボールなんて持ち歩いてるんだ?」


「メリークリスマス!!」


「ぐはっ!」


俺の顔面に柏木が渾身のボールが直撃した。


「可哀想だからヒントだけ教えてあげる」


柏木は倒れた俺の耳元へ顔を近づけて囁いた。


「女の子のサンタだっているんだよ?」


言い終えると柏木は前へと駆け出した。


「それじゃあね!」


放心する俺を置いて柏木は帰っていった。気づいた頃には柏木の姿はなく、俺は一人取り残される。


「はぁ、クリスマスってやつは本当に…」


火照った顔に当たる冷たい風がすごく心地よかった。






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