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番外編 クリスマス 第2話

「サンタはすでに鐘を鳴らした」


俺の推理が盛大に外れ、意気消沈していたところに第二のヒントがアナウンスされる。


「またよく分からない抽象的なヒントですね」


「この学校に鐘なんてあったかしら。ねぇ新田、今回のヒントはどんな意味なのー?」


「もう俺は降りる!また推理外して、いたたまれない空気になるのはごめんだ!」


俺は教室から出て、部室に置いてきた荷物を取りに向かう。


「ねぇ、ちょっと待ってよ」


後ろから柏木と鹿苑が追いかけてきた。


「なんだ?謎解きならお前ら二人でもできるだろ。柏木はともかく鹿苑なら正解を導き出せるかもしれないし」


「わ、私は新田も一緒がいい!せっかくのイベントなんだし皆んなでやった方が絶対楽しいもん!」


柏木は俺の袖を掴んで引き止める。


「ま、まぁ、そこまで言うなら…」


「本当?やったー!」


「よかったですね、芽依さん」


「うん!」


全く、わがままなやつめ。


「よし、そんじゃあサンタ探し再開とするか」



「ふぅ、温まるなぁ」

「そうねぇ」

「ふぁい〜」


「って、なんで三人揃ってストーブで温まってんのよ」


火から離れ、立ち上がった柏木が未だストーブの前でぬくぬく温まる俺たちを咎める。


「寒いところで推理を始めても頭が回らないだろ?だからこうして温まることで血を巡らせてだな…」


「じゃあ早く考えて。早くしないと他の生徒に先越されちゃうわよ」


未だにサンタが見つかったという放送は流れていない。一つ目のヒントを受けて、花壇やその横の教室に向かう際に何名かの生徒にすれ違ったが、俺たちと同じようにサンタ探しをしている様子だった。それでもまだサンタが見つかっていないということは他の参加者も思いの外、苦戦しているようだ。しかし、柏木の言う通り、いつ先を越されてもおかしくはない。


「あぁ、分かってるよ」


第二のヒントの鍵となるワードは鐘。またこれも本物の鐘を鳴らしたわけではないことは明白。うちの高校には教会に設置されているような本物の鐘は存在しない。


「鐘と言ったら何が思いつく?校内に存在するものの中でだ」


「鼻を花に変換するみたいに鐘を金として捉えるとかどう?」


「金を鳴らす、か」


柏木の言葉を聞いた鹿苑が何か閃いたような様子で、声を出した。


「あ!サンタ役は吹奏楽部の誰かなんじゃないですか?金は金管楽器を表していて、それを部員が演奏したならば鐘をすでに鳴らしたことになります」


「あーちゃん天才!?」


第二のヒントだけで見れば鹿苑の推理も間違ってはいないとは思うが…。


「鹿苑の推理だと第一のヒントとの整合性が怪しい。正解である可能性もあるが、いつもの活動場所から音が聞こえてこないあたり、吹部自体の活動は今日は休みだ。そうなると鐘を鳴らした生徒は個人練習をしていた者。それをこの広い校内から見つけ出して全員当たっていたらかなりの時間ロスになる」


「じゃあ第一のヒントを考えて、それに当てはまるような吹部の人を探せばよくない?」


「それが思いつかないんだよ。だからもっと可能性のある他の説を考えた方がいい気がする」


「たとえば?」


「放送委員が怪しいんじゃないかと俺は思っている」


「放送委員ですか?」


「あぁ」


「ふふっ、だとしたら私も容疑者ですね」


「鹿苑って放送委員だったのか」


頷く鹿苑。


「で、なんで放送委員なの?」


頭を傾げる柏木。


「いつも鳴ってるだろ?チャイムが」


俺は頭上に設置されているスピーカーを指差す。


「あー」

「なるほど…」


チャイムの一言で二人とも合点が言ったらしい。


「で、どういうこと?」


ったくこいつは。


「つまりチャイムが鐘ってことだ。予鈴は勝手になるから除外するものとして、校内放送をする時にキンコンカンコーンってチャイムを鳴らしてから放送するだろ?それを今日やったやつは昼の放送と帰りの放送を担当した放送委員だけだったはずだ。松浦先生も一応該当するが、まぁ主催者っぽいしさすがに違うだろ」


「たとえこの説が間違っていたとしても私の推理に比べたら確かめることが簡単ですもんね。容疑者は少なくとも二人だけですし」


「といってもやはり自信はない。第一のヒントに繋がるものが見出せないからな」


こればかりは放送室に行って確かめるしかないか。何か第一のヒントと繋がるようなものがあるかもしれない。


「よし、とりあえず放送室に行くぞ」


「ええ」

「はい」


俺たち三人は駆け足で放送室へ向かった。



「誰もいないわね」


扉を開けた俺たちの目の前に広がっていたのはまたもや無人の放送室。


「またハズレか?」


「いえ、あくまでヒントは鐘を鳴らしたということだけ。ここにいるとは言っていません」


「確かに。なぁ、鹿苑。ここに名簿とか当番表みたいなのってあるのか?そこから今日の放送担当が誰だったのか分かるか?」


「はい、分かると思います」


鹿苑がファイルが並んでいる棚に手を伸ばす。


「ありました!これが名簿です」


そこに書かれていたのは放送委員15名の名前。鹿苑の名前もあるな。


「それで、今日の担当は誰だったんだ?」


「はい、お昼の担当は一番下に書かれている三年生の松下さんで、帰りの担当は私の横に書かれてる一年の横田さんです」


「二人のどちらかがサンタの可能性があるのか。でもやっぱり第一のヒントに繋がるものは見つけられなかったな」


「ねぇ、ちょっと待って。私分かっちゃったかも」


柏木が手を挙げて、早く聞いてとばかりに体をぴょんぴょん動かしている


「よーし、それじゃあ手分けしてこの二人を探しに行こう。本当にサンタなら校内に残っている可能性は高い」


「無視すんなバカぁ!」


柏木が俺の背中をポコスカ叩く。入学当初はよく俺に暴力を振るい、その威力もなかなかのものだったが、最近は落ち着いてきたのか、このように軽くちょっかいを出す程度になった。柏木が変わったのか、俺と柏木の関係値の変化が表れた結果なのかは分からないがな。でも正直、今ぐらいの方が可愛い。


「はいはい、一応言ってみろよ」


「何よ、一応って。それじゃあ解説しましょうか。この名簿、よく見てみて」


俺は言われるがままに名簿に視線を移す。これ以上得られる情報はないと思うんだがな。


「あ、もしかして」


横の鹿苑が何かに気づいた様子だ。


「あれ〜新田ったらもしかしてまだ何も気づかないの?あーちゃんは分かったみたいだけど」


ここぞとばかりに柏木は煽ってくる。普段優位に立てる場面が少ないため、柏木は機を逃さない。


「ね、ね、分かんないの?分かんないの〜?」


名簿と睨み合いをしている俺の後ろを柏木がちょこまか動き、俺を囃し立てる。


「あーもう!分かんないから教えろよ!」


「ふふん、教えてあげましょう!ほらここ見て」


すると柏木は名簿を手に取り鹿苑の名前を指さした。


「あ、そういうことね」


「ちょっと全部説明させなさいよ!」


「シカの文字が苗字に入る鹿苑が第一のヒントのトナカイで、その横に名前が書かれている横田が犯人だと言いたいんだな?」


「最後まで言わせてよぉ…」


柏木がおろおろと泣き出す。どんだけ俺のこと煽りたかったんだコイツ…。


「よしよし、帰りにファミチキ買ってやるから」


「本当!?」


「あぁ」


「じゃあ決まりだからね!」


ファミチキ一つで機嫌が治る女、それが柏木芽依なのである。おそらく校内一金のかからない女だろう。


「これでサンタ役が誰か分かったな。サンタに化けているのは一年の横田だ。あいつの居場所に見当がつくものは?」


「はい。前の委員会の時にバスケ部だって話を聞きました。もしかしたら体育館にいるかもしれません」


「ナイスだ、鹿苑。急いで体育館に向かうぞ」


「おー!」

「お、おー!」



「よし、バスケ部は今日も部活やってるみたいだな」


恵星学園の体育館はそこら辺の県立高校の体育館とは比べものにならないほど大きい。そんな大きい体育館も放課後は部活をしている生徒たちでいっぱいになるのだが、今日は休みだったり早帰りの部活が多いのか、いつもの半分くらいの人口密度だ。


「あれ、新田じゃん」


声をかけてきたのはバスケ部に所属する一年B組の吉村大輝よしむらだいき。こいつとは一学期の終わりに吉村の依頼を解決してからたまに話すようになった。


「どしたの?体育館に来るなんて珍しいじゃん」


「それなんだが、今絶賛高援部でサンタ探ししてんだよ。ここだけの話にしてほしいんだが、お前の部にその容疑者がいる…」


俺は周りに聞こえないように吉村に耳打ちする。


「え、マジ!?それって誰!?」


「ちょっと声が大きいわよ!」


横にいた柏木が吉村の口を手で抑える。


「んわぁ、ぉを、をめん…」


「分かったならよろしい」


柏木が手を離す。


「ぷはぁ、柏木さん久しぶり。鹿苑さんも」


二人が各々に返事をする。


「でも一体誰なんだ?」


「それはだな、ごにょごにょ…」


再び俺は吉村に耳打ちする。


「よ、横田!?」


「おい、だから声が大きいって」


「ははっ。おそらくその心配はないよ」


吉村は笑みを浮かべながらそんなことをいう。一体どういうことだ?


「どういうことです?」


同じ疑問を鹿苑が吉村にぶつける。


「いや、だって、横田のやつ昨日からインフルで寝込んでるから」


「今思えば帰りの放送は横田さんの声ではなかったような…」


な、なんだと…。


俺は膝から崩れ落ち、体育館の床に倒れる。顔にひんやりとした床が当たり、少し気持ちいい。もうこのまま終わってもいいかな。


「なぁ、吉村。今からバスケ部員に全力で俺にボールを投げるようにお願いしてくれ。頼む」


「新田、どういう思考回路してんの…」


「コイツはずっとこんなんよ」


横に立つ柏木が呟く。


くんくん…。ん?なんだこの匂い。


「なぁ、柏木」


俺はうつ伏せになり、顔を床に向けたまま柏木に声をかける。


「な、何よ」


「お前、足臭くね?」


「「「…」」」


キュッ、キュッ、ドーン、ドーン、バチン。


俺たちの空間から言葉が消え去り、その他の音たちが響く。シューズと床が擦れる音、ボールがバウンドする音、シャトルが打たれる音。体育館ASMRでも作ろうかな。


そんなことを考えていると柏木が吉村に何やらお願いしているのが聞こえる。


「本当にやるんだな?」


「えぇ、お願い。あと吉村の持ってるボール私に貸して」


え、何が起ころうとしてるの?


「それじゃあバスケ部の皆さん、お願いしまーす!」


「うーす!!」


柏木の音頭に屈強そうな男たちの返事が続く。


「せーの!!」



俺とバスケットボールたちが奏でる鈍い音は体育館には響かなかった。体育館ASMR計画は失敗だな。


「た、助けて…」


『それでは最後のヒントです!最後のヒントは…』


「サンタは仮面を被っている」


最後のヒントを聞き届けて俺の意識は彼方へと飛んでいった。

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