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番外編 クリスマス 第1話

「うー、さっむ」


今日は二学期最後の登校日だ。12月も終盤に差し掛かり、冬の寒さも厳しくなってきた。昇降口へと足を進めながら、校内に設置されている花壇へと目をやる。園芸部が管理しているその花壇には冬に咲く花たちが開花の時を迎えていた。パンジー、コスモス、水仙。あとあれはカランコエだったか。母親の花好きのおかげである程度の花の名前は記憶している。


「俺も見習わなきゃな」


この寒さの中でも立派に咲き誇る花たちに心の中で敬礼をして俺は歩みを進めた。



帰りのHRが終わり、下校時刻を知らせるチャイムとともに放送が流れる。


「下校時刻になりました。帰りの生徒は気をつけて下校してください」


そして俺はいつも通り用を足してから高援部の部室である屋上へと向かう。すると屋上手前の踊り場に先に着いていたであろう鹿苑の姿が見えた。


「こんにちは、新田さん」


「あぁ」


俺は踊り場に設置された椅子の横に荷物を下ろす。現在、高援部では踊り場に椅子とストーブを設置してここで活動している。これが高援部の冬スタイルである。俺たちの部室は屋上だが、この寒さの中で外に長時間いるのはさすがにしんどい。


「今日も冷えますね」


「夏もキツかったが、冬も中々だな。改めて部室が屋上という弊害を感じる」


ストーブで暖を取っているとはいえ、部屋でもない踊り場全体が暖まることはない。たまに冷たい空気が顔をなぞり、冬の寒さを実感させる。


しばらく俺と鹿苑が世間話を交わしていると、下の階段の方から声が聞こえてきた。


「うー、さむさむ。ストーブ、ストーブ」


その声の主は柏木で、一足遅れた柏木は腕を組みながら階段を駆け上がってきた。


「はぁ、あったかい」


柏木は着いて早々、荷物を下ろすことなくストーブの目の前へ行き、暖をとる。ひとしきり温まった後、ようやく荷物を下ろし、自分の定位置に着いた。


「今日は少し遅かったな。なんかしてたのか?」


「つい教室で松浦先生と話し込んじゃって」


「ふーん。そういえばお前と先生、最近よく話してるよな」


「いやー、今季のドラマが豊作でさ。松浦先生もドラマ好きだからついつい語り合っちゃうのよ。新田とあーちゃんはドラマ見ないからそういう話できないし」


「俺はアニメしか見ないからな」

「私は本しか読みませんし」


「はいはい、分かってますよーだ」


そう言って柏木は携帯をポケットから出していじり始めた。鹿苑も本を手に取り読書を始める。そして俺は今日帰ったら何をしようかと考える。



三人の空間に静寂が訪れる。



「「「…」」」


静かだ。柏木の言葉を最後に俺たちは静寂に包まれる。こいつらと高援部を始めてから半年が経った。こういう無言の時間も全く気まずく思わないぐらいに俺たちは多くの時間を共に過ごした。俺はこの静寂が嫌いじゃない。静かな時間が俺たちの関係値の高さを証明してくれているようでどこか落ち着ける。きっと同じようなことを二人も感じ取っているのだろう。


それからしばらくして柏木が口を開いた。


「もうクリスマスかー」


そう、今日は12月25日。クリスマスだ。


「みんなクリスマスだから帰って遊んでるんですかね。校内もいつもと比べて静かな気がします」


「確かに静かだな」


「今日で二学期も終わりだしねー」


「お前らは予定ないのか?この様子じゃ依頼もこなそうだし、もしあるなら帰ってもいいぞ」


「私は帰ったら家族でクリスマスパーティーするぐらい。パーティーって言ってもいつもより豪華な晩ごはん食べるだけだけど」


「私も同じような感じです」


「ふーん。やっぱお前ら彼氏とかいないのな」


「死ね」

「最低ですね」


柏木と鹿苑が俺を罵倒する。そこまで言うことなくない?


「ほんと新田ってデリカシーないわよね」


「いや、お前らはそういうの気にしないと思って」


「はぁ。やっぱり新田さんって残念ですよね」


残念、か。残念という言葉が出てくるということはどこか俺に期待していた点があるということだよな?褒め言葉として受け取っておこう。


「なんで貶されてニヤニヤしてんのよ…」


「さすがにキモいです、新田さん」


「ポジティブシンキングにおいて俺の横に出る者はいない。罵倒でさえもプラスに変えてしまう自分が末恐ろしいなー。うんうん」


会話が一区切りすると再び俺たちを静寂が包む。少しの沈黙が流れた後、柏木の口が開いた。


「はぁ、なんだか寂しいわねー」


ため息混じりに柏木。


「というと?」


「私の中で年末って寂しいのよ。まだまだやりたいことがたくさんあるのにもう一年が終わっちゃうんだなぁって」


「まぁ、分からなくもないな」


「きっとこの一年やりきれたなって思える人の方が少数派ですよ。みんなどこかで怠けてて、最後の最後で後悔するんです」


「ふーん。そういうもんか」


「あーちゃんは今年一年振り返ってみてどう?」


「そうですね…。もともと私は志高く生きているような人間ではないので、特に不満はありません。むしろお二人とこうして部活動ができている現状にとても満足しています」


「もう、あーちゃんったら!」


柏木が鹿苑に勢いよく抱きつく。


「よしよし…」


柏木の頭を鹿苑が撫でる。

こうした光景も見慣れたものだ。柏木は女子相手だとすぐにボディタッチを図る。このようなスキンシップが好きなのだろう。それに対して鹿苑もいつも満更ではない様子だ。趣味嗜好は全く違う二人だが、なんだかんだ相性はいい。ここが二人の癒しの空間になっているのなら、高援部創設者として嬉しい限りだ。


「新田はどうなの?今年一年振り返って」


「悪くない一年だったと思うよ」


高援部を立ち上げて、こうして同じ目標をもつ仲間もいる。そして高援部の活動を通してたくさんの人と知り合えた。我ながら恵まれすぎているな。


「そっか」



あれから約1時間が経過した。やはり校内は閑散としていて普段とは違った姿を見せている。部活も休みのところが多いのか、いつも聞こえてくる吹奏楽部の楽器の音や運動部の掛け声などがあまり聞こえてこない。この踊り場の目の前は一年生のフロアだが、この一時間で姿を見せた生徒はほんの数人。いつもならもう少し人の往来が見られるだが。


そんなことを考えていると校内放送のチャイムがかかった。


『ゴホンゴホン。えー、校内に残っている生徒諸君、クリスマス楽しんでるか?イェーイ!!』


「何やってんだあの人…」


放送を流しているのは声からして俺のクラスの担任で高援部の顧問でもある松浦先生だ。横の鹿苑も謎の校内放送に困惑している様子だ。


『突然ですがこれから皆さんには校内に潜んでいるサンタクロースを見つけてもらいます!』


何を言い出すかと思えばサンタを見つけろ?一体何がなんやら…。


『まぁまぁ落ち着きなさい。これから今回の企画について説明をさせてもらう。まず参加するかしないかは君たちの自由だ。この放送を無視して各々の活動を続けるもよし、帰るのもよしだ』


「なんかすごいこと始まっちゃいましたね」


「あぁ、松浦先生の頭がおかしくなってないことを祈るばかりだ」


あの人、クリぼっちだからってやけくそで校内ジャックとかしようとしてないよな?下手したら懲戒処分もんだろこれ。


『よし、それじゃあルールを説明する。これから私が三十分おきに潜んでるサンタに関するヒントをだしていく。参加する君たちにはそれを読み解いてもらい、サンタを見つけ出してほしい。サンタは校内にいる誰かだ。それは生徒かもしれないし、教師かもしれない。サンタはごくごく普通の恰好をしているから注意するように』


なるほどな。サンタの仮装をしている人間を見つけるのではなく、ヒントをもとに見た目が一般人のサンタ役の人間を特定しろってことか。


『そしてそして、見事サンタを見つけ出した生徒にはクリスマスプレゼントを贈呈しまーす!!』


「おー」


「なんだか新田さん、やる気みたいですね」


「う、うっせー」


正直なところ、面白そうではある。依頼もなくて退屈していたところだしちょうどいいかもしれない。これがクリスマスらしいことなのかは分からないが、クリスマスの日にこういうイベントに参加するのは良い思い出なりそうだ。


『ということで以上がルール説明だ。やる気になってくれたかな?』


「新田さん、どうするんです?」


「クリスマスプレゼントは俺のものだ」


「ふふっ、そうくると思ってました」


『それじゃあ、サンタ探しスタート!!最初のヒントはこちら』


すると機械音でヒントらしきものが流れ始めた。


「サンタはトナカイの横にいる」


やけに手が込んでいる。突発的に始めたイベントではなさそうだな。


「うーん、どうです?新田さんは分かりますか?」


「まぁ、なんとなくイメージは沸いた」


「やっぱり新田さんって頭の回転早いですよね」


「別にそうでもないだろ。あれ?てか柏木は?」


今気づいたが柏木の姿がいつの間にかいなくなっていた。


「クリスマスプレゼントが貰えるって放送が流れた途端、サンタ見つけてくるって走り出してましたよ?」


「あの馬鹿…」


するとポケットの携帯から着信音が鳴る。画面に表示されているのは柏木芽依の名前。


「もしもし」


『もしもし新田?あんたもヒント聞いたわよね?何か分かったんなら教えなさいよ。私全く分からないんだけど、この学校ってトナカイなんて飼ってた?』


「どこの世界にトナカイ飼ってる高校が存在するんだよ」


『じゃあこのヒントはどういう意味なのよ』


「このヒントは文脈からしてサンタの居場所を示してるんだろう。つまり、トナカイから連想することができてかつ、この学校に存在するものを考えることができれば、自ずとサンタは見つかるはずだ」


『じゃあさじゃあさ、それって一体なんなの?』


…こいつ。少しは自分で考えろよな。


トナカイから連想できて学校にあるものか。ツノ、赤鼻、ソリ、雪、シカ科、カリブー、草食…。どれもパッとしないな。いや待てよ、一つこの中から校内の場所を示す単語があるな。最近よく見かけるあれだ。


「よし、じゃあこの新田さんの言う場所にこい」



「ねえ、本当にこの近くにサンタがいるのー?めちゃくちゃ寒いんですけど」


俺たちは校舎から出て外を探索していた。その中で向かったのは様々な種類の花がたくさん植えられている花壇。


「お、あったな」


「えー、何もなくない?」


「トナカイから連想される言葉の中に赤鼻があった。赤い鼻だとヒントにはならないが、赤い花。つまり鼻を植物の花に置き換えればヒントになる。サンタの居所はこの花壇に植えられている赤い花の横で間違いないだろう」


「これはカランコエですね。花言葉は『たくさんの小さな思い出』です」


「よく知ってるな」


「はい、我が家にも咲いていますから。ところで肝心のサンタ役の方が見えませんが一体どこに?」


花壇の周りには俺たち以外の人はいない。ヒントによればトナカイの横にいるはずである。


「この中にいるんじゃないか?」


そう言って俺はカランコエが咲いている後ろの教室を指差す。見方を変えれば後ろではなく横とも言えるからな。


「これでクリスマスプレゼントは私たちのものね!」


「あぁ、行くか」


そして俺たちが向かったのは3年E組の教室。先ほど俺が指差した部屋である。


「あ、開けるぞ」


「え、ええ」


恐る恐る扉に手をかけた俺はゆっくりと教室の戸を開ける。そして中へと入る。


「あれ?」


中に入って教室を見回してみると、そこには人の姿が見られなかった。


「ハズレ、ね」

「違ったみたいですね」


「我ながら完璧な推理だと思ったのに…」


「まぁ、現実はこんなもんよ。アニメや漫画みたいにスラスラーっと謎が解けていく方がおかしいんだから」


「そうですよ、新田さん。まだ次のヒントだってあります。それにサンタが見つかったっていう放送は未だに流れてませんし、他の方々も苦戦してるはずです!」


めちゃくちゃに慰められてしまった。こういう時って慰められると余計泣きそうになるからやめてほしい。頼むからいつもみたいに俺を貶してくれないか。


俺が打ちひしがれていると校内放送のチャイムがかかった。


「ほら来ましたよ!新田さん!」



「サンタはすでに鐘を鳴らした」


静かな校舎に再び機会音が鳴り響いた。

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