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面接

そして翌日、帰りのホームルームが終わり荷物をまとめていたところ柏木がこちらに近づいてきた。


「ねぇ、今日も部活来るわよね?」


「あぁ」


こうして俺と柏木がクラスで話すことは少ない。お互いクラスでは浮いた存在なので、その二人が一緒にいると余計に浮いてしまう。それを俺も柏木も理解していたため、お互い余計なコミュニケーションをクラスではとろうとはしなかった。それでも今日話しかけてきたということは何かしらあるのだろう。


「わざわざクラスで聞いてくるということは今日は何かあるのか?」


「それは部室に着くまでのひみつ。せっかくだから今日は一緒に行こ!」


そして俺は柏木に半ば強引に腕を掴まれて教室から連れ出された。その間に俺たちのことを噂している声がチラホラ聞こえた。


「お、おい、柏木。あまり部室以外ではこういうのやめろよ。さっきだって少し噂されてたぞ」


「もう別によくない?私たちが一緒に高援部やってるのだってある程度の人に知られてるっぽいし。同じ部活の人同士で喋るなんてよくあることでしょ」


「そうだけどなぁ、お前は俺と変な噂立てられても平気なのかよ」


「別に平気よ、新田とだったら」


こいつ、変な噂の意味分かってるんだろうな。


「そ、そうかよ…」


そうこう話しているうちに俺たちは屋上に着いた。一年の教室は屋上の一階下にあるため、比較的すぐ着く。お昼の時間帯も距離が近いからか屋上を利用しているのも一年生が多いみたいだ。


「よし、着いた」


「それで、秘密ってなんなんだよ」


「もう聞いちゃうかー。新田くんはせっかちですねぇ」


「なんだよ、早く教えてくれよ」


俺が早く教えてもらうように催促しても柏木はもったいぶったまま一向にことの内容を教えようとしない。


「あぁもう分かった。今日は帰ります。それじゃあな」


面倒くさくなった俺はこれ以上柏木の秘密とやらに付き合うのはごめんなので帰ろうとする。すると柏木が俺の制服の袖を掴んで引き止めてきた。


「ま、待ってよ!教えるから帰らないで!」


「ったく、最初からそうしとけよな。このバ柏木」


「ねぇ、バ柏木って誰のこと!そんな苗字の人聞いたことないんですけど!」


柏木が大声で問いただしてきたので俺は耳をふさいで対応する。


「もう。私が言ってたひみつはポスターとビラのことよ」


落ち着きを取り戻した柏木はようやく秘密とやらのことを話し出した。


ポスターとビラか。おそらく完成したんだろうが、それにしても二枚とも一夜で完成させるとは。柏木の割にはいい仕事ぶりだ。


「もしかしてもう完成したのか?」


「えぇ!昨日のうちに私が全身全霊を注いで完成させておいたわ!」


様子からして柏木的には手応えのある作品が完成したのだろう。昨日も自信ありげだったし、もしかしたら柏木は絵が得意なのかもしれない。よくよく考えてみると、芸術の選択授業で柏木は美術を選択していたはず。俺は書道を選んでいたので柏木とはクラスが離れてしまったから、あいつの絵の腕前を確かめることはできないでいたが。


「やるじゃないか、柏木。どんなものが完成したのか見せてくれよ!」


「ちょっと待ってなさい。んーと、あった!私が良いって言ったら目開けてね」


「お、おう。分かった」


俺は慌てて目をつむる。今まで柏木のダメな部分ばかり目にしてきたが今回こそは柏木の良いところ見れるチャンスかもしれない。俺は期待に胸を膨らませながら柏木の合図を待った。おそらく柏木は俺が目を開けたらポスターとビラの完成品が目の前に現れるように両の手で掲げるつもりなのだろう。


予想通り、柏木がこちらに完成品を見せるべく近づいてきた。


「もう目を開けてもいいわよ!」


合図が出た。果たして目の前にはどんな作品が現れるのだろうか。俺は少しドキドキした胸を落ち着かせるために一呼吸して眼を開ける。



「…」



「ん?どうしたの?ねぇ、なんで何も言わないの?」



「…」



「ねぇ、ねぇってば」



「…」



目の前に現れたのは推定5歳児が描いたと思われるクレヨンの落書き。ポスターにはど真ん中に謎のマスコットキャラクター的なものが大きく描かれており、そのキャラから伸びている吹き出しには『高援部、部員募集中だドン!!」という文字。ビラの方には漫画が描かれている。


どれどれ…。



「なんだこれ、クソ漫画じゃねぇか!全然面白くねぇし、結局この謎のマスコットは誰なんだよ!なんで最後コマでこいつと部長の俺が夕日に向かってダッシュしてんだ!」


漫画の内容はでたらめで、話として成立していない。起承転結の起と転が立て続けに続いた後に無理やり終をねじ込んだ感じだ。画力も相まってクソ度が増している。


「ポスターもマスコットのデカさの割に文字が小せぇ!これじゃあパッと見で何のポスターか分かんねぇよ!」 


「う、うるさーい!私だって一生懸命描いたんですぅ!そもそも新田の美的センスじゃ私の絵の魅力なんて分からないのよ」


柏木は俺の言葉に対して反論してきた。ここまで言われて自分の画力とセンスを顧みていないらしい。挙げ句の果てに俺の美的センスのせいにしてきやがった。


「それにね、試してみないことには分からないでしょ?もしかしたら一部の層に刺さって入部希望の人たちが殺到するかもしれないし」


少なくとも一部の層にしか刺さらないことは認めてるじゃねぇか。これ以上俺が何を言っても柏木は意地を張り続ける予感がしたのでここは実際に検証して、その結果を柏木に突きつけて自分の絵の残念さを理解してもらうとしよう。


「分かった。ちゃんとコピーは作ってきてあるんだろ。じゃあ一緒にこれからビラを配ってやる。うちのクラスはホームルームが比較的早く終わったからまだ校内に残っている生徒の方が多いだろうし。ポスターの方はそれが終わってから貼りに行こう」


「それで構わないわ。結果で示してあげようじゃない」


「よし、そうとなったら今すぐ正門に行くぞ!」


「おー!」


こうして俺と柏木はさっそくビラ配りとポスターの掲示を行うことになった。



翌日の放課後、用を済ませてから少し遅れて屋上の扉を開いた俺は驚きの光景を目の当たりにしていた。


「嘘だろ‥」


柏木曰く、今いる三人の生徒は部員募集のポスターやビラを見てここに尋ねてきたという。


「ほれ見たことか。やっぱり新田の美的センスが間違っていたのね」


結果で示すという形になった以上、こうなってしまってはぐうの音もでない。一瞬さくらかと思ったが、柏木の頭ではそんな詐欺まがいの方法は思いつくはずもないから除外した。そうなるとこれは正攻法で集まった入部希望の三人ということになる。


「そ、それで三人は全員入部希望ということで合ってますか?ポスターやビラを見て来てくれたと聞いたんですが…」


俺と柏木がベンチに座り、他の三人がパイプ椅子に座るという形でテーブルを囲んでいる。そして俺の問いかけに対して三人が各々肯定の意思を示す。未だにこの事実が信じられない。


「おい、どうするんだ柏木。一気に3人だなんて聞いてないぞ」


「別に三人とも入部させちゃえばいいんじゃないの?人が多い方が楽しいってことは天木先輩たちが来たときに分かったし」


「お前なぁ、そう簡単に決めていいわけないだろ。この三人が一癖も二癖もある全員変なやつだったらどうする。俺たちの貴重な放課後の空間が壊されるかもしれないんだぞ」


俺たちは目の前の三人には聞こえないような声量でこの後どのようにするかを話し合っていた。


「じゃあ面接方式ってのはどう?全員まともな人なら全員とも入れればいいじゃない。逆に全員おかしな人なら何かしら理由をつけてお断りすればいいのよ」


柏木にしてはナイスな提案だった。俺としてもこの提案に反対する理由は特に見つからなかった。


「えー、三人とも入部希望とのことですが、これから三人には軽い面接を受けてもらいます。我が部としては部員を簡単に増やすのではなく、我が部に見合った能力や人間性を持った人たちと一緒に部活がしたいと考えているからです」


俺がそう発言すると俺たちから見て右に座っている女子生徒が口を開いた。


「えぇ、分かっています。先ほど隣の柏木さんとお話していらしてましたし」


さっきの会話が聞かれていた?いや、さすがにあそこから聞き取れる声量では話していないと思うのだが。


「もしかしてさっきの会話聞こえてました?」


「いいえ、読唇術です」


はい、変なやつ確定。こいつはもうないな。軽い質問だけして適当に終わろう。どこに読唇術をマスターしている高校生がいるというんだ。耳が不自由とかなら理解できるが、その様子はないしな。


「そ、そうですか。ということでこれから面接していくので、一人一人呼ばれたら屋上に入ってきてください。それまでは踊り場で待機してお待ちください。それでは左の方から順に行っていきたいと思うのでよろしくお願いします」


残りの二人は席を外し、俺と柏木と合わせて三人の状態で面接が開始した。


「それでは学年とお名前からお願いします」


俺が声をかけると目の前の男子生徒が喋り出した。


「ちっす。二年の榊原楓さかきばらかえでで〜す。よろしくっす」


なんか癪に障るやつだな。髪をいじるな髪を。


「よろしくお願いします。そうですね、それでは趣味や特技があったら教えてもらってもいいですか?」


「ちっす。趣味は自分磨きとホストを育成する企画とかを見るのが趣味っす。特技はそうっすねー、コールとか。わら」


おい、コールってなんだよ。俺たちまだ未成年だぞ。趣味もなんだか変だし。いや確かにベテランのホストが新人を叩き上げる系の番組面白いけどさ。


「おい、どうすんだよ柏木。明らかに変なやつだぞ。語尾にわらって付けてるし。メールじゃねぇんだぞ」


「ま、まだ変な人かは分からないでしょ。熱い情熱を持って今日ここに来たのかもしれないし」


それもそうか。俺としてはもうあまり続ける気は起きないが、もう少し質問してみるとするか。


「そ、それでは入部希望の理由を聞かせてもらってもよろしいでしょうか」


「ちっす。いや俺っち、何の部活も入ってなくて、放課後少し暇だったんで、適当にパパっーとやって、シュババーってぶち上げれるような部活がやりたかったんすよね。ポスター見たらすげぇ頭悪そうな感じで盛り上がれる気がしたんすよ。ちぇけら」


あー、もう駄目なやつだ。こいつとこの先上手くやっていけそうな気がしないし、そもそも真面目に仕事をしなそう。


考えてみれば分かることだ。あの柏木のポスターやらビラやらを見て来る連中だぞ?その時点で正常な思考回路を持ち合わせている人間とはとても思えない。よし、お帰りいただこう。


「柏木、もういいよな?」


「えぇ、もう大丈夫…」


さすがの柏木も俺と同じことを考えているようなので、俺はここらで切り上げることにした。


「以上で面接は終了です。こちらから合否の連絡をするために最後に連絡先をこちらのメモ用紙に記入をお願いします。そうしたら今日のところはもう帰っていただいて大丈夫なので」


「ちっす。え、てかもう終わりなん?まぁ、俺っちが落ちるようなことはないだろうけど。はいこれ、連絡先。勝手に女の子に教えたりすんなよ?ベイベー」


そして榊原が屋上をあとにした。


「柏木、どう思う」


「却下です」


「よし、じゃあ不合格の連絡はお前から送れ。あいつの連絡先を登録したくない」


「私だって嫌よ。あの先輩、ちらちら私の胸と顔ばっか見てたし。私の連絡先知ったらしつこくメールしてきそう」


「分かった。そういうことなら俺からしとく」


もう新手の冷やかしなんじゃないかと思ってきた。一人でこの有様だし、次は一体どうなってしまうんだろうか。最後にはあの読唇術女が控えていることだし。


ここで怖気付いていても何も始まらないので次の生徒を俺は呼んだ。


現れたのは先ほど俺たちの正面に座っていたメガネをかけた男子生徒。


「それでは学年とお名前の方からお願いします」


「はい、拙者の学年はっ」


ドン!


俺は強くテーブルに頭を打ちつけた。


「ちょ、新田!」


「す、すみません、少し寝不足で。続けてください」


男子生徒はこちらの様子に少し動揺しながらも自己紹介を始めた。


「えぇ、拙者は一年C組の秋葉慎之助あきばしんのすけでござる」


「ありがとうございます。で、では、趣味と特技の方を教えてください」


「ほう、趣味と特技ですか。拙者は割とアクティブな人間でござって、そう言われましても回答に困るのでござるよ。別にこのまま拙者の全ての趣味と特技を語ってもいいのでござるが、いかんせんこの後には予定が。何か条件を絞っていただかないと」


こ、こいつ…。


「新田抑えて、新田」


俺の様子を察してか柏木から声がかかる。おかげで少し冷静になった俺は質問を続けることにした。


「それでは、この高校生活支援部に活かせるような趣味や特技は何かありますか?」


「ないでござる」


ドーン!


俺は再び頭をテーブルに叩きつけた。


「あ、新田、血!血が出てるって!」


「大丈夫だ…。それでは最後に入部希望の理由を教えてください」


「じ、実は拙者、顧問の松浦先生に一目惚れをしたのでござるよ。デュフュッ」


ドーン!!


俺と柏木の二人は同時に頭をテーブルに叩きつけた。


「だ、大丈夫でござるか?お二方とも頭から血が」


「大丈夫です!」

「大丈夫よ!」


「そ、そうでござるか」


「い、以上で面接は終了です。こちらから合否の連絡をするのでメモ用紙の方に連絡先を記載してください。それが終われば今日のところはもう帰っていただいて大丈夫なので」


「かしこまった。拙者の恋心のことは松浦先生には内緒ですぞ?これから松浦先生と一緒に部活動ができると思うとたまりませんなぁ!では!」


そうして秋葉は屋上から去っていった。


「せーのっ」


「却下」

「却下」


「よし、少し休憩してから次の人呼ぶぞ」


もう最後のあの女にかけるしかない。この学園に変なのがまだいてたまるか。柏木も十分変なやつではあるのだが、あいつらと同じ空間にいるとすごくまともなやつに見えてくる。


「それでは最後の方、お願いします」


俺の声に反応して最後の女子生徒が扉を開けてこちらに入ってきた。


「失礼いたします」


先ほどから思っていたが、この女子生徒の振る舞いはとても丁寧だ。言葉遣いや扉の開け閉めから育ちの良さというか、礼儀作法が身についていることが一目で分かる。先ほどは読唇術の下りで辟易していたが、もう心配する必要はないかもしれない。


「どうぞ、おかけになってください」


「はい、失礼します」


「それでは面接を始めさせていただきます。まず、学年とお名前からお願いします」


さっきもそうだったが、一応リボンの色から学年は分かる。リボンが青だから一年で同学年のはすだ。


「はい、一年B組の鹿苑茜かぞのあかねです。しかにそので鹿苑、茜空の茜で鹿苑茜です」


なんかすごい風格がある名前だな。どこかのお嬢様なのかもしれない。俺は小学校も中学校も公立だったため周りに金持ちの人間はあまりいなかった。しかし、ここは偏差値高めの私立高校。お嬢様の一人や二人、いても不思議ではない。


「ありがとうございます。じゃあ、次に趣味と特技を教えてください」


「はい。趣味は人間観察です。特技は、そうですね。武芸や武道などの大半は幼い頃に父と母から叩き込まれたので、それが特技ですかね」


なんだろう、はちゃめちゃなこといってるのに全部本当っぽい。


「ね、新田。なんかこの人、只者じゃないみたいよ。私にも分かるわ。何か人としてのレベルが違う気がするの。それに何か変なオーラ出てるし」


柏木の言いたいことは分かる。だけれどオーラなんか出てるか?もしかして柏木と鹿苑では人としてのレベルが違いすぎて、それがオーラとして現れているのではないだろうか。


「確かに只者じゃないな。というかこの会話、全部読唇術で読み取られてるから口元隠さないとコソコソ話したって意味ないぞ」


俺は口を隠しながら柏木にこのことを伝える。

すると柏木も口元を手で隠しながら会話をしてきた。


「ちょっと早く言ってよ、変なこと言っちゃってたらどうするつもりだったのよ」


「大丈夫ですよ、何か秘密を聞いてしまっても私は言いふらしたりしませんから」


ギクリ。なぜ口元を隠しているのにこちらの会話の内容が筒抜けなのだろうか。趣味が人間観察とか言っていたし、読唇術もマスターするほどだ。それくらい見抜かれていても不思議ではないか。


「す、すみませんね。えー仕切り直して、では最後に入部希望の理由を教えてください」


今までの質問にはすぐ答えていた鹿苑だったが、鹿苑は少し何かを考えている様子で口を開かない。それでも鹿苑の顔は真面目そのもので、それを察した俺たちは声をかけずに回答を待つことにした。


そして少しして鹿苑が喋り出した。


「私は退屈なんです」


予想外の一言目に少し驚く。

横の柏木も鹿苑がこれから何を話し出すのか予想がつかないようで、表情に疑問が現れていた。


「私は由緒ある家柄に生まれました。私は幼いころから全てを与えられました。両親の優秀な遺伝子と教育のおかけで並大抵のことは簡単にこなせてしまいます。それに私が欲しいというものは両親が全て買い与えてくれました。いつしか私は気づいたのです。この満たされた生活は退屈でしかないと」


なるほどな。鹿苑の言いたいことは理解できる。分かりやすくゲームで例えるなら、これから世界を救おうっていうのに、いきなり最強の装備と世界はもうあなたの手で救われましたって結果を渡されるようなものだろう。ゲームは過程を楽しむものだ、それをすっとばして結果だけ与えられてもそりゃあつまらないに決まっている。


「そしてそんな私には毎日を楽しむ他の方々が大変羨ましく思えたのです。それからというもの私は楽しそうな周りの方々を眺めることで自分の中の退屈を紛らわせるようになりました」


「それで趣味が人間観察か」


「はい、ですがそれは一時的に私の心の穴を埋めてくれるだけで、結局最後には退屈が残ってしまうんです。輝いている人たちと、つまらない人生を送っているつまらない私。そんなとき、あなたたちに出会いました。あの大きい屋外のプールを掃除していたお二人を。あなたたちは私が見てきた誰よりも眩しくて、とても楽しそうだった。お二人なら日陰者の私をその眩しい光で照らしてくれると思ったんです。私からここに訪ねようか迷っていた時に部員募集のビラを受け取りました。そして今日、ここに来た次第です」


おおよその理由は把握できた。ここまで腹を割って鹿苑は俺たちに事情を話してくれた。ならこちらも俺たちがどんな目的のためにこの高援部をやっているか話さなければいけないと思った。


「んぐっ、っす、ずぅずぅ」


俺が喋り出そうとしていたところで、横の柏木が大泣きしていることに気がついた。


「お、おい、柏木」


柏木は対面に座っている鹿苑の方にかけより、鹿苑を抱きしめた。


「いぃ、今までつらかったね。わたじたち二人でよければ、きょうろくしてあげるからぁ」


柏木は半べそをかきながら、鹿苑を慰めるように言葉を紡ぐ。


「よしよし、いい子いい子」


「って、お前が慰められてどうすんだよ」


鹿苑は柏木の頭を撫でながら泣き止むようにあやす。



しばらくして柏木は落ち着いた後、余りのパイプ椅子を鹿苑の横にセットして二人で肩がくっつくような距離で座った。


そして俺は先ほど話そうと思っていたことを喋り出す。


「実は俺たちもある事情があって高援部の活動を行っている。だが、その事情のためにしょうがなく活動しているわけではない。どの依頼も真摯に取り組んできているつもりだ。それでその事情についてなんだが。話してもいいか、柏木」


柏木が頷いたのを確認し、俺たちがなぜ高援部を設立するに至り、活動を続けているのかを俺は鹿苑に話した。



「そのような背景があったのですね…」



「あぁ、俺たちは高援部を通して友達作り、ひいてはこ、恋人作りを行っている」


「ちょっとそこでどもらないでよ。気持ち悪いじゃない」


「う、うるせぇ。というわけでこんな訳ありの部活だが、鹿苑がそれでもいいって言うのなら俺は歓迎するつもりだ。柏木は?」


「私ももちろん歓迎よ!」


鹿苑は椅子からゆっくりと立ち上がり、口を開いた。


「私はなおさら高援部に入部したくなりました。だって私もぼっちですから!」


声のトーンとは真逆の悲しい事実を述べた鹿苑の声が屋上に響いた。


そして若干の静寂が流れたあと、この空気感を払拭するべく柏木が慌てて言葉を発する。


「そ、そうなのね。じゃあ茜ちゃんの入部が決定ということでパチパチパチー」


柏木は声に合わせて拍手をする。

俺も柏木に合わせて手を叩いた。


なんだろうこのいたたまれない空気感。今後が心配になってきた。


「無事鹿苑の入部が決まったことだし、親睦もかねてこれから三人でファミレスにでも行かないか?今日ぐらい早めに切り上げても罰は当たらないだろ」


「いいですね!行ってみたいですファミレス!」


「私も賛成!行きましょ行きましょ!」



そして新たに鹿苑が加わった新生高援部三人はファミレスへと向かった。

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