就眠ノ天稟探シ 中編
「階段を下ったら音三つ、か。」
「音楽室のことじゃないかな。」
「じゃあこの、骨、というのは」
「あ、わかった!理科室の骨格標本じゃないのか?」
「で、鯉のぼりは……?」
「屋根より高い……あ、屋上!」
全員が慌てたように謎を解いていく。
火事場の馬鹿力とは、こういうことを言うのかな、なんて私が呑気に考えている間に、いつの間にか空に輝いていた太陽が南中していた。
その様子を、面白いものを見るようにデュアルさんが眺めているのがわかる。
「解けたね……、けど、この学校広いから、きっと走らないと間に合わない、よね」
「諦めるには、まだ早い。……こういう時、ふゆならば 全員で分担してやろう、なんて言うだろうか」
れむさんの呟きに、雪兎さんがそう返す。
考え込むような素振りを見せた彼は、わたし達を見回して言った。
「俺と朝陽は地下にある音楽室に、ノートリアスと柳は理科室。残りのメンバーは、チャットで次の指示を待て。」
その号令で、四人がめいめい 走り去って行った。
「あら、そう来るのね。 嬉しいわ、アタシのゲームを楽しんでくれて。」
にこやかにそう言うデュアルさん。
「楽しんでなんか、無い。」
わたしはそう呟いて、そっぽを向いた。
「次のイベントねぇ、人狼ゲームにしようと思うのよ。どうかしら?」
「人狼? ワタシ人狼好きだよ!」
れむさんが言う。
デュアルさんの口元が、笑みの形に歪んだ。
「実際に人が死ぬタイプの人狼よ。楽しそうでしょう?」
「それ、どうしてわたし達に言うんですか?」
わたしがそう問うと、デュアルさんがちらり、と此方を一瞥した。
「全部アタシの気分よ」
フードの下に隠されていた、大きな瞳。
何処かで、見たことがある気がする。
「あら、アタシの顔に何か付いてるかしら?」
「……!ううん、」
見つめていたのがバレて気まずくて、わたしは向こうを向いた。
まりもさんがわたしを心配してくれたのか、声をかける。
「カンナちゃん、どうしたの?」
「何だか……、デュアルさんのことを知ってる気が、して。あ、本当にそれだけなんです」
「そっか……。」
「あら、上司のお出ましだわ」
ふわり、とデュアルさんは立ち上がると、体育館の出口の方へ歩いて行った。
その先には、ありすさんとナギさんが居て。
三人はその場で何か話すと、そのまま歩き去ってしまった。
さらりとした長い黒髪の少女と、彼女に侍る、同じ黒髪をショートカットにした女性型AI。
(そういえば、あの二人の事、わたし達何もーーーー。)
ちょうどその時、グループチャットに通知が入った。
パッ、と画面を呼び出すと、柳と朝陽さんからだった。
「えー、何々?」
「図書室……、今から!?」
そのメッセージの内容をかいつまんで説明すると、理科室の骨格標本の中にあったのは紙切れで、図書室に行け、という指示があった。
恐らくそこに鍵があるため、わたし達がそれを取りに行き、その足で屋上へ向かう。
そして、今から男性チームも屋上へ直行するため、屋上で落ち合う。
とのこと。
わたし達は顔を見合わせると、走って体育館を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<朝陽side>
時を少し遡って。
オレは雪兎とやらと一緒に音楽室へとやって来た。
此奴はさっき、大切だったあの女の子を失ったばかりなのに、今は「そんなことあったか?」と言わんばかりにこうしてオレのことを助けてくれる。
それが少し気になって、薬を探す作業をしながらオレは聞いた。
「なぁ、その……、良いのか?」
「何がだ」
楽器の入った戸棚を漁りながら雪兎が返事をする。
きらり、と白く光った 彼奴の天使の羽の形の髪飾り。
「あの女の子、……」
「嗚呼、ふゆの事か。」
雪兎はそっと 自分の髪飾りに触れて言った。
「彼奴なら、困っている奴を放ってなんかおかない。俺は彼奴のために、彼奴のように振る舞っているだけだ。」
「…… へぇ、?」
此奴、あの、ふゆって子が好きだったのだろうか。
互いが互いの大事な人、というのは、この前目の当たりにしたが。
(夜月……)
同じ顔をした、真反対の性格の弟に思いを馳せる。
きっと、俺の大事なものは、夜月だろう。
あの女の子のように、失ってしまったら。
オレは立ち直れる気がしない。
「……い、おい」
気付くと、雪兎がオレの肩を掴んで、オレの体を揺さぶっていた。
「ん、悪ぃ。考え事して、た……その瓶まさか」
「嗚呼。『花』があったぞ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<柳原side>
「ノートリアスさん、屋上こっちで合ってんだよね?」
「ん、合ってる」
俺たちは、理科室の骨格標本の中にあった紙切れの内容を、メッセージでカンナ達に伝えてから、屋上へと向かっていた。
ふと、隣のノートリアスさんを見上げる。
この人と二人だと話が続かないし、何よりーーーーー
この人が考えていることが、本当によくわからない。
神奈の奴は、一体どうしてこんな得体の知れない奴と一緒にいたのだろうか。
「……ノートリアスさん」
「……なんだ?」
「なんでカンナと一緒にいたんですか?」
「……あの子は迷子になってた、俺はあの子の道中の曲がり角で寝ていた、そしてお詫びに送ってあげた。……それだけだ」
……なんのお詫びだ……?
凄く疑問が残ったのだが、ノートリアスさんが 話は終わった、そう言わんばかりにてくてく階段を上がって行くものだから、俺はもう何も聞こうとしなかった。
屋上近くの廊下に差し掛かったところで、雪兎と朝陽と合流した。
「そっちは無事に薬、ゲット出来たみたいだな!」
「嗚呼、そっちも。」
にっ、と 雪兎と顔を見合わせて笑い合う。
「……あとはあの子達が、鍵を持って合流するのを待つだけ、か」
ノートリアスさんが、そう言う。
太陽が、空を茜色に染め上げて、西に沈もうとしていた。
長いのが……書けなくなってきている……
次回番外編です。