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其ハ贋物、捕ラヘテ暴ケ 後編

「今のはナギさんが化けた偽物だよ……」


反応して踵を返し、走り出したのはふゆちゃんだった。

「なんていうスピードなんだ……!」

雪兎さんも彼女を追いかけて行った。


わたしとまりもさんは、息を切らしている二人から話を聞く。

「何があったんですか、?」

「談義に紛れてしっぽを取ろうとしていたんだ、全く……」

「姿はまんま姉ちゃんだったから、油断してたな……」

「あの姿のモデル、君のお姉さんだったの?」

まりもさんが驚いたようにそう言う。

「……うん、そうだよ、あれはオレの姉ちゃん……まりりんの姿見だった、」

「あぁ……名乗るのを忘れていた、俺はかがり。此奴は……、その、」

眼鏡の男の子……かがりくんが、言葉の途中で言いにくそうにする。

理由はわかった。

隣の男の子、プレイヤーネームが……、なんとツナマヨ帝王だったから。

(なんで?小学生でもそんな名前にしないよ、!)

「……うん、君はツナくんね、」

「なんでツナマヨ帝王にしたの……、?」


「え、なんかかっこ良かったから。」

(ネーミングセンスは皆無だったんだね、!)


「そういえば君、クラッカーの子じゃん」

まりもさんが言った。

「クラッカー……、あぁ、あの時のツッコミか……」

かがりくんが遠い目をする。

ふと脳裏にあの時の記憶が蘇る。


『いやいや、クラッカーじゃないだろう!?』

「あー……、わたしも思い出した、」

「気にしないでくれ、殆どノリツッコミのようなものだったから。」

「ナイスツッコミだったよな!」


休憩がてらそんな会話をしていると、ふゆちゃんと雪兎さんが戻ってきた。

「ただいま〜!捕まえてきたよ!」

よく見ると、簀巻きにされた檸檬色の髪の女の人が雪兎さんに担がれている。

到着すると、雪兎さんはどさっ、と雑に簀巻きを落として、冷たい目で彼女を見下ろした。

「……ではしっぽを取らせて貰おう、案内役。」

「待って、待って!アタシ、案内人じゃない、!」

まりりんさんが(名前が似た人が多くて混乱しそうだ、)簀巻きのまま叫んだ。

「姉ちゃんの姿見でやんのちょっと悪い気がするんだけど……、まぁやむを得ないよな、」

「あぁ、俺が絞め落とす」

「う、嘘っ、かがりクン聞いてよ、!」

「問答無用だ、」

かがりくんが、雪兎さんに簀巻きを解かれたまりりんさんを絞め落とす。

(余談だが、後で聞いた話によると、かがりくんは柔道黒帯だったそう。)

ガクッと膝をついたまりりんさんのしっぽを、雪兎さんがさっと奪い取った。


ザ、ザザザ。

まりりんさんの姿見がブレて、代わりに現れたのは……、


「な、案内役じゃない、!」

冷静な雪兎さんが驚いたように叫ぶ。


まりりんさんに化けていたのはナギさんではなく、あの開会式の時にナギさんの隣で控えていた、白い髪の男の子。

ゆかりんさんが言っていた、最強のAI二人組の一人だった。


「あ、この子、廻斗くんだ、!」

ふゆちゃんが言った。

「だから言ったでしょ……、ナギさんじゃ、ないって。」

廻斗くんが立ち上がった。

「ま、役割は果たしたし良いか。後はお任せしますよ、」

溜息を吐きながら伸びをする廻斗くん。

ふと、彼が思い出したように口を開いた。


「そういえば、ナギさんはもう、君たち以外のプレイヤーのしっぽ、回収し終わってるよ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「姉ちゃんが、姉ちゃんじゃなくて、ナギさんでもなくて……、え?」

ツナくんが混乱している。


かがりくんが言った。

「全員のアリバイを洗い直そう、俺達に会う前、何処で何をしていた」

「あたしとゆきちゃんと……、あとカンナちゃんとまりもさんは、ずうっと体育館にいたよ?」

「そうだな、その間誰も体育館を出入りしていなかった。この四人は白だ」

「じゃあ浮いているのは俺とツナか、お前達に会う数分前に俺はツナとまりりん先輩と合流して、」

「そー、でもオレと一緒にいた姉ちゃんは姉ちゃんじゃないから、結局おれも一人だったってことになるんだよな、」


つまり、かがりくんとツナくんの二人がアリバイがない。


「んー、わからないな、」

「二人ともしっぽを剥がしたらいけるんじゃないのか、?」

「凄い荒技だね……?」


みんながそうやって会話をしている中、わたしはずっと 考えていた。

何かが引っかかっていたのだ、そう、何処かはわからないけど、何かが。


(何だろう、そう、何か、引っかかる……)

「カンナちゃん、どーしたの?」

まりもさんが心配そうにわたしの顔を覗き込んでいた。

見ると、他の人たちもわたしの方を見ている。

「ぁ、いや、何か引っかかるなぁって……」


ふと、さっきの記憶を脳内でリプレイしてみた。


『姉ちゃんが、姉ちゃんじゃなくてーーー、』

『あ、この子、廻斗くんだ、!』

『な、案内役じゃない、!』


ーーー行き過ぎた気がする。


『姉ちゃんがーーー』

『全員のアリバイをーーー』


ーーーいや、こっちじゃない。


『そういえば、ナギさんはもう、君たち以外のプレイヤーのしっぽ、回収し終わってるよ』


なんで廻斗くんは、その事を知っていたの?

まるで、見ていたかのようにーーー、


見ていたかのように。


「あ、」

「何か閃いたの?」

まりもさんがわたしに聞いた。


「今思い出したんですけど、……廻斗くんって、どうして残っているプレイヤーがわたし達しかいないって知っていたんでしょう、?」

「AIだろう?伝達手段はいくらでもある。何せ彼奴らは元々が情報生命体だからな、」

「でもそれなら、『らしいよ』、って言いませんか、?」

「………!!」

「おかしいんです、みんなの捕まる異様なスピードはナギさんがAIだから、走るのも速い、とか、疲れ知らずで未来予測が出来る、とかで説明はつけられるんです、……でも、なんで廻斗くんはそれを見ていたようにわたし達に言ったんでしょう、?」

「つまり、カンナちゃんは本物のナギさんが……ツナくんだ、って言いたいんだね?」

「はい、……恐らく、ですが正しいかと」


わたし達に視線を向けられたツナくんがじりじりと後ずさる。

「お、オレじゃないよ、!」

「じゃあ何故後ろに下がるんだ。何もやましいことがないなら下がらないだろう?」

「やましいことをしたから下がっているんだろう、眼鏡。彼奴を拘束してくれ、俺がしっぽを取る!」

「わかった、後眼鏡ではなくかがりだ!」

雪兎さんとかがりくんが言い合いをしながらツナくんを追い詰める。

ツナくんの姿見がブレて、ナギさんが現れた。


「……それでもう勝ったつもりか!」

ナギさんが悪あがきで、レイピアを手にわたし達に襲い掛かってくる。

前でナギさんを追い詰めていた二人が咄嗟に左右に避けた。

が、身体能力の高いかがりくんを相手にするには分が悪いと判断したのか、ナギさんは振り被ったレイピアを雪兎さんに向かって振り下ろそうとして……。

「ゆきちゃんっ!!」

ふゆちゃんが血相を変えて雪兎さんの元へ走り、彼を庇おうとした。

レイピアがふゆちゃんの身体を斬り裂こうと……したが、何故か寸止めで。

ふゆちゃんが、思っていた痛みが来なかったことを不思議に思ったのかおずおずと目を開ける。

カラン、と音を立ててレイピアが床に落ちた。


ナギさんの背後に誰かがいて、その誰かが、ナギさんのしっぽをくるくると器用に回している。


「珍しいよねぇ、案内人さんがまさか、一人数え逃すなんてさ」

「お前……、プレイヤーかおるん、か」


そう、現れた救世主はなんと、かおるんだった。

よく見たら向こうの教室の扉が開いているから、彼処で潜伏していたらしい。


「驕りは禁物、油断大敵……、だよ、宵待 ナギさん?」

ナギさんは悔しそうに天を仰いだ。


「負けた………、私の、負けだ。申し訳ありません、お嬢様………」



そして、イベントは終わりを迎えた。


その後、かがりくんは本物のまりりんさんとツナくんに合流して事無きを得て、雪兎さんとふゆちゃんは二人で何処かへ行ってしまった。


ナギさんのしっぽを奇襲で奪い取ったかおるんは、イベントクリア報酬として刀を所望していた。


わたしとまりもさんは最後まで残っていたということで柳原やれむさんに散々凄い凄いとよいしょされた。


(余談だが、柳原とれむさんは初手で捕まっていて、かおるんは最初ななち先輩と行動していたらしいが、初手でナギさんが柳原とれむさんのしっぽを奪った後、手当たり次第にその場にいたプレイヤーのしっぽも乱獲し始めたため、あっさりななち先輩を見捨てて隠れていたそうだ。人で無し。)


だけど、これはまだ序の口、寧ろお試しだったのだ。


この後、わたし達は鬼畜すぎるイベントに、苦しめられることになっていく。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


天蓋花学園の屋上で、少女が踊っている。

ふゆだった。

靴をトゥシューズに履き替えて、ふわふわと優雅に踊っていたのだ。

近くでは雪兎が、ふゆのダンスを眺めている。


羽を広げるかのようなポーズをして踊り終えたふゆに、雪兎は尋ねた。

「それ、何の題目だ?」

「今の?オデットのヴァリエーションだよ」

「オデット……、白鳥の湖か、」

「そうだよ!白鳥の湖のバレエは他にもあって、どれもとっても素敵なんだよ!」


きらきらと目を輝かせながら語るふゆを見、雪兎はほんの少しだけ、唇の端を上げた。

何も無い所で転んでいたところを助け起こした所で出会い、懐いてきた彼女に多少影響されたようだ。


少なくとも昔の彼ならば、皮肉を飛ばしていただろうから。


目ざとくふゆが叫ぶ。

「あ!ゆきちゃん笑ってるー!」

「笑ってない」

「笑ってたよ!ほら、もっかいやってよ!」

「騒ぐな、うるさい」

「……ゆきちゃん、お顔逸らしてるけど、お耳真っ赤だよ、?」

「な、!?」

「んふふ〜、冗談でした!」

「此奴……!」

「きゃ〜!!ゆきちゃん怒った〜!逃げろ〜!!」


屋上で追いかけっこをしながら、雪兎は思った。


この時間が、永遠に続けば良いのに、と。

体調崩しちゃった。


バレエの知識は幼少期の受け売りです。

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