始マリノ往生遊戯
「ねぇ、知ってる?」
「なぁに?」
「幻立 天蓋花学園のこと……。」
「あ、知ってるよ!一度始めたら二度とやめられないゲームでしょ?」
「怖いね、でも面白そうじゃない?」
「そうだね!でもURL持ってる人から招待受けないと入れないんでしょ?」
「ふふ、大丈夫。もう貰ってあるんだ~」
「えっ、凄いじゃん!じゃあやってみようよ!!」
人間は、興味と関心だけで動く。
でないと、こんな怪しいゲームを始めるわけがないだろう。
此方としては効率が良いのだが。
そう言うと、何処か人間味の無いその女性は外界を観測するのを止め、何処かへ歩き始める。
「……さぁ、剣闘奴隷達よ。」
夜の無い世界に祝福を。
そして、止まぬ断末魔を聞かせてくれ。
――――――――――――――――――――――
「ね、おーい、聞いてんのか、おーい、神奈?」
「……え、あ、ごめん……」
目の前で腐れ縁こと幼なじみの柳原 楓がわたしの顔を覗き込んでいる。
動かしていたシャーペンを止めて、怒られるのではないかと恐る恐る顔を上げる。
此処はネットカフェ、普段なら勉強はしないのだが、今日は特別。
もうすぐテストだというのに目の前の男はわたしを此処に引っ張ってきたのだ。
「何ぼーっとしてんだよ、勉強しすぎで頭狂ったんじゃねーの?」
「……煩いな……、あんたには関係ないでしょ……」
ふいっ、と顔を背けると、柳原―――楓と呼ぶとキレられる―――が慌てたように謝った。
「ちょ、悪かったよ……、で、話の続きして良い?」
「……別にいいけど……」
柳原は安心したような溜息を吐くとぺらぺらと話し出した。
「幻立 天蓋花学園って知ってるか?最近都市伝になってる、一度始めたら二度とやめられないネトゲ。」
「ネトゲ……?」
ネトゲ。ネットゲームの略。
わたしはネットゲームが好きだ。自他共に認める依存症で、仲の良い女友達(尚ネットの友達)も居る。
柳原はVTuberをやっている。時折わたしも配信を見に行ったり、野良としてチラッと参加したりもしている。
わたしはそんなご大層なものではなく、ただのネットとゲームが好きな一般人だ。
名乗るのを忘れていた。わたしの名前は君影 神奈。とある高校に通う十六歳だ。
因みに柳原はわたしの一つ歳上、十七歳。わたしよりガキっぽいのは男の子という性別故だろうか。
にしても、もう少しオトナになって欲しいとは思う。
「まぁ……面白いんじゃないの、知らないけど。」
「俺やりたいんだけど近くにURL持ち居ないからさ……あのゲーム、URL持ってないと出来ないんだよ、」
「話は聞かせて貰ったよ~?」
「「!?」」
柳原と二人してばっ、と声の出処の方を見れば、そこには長い前髪で目元を隠してる、パッと見女の子か男の子か区別のつかない子。
颯乃木 馨 …… 通称かおるん。いつもは「ななち先輩」こと七瀬 楊花さんと一緒に居る子だ。
「実はさ、そのゲーム。僕参加してるんだよねぇ」
「「えぇっ!!?」」
見事な柳原とわたしのデュエットを聞いたかおるんはけらけらと笑ってスマホを出した。
「やりたい?んだよね?」
その言葉を聞いた柳原は身を乗り出して、きらきらと目を輝かせて「やりたい!!!!」と食い気味に叫んだ。
かおるんはわたしはどうするのか、と言わんがばかりにじっと此方を見つめている。
やりたくないわけが無い。そんなオカルト地味たゲーム、やらないと言ってしまえば面倒事には巻き込まれないが、そんなのゲーマーとして「オワってる」と思う。
気付けばわたしは顎を引き、肯定の意思を示していた。
かおるんがわたしと柳原のスマホにURLを送る。
【幻立 天蓋花学園】。
それは一つの、楽園への誘いであり―――
一つの、地獄への入口でもあった。
――――――――――――――――――――――
天蓋花学園へ『入学』するには、幾つかの手順を踏み、利用規約とゲーム説明に目を通した上で、自分が操作する「アバター」を作らなければならない。
ネットカフェにあるパソコンとVRゴーグル、そしてわたしの自前のUSBメモリを繋ぎ、天蓋花学園の初回ログインのための手続きを始めた。
その過程でアバターメイキングに悩んだ末、結局自分に似た外見の、頬の絆創膏と傷だけが消された女の子にしてしまう。
(悩んだらいつもこうなっちゃうんだよね……、まぁこっちの方がハズレ無いし良いか……、)
初回ログインを済ませ終わったところに、同じく済ませ終わったのであろう見覚えのあるアバターが視界の端にチラついた。
そう、そのアバターはわたしと同じく悩んだのだろうがいつも通り自分のVTuberの方のアバターを使った様子の柳原。
表示されている名前は『柳』だったので実際に声を出して彼奴の名前を呼ぶ時は柳の方が良いだろう。
最も、わたしも自分の名前を捻る気すら起きず自分の下の名前をカタカナにしただけの『カンナ』というプレイヤーネームだ。
溜息一つ。
何はともあれ、これでわたしと柳原、二人分の入学が済んだ、ということだ。
「あ、終わった感じ?お疲れ様~」
ひらひら、と手を振って、此方に近寄って来たのは矢張りアバターとリアルの外見がほぼ(言うなれば全く)同じのかおるん。
「一度始めたら二度とやめられないって言うのがよくわからないんだけど一応入学は出来たな」
「……そうだね、」
辺りを見回せば、目の前に鎮座しているのは門で。
門の後ろには当たり前だけど学校があって。
学校と門の間には、運動場がある。
運動場に誰もいないのは、此処を利用する人達は積極的に運動をしない人ばかりだということだろう。
「新規プレイヤーか?」
「ひゃっ!?」「なっ、!?」
突然、後ろから声がした。
かおるんは慣れたように声の主に手を振る。
「案内人さんじゃん、やっほ~。」
「新規プレイヤーか。名前は……カンナ、と柳。成程、ようこそ、天蓋花学園へ。」
人間じゃないのはわかる。だってその女の人、アバターというよりは外見や服がオリジナルで、声が人間ではなく合成音声だったから。
彼女は少しだけ口角を上げるとこう言った。
「俺の名前は宵待 ナギ。この天蓋花学園の案内役をやっている、NPCだ。」
「NPCがNPC自覚してるんですが……これ大丈夫なのか、」
柳原がかおるんの方を見るも、かおるんはただ肩を竦めるだけ。
良いのだろう。良いからこの学園は成り立っているわけだから。
「ところでお前達の後ろにいるプレイヤーも新規か?」
ナギさんの視線の先には、(わたし達の背後にあたる)もう一人可愛らしい女の子。
見覚えのあるアバターにわたしの頬が緩んだ。
「まりもさん……!」
「あ、カンナちゃんだ!カンナちゃんも天蓋花学園に入学したんだね、」
まりもさん、とわたしが呼んだ彼女は「まりも 。」というプレイヤーネームの、前述したわたしのネット友達だ。
優しくて、アバターが可愛くて、人当たりが良い人。
最初に出会った時、わたしは彼女が別のバーチャルリアリティゲームで迷子になっているのを助けたことから仲良くなったのだ。
今では助け助けられの関係にある。
「友達にURL送り付けられてね……、やれよやれよって煩いものだから始めてみちゃったんだよね」
「そうなんですか……!」
まりもさんは柳原の方を見て「あっ、」と声を上げた。
「VTuberの柳だ!カンナちゃんの友達?」
「「腐れ縁です(だし)!!!」」
二人して叫んだのを聞いては、まりもさんだけでなくナギさんとかおるんもけらけら笑っていた。
「仲良いんだね、二人は。」
「これが人間の“団結力”、か。面白いものだな」
「団結力というよりもうこれカップルじゃなーい?」
かおるんの一言にわたしと柳原は顔を見合わせる。
「……いやいや、無いです、無い無い。」
「俺此奴よりもっと可愛い女の子とが良い。」
「わたし可愛くないってことを言いたいのね、柳。」
「……げっ、」
更に言い合いを始めたわたし達に、ナギさんがストップを言い渡す。
「そんなことはリアルでも出来るだろう。まず入学したんだから学園を見てくるといい」
「「……ゴモットモデス、」」
「あれ、案内人さん来ないの?」
さぁ行こう!とした時に行動に移さなかったナギさんを見てかおるんが言う。
「俺はお嬢様から言い渡されている仕事があるからな」
「成程ね?頑張って」
「有難う」
ナギさんは踵を返して何処かへ行ってしまう。
気になったわたしはかおるんに、ナギさんの言う“お嬢様”とは誰か聞いてみた。
「お嬢様?あぁ、ありすって言う女の子なんだけどね。此処作った人の娘さん。此処の代理理事長みたいなものかな、」
「……凄ぇ人だな。」
柳原がぼそっ、と呟く。
かおるんが微笑んだ。
「凄いどころじゃないよ、だって実質的な此処の支配権はありすさんが握ってるからねぇ」
誰かが生唾を飲む音がした。
「じゃ、行こっか。基本的な内部は普通の学校と同じだけど、顔合わせも兼ねてね?」
――――――――――――――――――――――――
「疲れた……。」
あの後、天蓋花学園の設備や教室を周り、リアルに戻ってきたのが五時半。
そのまま、元々居たネットカフェから家に帰ってきたのが六時。
そこからご飯を食べ、自室へ戻って、今に至る。
ポケットから出したUSBメモリを自分のパソコンに差し、VRゴーグルを装着して再度天蓋花学園にログインした。
先程とは違って賑わっているようだ。
「……なんか楽しそう、」
「楽しそうでしょ?」
「……わわっ、!?」
本日三度目の不意打ち。
振り向くと、青と黒の長い髪の、女の子アバター。
「ごめんごめん、吃驚させちゃったかな?」
「ぁ……、いや、大丈夫です、」
話しかけてくれた女の子は言った。
「ワタシはれむ。貴女はもしかして新規さん?分からないことがあったらなんでも聞いてね」
「有難う御座います……、えっと、カンナ、です。よろしくお願いします……!」
にこやかで優しそうなれむさんは辺りを見回すと、「今日はみんなログインしてるね、」と呟いた。
「何かあるんですか?」
「天蓋花学園に入学したなら、“お嬢様”とまではいかないけど“案内人さん”は知ってるよね?」
「案内人さん……ナギさんの事ですか」
「そ、ナギちゃん。なんか今日から新しい試み?をするらしくてさ、其れでみんな集まって来てるんだよ」
「成程……、」
「ま、ワタシはもうそろそろログアウトしようと思うんだけどね。」
「そうなんですか……!引き止めてしまってすみません……」
「いや、ワタシのお節介だからいいんだよ、じゃあまた今度会おうね!」
れむさんがログアウトしようとする。
何故かログアウトコマンドが拒否された。
「?ログアウト出来ないんですけど。」
「え……?バグですかね……?」
「んー、なんでだろ。」
れむさんだけではない、辺りからちらほら、ログアウトが出来ない、リアルに戻れない、という声が聞こえる。
柳原とかおるん、まりもさんがわたしを見付けて駆け寄って来た。
「カンナちゃん!……と、誰ですか、?」
「ワタシ、れむって言うんだ、貴女達は?」
まりもさんや柳原達が自分の名前をれむさんに名乗る。その間、わたしはログアウトが本当に出来ないのか試してみた。
「……ログアウト出来なくなっちゃってる……」
「なんでだろーね?」
かおるんと顔を見合せ、首を傾げる。
場所が、先程居たところから、体育館に切り替わった。
「……!?」
「えっえっ、どういうこと?」
頭上から、女の子の声がした。
「みっなさ~ん、注目~~!!」
顔を上げると、長い黒髪の女の子が壇上から此方を見下ろしていた。背後にはナギさんや、もう一人白い髪の男の子が控えている。
「急にログアウト出来なくなっちゃって吃驚した?」
どうやら彼女は何か知っている。
彼女が何か知っているなら、あの時ナギさんがやっていた仕事というのは―――
「……ッ、どういうことなん、説明してや!!」
関西弁の少女が叫ぶ。
声からして七瀬さんだ。
「そうだ、説明しろ!」「なんでこうなったの!?」「おい、聞いているのか!!」
突然ログアウト出来なくなって戸惑っていた空気が、一瞬にしてぴりぴりとした苛立ちに変わる。
「煩いなぁ。ちょっとは黙ってくれたらいいのに。」
むむ、と唇を尖らせる女の子。
「仕方ありませんよお嬢様。こうなるのは必然です。突然此処から出られなくなったのですから。」
ナギさんが微笑んだ。
「今ナギさん、あの子の事をお嬢様って言った……」
「つまり彼奴がありすって事だよな?」
柳原がわたしの呟きを拾って言う。
「むー、まぁそっか。じゃあ煩いまま説明続けるね?」
えへへ、と女の子……ありすさんが笑う。
「突然ですが皆さんには……此処で、デスゲームをして貰います!」
ありすさんに、ありすさんの背後の男の子、そしてナギさんがクラッカーを鳴らした。
「……いやいや、クラッカーじゃないだろう!?」
青い薔薇の髪飾りを着けた眼鏡の男の子が突っ込みを入れる。
「え、こういう時って鳴らさないの、クラッカー。」
(鳴 ら さ な い よ …… !!)
恐らく今、全員の心の声が揃った。
「ふーん、別にいいけど。其れより大事な事があるからね。ナギちゃんお願い!」
ありすさんが下がり、代わりにナギさんが前へ進み出た。
「お嬢様に代わり、俺がこの天蓋花学園で執り行うデスゲームの説明をする。」
ナギさんがすらすらと話を始める。
話を要約するとこうだ。
このデスゲームをプレイしている最中はログアウトが絶対不可、わたし達の意識は天蓋花学園に閉じ込められる。
リアルでのわたし達は仮死状態になるのだと言う。
ゲームの最中、ペナルティで負傷したりすると、其の負傷はそのままリアルにも影響が出る。
例えば、わたしが目を失ったとしよう。
その場合、これからのゲーム中、そしてリアルでのわたしの目は特例を除いて二度と使えなくなる。
そして其の特例と言うのが、定期的に開催されるイベントの達成報酬だ。
達成報酬の中には其のペナルティを後から無効化出来るようなシステムがあるらしい。
そうやってゲームを行い、心臓がペナルティ対象になった場合……わたし達はゲームオーバーになる。
尚、特例内にはきちんとプレイヤーの復活もあった。
「……という訳だ。分からないことがあるのならば徘徊している俺や此奴……戮浪 廻斗に聞くと良い。」
そこまで言うと、ナギさんは一歩後ろへ下がった。
ありすさんが意気揚々と口を開く。
「じゃあ剣闘奴隷さん達~?わたしを楽しませてね?」
この世界の支配者は、天使のような笑顔で悪魔のような言葉をわたし達に言い渡す。
「これより……デスゲーム、幻立 天蓋花学園の開校を宣言します!」
彼女の高い声が響き渡る体育館。
わたし達の運命、命、そして縁。
これは、前述した全てを賭けた、天蓋花学園運営達とわたし達の生存戦争である。
初投稿です。
私を支援、激昂してくれた友人に心からの感謝を。