表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/42

第1話 マジックアカデミア

「……えっ?」


 八神八雲(やがみやくも)は突然の出来事に驚いていた。

 さきほどまで座ったままパソコンにかじりつき、大好きなAIイラスト、【ホーリーカオス】という聖剣を持つ背徳感あふれる容姿端麗な女性の製作をしていた。

 しかし、座ってマウスを握り作業をしていると、妙に目がチカチカとしてきて、目をこすっていた。

 すると――自分のいる場所が、珍妙な魔方陣の上であることに気付いた。

 これはきっと中二病をわずらっている奴が描いたものだ。

 だが、こんなものを画面に映していたわけじゃない。

 状況が飲み込めないまま自分の正面を見たら、吹き出してしまいそうな魔女っ娘の帽子を被ったおじさんが複数人と、これまたコスプレだろうと決めつけられる巫女の恰好をした女性が二人いる。

 よく見ると、周りには自分と同じように驚いている若者やおっさんが何人かいることに気付いた。

 

「どこだよ、ここ!?」

「何が起こったんだよ! おい。誰だあんたたちは」

「おいおい。これから商談だったんだぞ……」


 口々に聞こえる不平に目の前にいた女性二人が状況を説明し始めた。


「召喚の儀式。成功しました」

「皆さん、落ち着いて聞いて下さい。ここはマジックアカデミアです。ここにいる皆さんは喜ばしいことに……マジックアカデミアへ無償で入学できる選ばれた方々なのです! 異界より召喚されたあなたたちには、類まれなる才能が与えられているはずです!」

「さぁリリス・アカデミア。こちらを使いお一人ずつ才能を見て参りましょう」

「安心して下さいね。召喚者はこの世界の言葉、文字などを全て読めるはずです」


 そう告げると、魔法使い帽子のおじさん一人が、リリスと呼ばれた緑髪の妖艶な巫女の格好をした女性に石板を差しだす。

 その石板を持ち、召喚されたと言われた男の手を取り石板に触れさせる。

 さすがに美人の巫女装束。男は鼻の下を伸ばして胸の当たりを凝視している。

 同時に召喚されたのは四人で、俺意外は全員スーツを着た男だ。

 部屋の中だったから半そでのシャツ一枚に短パンなんだけど。

 一人目は一番年配者と思える男からだ。

 四角形の光りが石板に灯って何かが映し出された。


 橋爪 尚

 年齢 42

 職業 ビジネスアドバイザー

 レベル 4

 LIFE 350/350

 MAGIC 200/200

 STR 10

 VIT 3

 DEX 3

 INT 55

 AGI 1

 習得魔法 ファイヤーボール、フレイムアロー、フレイムウォール、ウインドブレイド

 スキル 助言


 ……なんだ、あれ。ステータス? 

 これ、ファンタジー世界か何かか!? 

 驚いていたのは俺よりもステータスを見た本人だ。

 どうみてもファンタジー小説など読まない人間に見える。

 読むとしたらビジネス本一択。そんな顔をしている。

 次々と残りの男たちも確認していったが、どれもINTがやたらと高い。

 全員知識が豊富って意味か? 


「次は、あなたです」


 いい匂いがするなーと思ったが、間近で見ると本当に美人だ。

 石板に手を当てると他の男たちと同様光りだして文字が映し出される。

 しかしなぜだろう。俺のステータスが写された途端、その表情が生ごみを見る目へと変わっていた。


 八神 八雲

 年齢 26

 職業 フリーアルバイター

 レベル 1

 LIFE 300/300

 MAGIC 500/500

 STR 2

 VIT 15

 DEX 30

 INT 8888

 AGI 3

 習得魔法 無し

 スキル ▲▲(ホニャララ)トーク


 ……えっ? 俺、魔法使えないの? ▲▲トークって何だ? エロトークか? そんなに得意じゃないぞ。つーかINTたけーな。他の奴ら圧倒してるわ。

 別に学校の勉強とか普通だったよな。

 それより職業のところ伏せてもらえませんか? 皆さん真面目な職業内容なのに、何で俺だけフリーアルバイター何だよ。それって職業じゃねーよ! せめてレジ打ちマスターとかにしろよ! 最近打ってないからか? セルフだからか? 

 止めてくれよ頼むよ。皆さん生ゴミアイしないで下さい。


「……どういうわけか、魔法が使えない方がいますね。お姉様」

「そうね。驚きだわ。こんなこと初めてよ」

「インテリジェンスは高いけれど、魔法が使えないと意味がありませんね」

「そうね。意味が無いわね。どうしましょう」


 二人の巫女は片手を結び合い、見下すような視線をさらに強める。


「皆さんはどうぞこちらへ。直ぐに手続きと今後の詳細をお伝えします。ご馳走も用意させております。宿泊場所も最高級ですから。さぁ、さぁ……」


 伸びきった鼻をしている男たちに一緒についていこうとしたが、襟首をひっつかまれた。

 ご馳走、最高級宿泊場所……ああ……。


「あなたはそちらではありませんよ」


 嫌な予感がする。他の人とは違う部屋へと通された。

 美味しい食事が運ばれてくる場所には見えない。

 ここは尋問室と言うのでは? 

 壊れそうな木の椅子へ座るように告げられると、緑髪の巫女が俺の正面へと腰を掛けた。揺れやがる。しかし俺は帰りたい。揺れてるけど帰りたい。

 違う何かが揺れてるが、心の揺れは家に帰りたい、だ。


「あのー。マジックアカデミアという場所に入らないなら家に帰して欲しいんですけど」

「……残念ながらそれは難しいです。あなたのステータスで魔法が使えないのなら、元の世界へ帰還するための場所、護送の離城へたどり着けませんから」

「護送の離城? 何です? それ。どうして俺を呼び出したんですか?」

「我がマジックアカデミアは、この世界で最高の地位と名誉を持っています。ですが、年々有力な魔法使いが減っているのです。そこで、新たな世界から優秀である魔法使いを召喚し、この国を気に入っていただいて残ってもよいという方に、国の仕事をしてもらっているのです」


 嫌な話の展開だ。

 つまり異世界から奴隷を召喚して仕事をさせているわけだ。

 鼻伸び男たちと一緒に美女と美味い食事で餌付けされてたら、きっと取り込まれてパーにされるに違いない。

 あいつらもうダメだろう。うらやまし……くない! 

 危ない、危ない。ナイスだ、魔法使えなかった俺! 


「ハンドカフスライト」

「それなら、護送の……って何これ!」


 いつの間にか光る手錠のようなものを腕につけられている。

 何だこれ、魔法か! 

 引っ張っても外れないっていうか手にあたると痛いんですけど! 

 おいこら。施錠プレイなんて聞いてないぞ俺はMじゃない! 


「すみませんねぇ。失敗してしまったものは仕方ありませんし、それを言いふらされたら困りますから。とはいえ直ぐに死刑にするとあの人たちがいますからねぇ。あいつはどうなったんだ? なんて聞きつけられても困りますから……きゃあーー! わたくしの体に何をするつもりなの!」

「げっ……まさか!」

「どうしました!」

「この方がわたくしを襲おうとして。慌てて施錠しました。この男は牢獄の町へ送ります!」

「この不埒者め!」

「俺は何もやってない! 無実だ!」

「いいから来い!」


 最高に邪悪な笑顔をみせる緑髪の巫女。

 やばい、この展開、やばい! 痴漢冤罪逃げるが吉だが逃げようがない! 

 終わった。


「ちょ、冗談じゃない! 勝手に呼びつけておいて逮捕? 頼む、助けてくれ!」

「そうですねぇ……わたくしが美しいからお触りしたくなるのは分かりますけどぉ……殺すのはさすがに。ですので、奴隷としてではなく、犯罪者としてね……うふふ」

「うふふってそんな! おい、勘弁してくれ!」

「連れて行きなさい」

「はっ!」


 兵士がわんさか尋問室に入って来て取り押さえられる。

 まじかよ。万事休す……酷すぎるわ。異世界、超怖い。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ