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望みは何でしょう。



天は気紛れを起こすから、それを煩わしく不快に思う者は、還ることを拒んで自由を手にしたがる───最も強く”個”であろうと足掻く。


(白い制服コートの者とは、輪に還らぬ者の事……)


延々と続く選定に呆れを起こしても、気紛れによって起こる類稀な例外に喜色ばって弄んでも、役目を果たしていれば咎められはしない。

天に順次る者、”監視者”が白い制服コートの者の本来の名であり、天が手足とする”死神”である。

いつ訪れるかも解らない生になど何の意味も感じない者のことであり、個の全てを奪う者でもある。


(私は、還りたくて……最期に、生にしがみついた)


天に与えられる選択に左右され、苦しめられて生きる事に何のきょうがあるというのか。

還る事で知る、幾度と繰り返される生死に抗って得た”最期”の機会を、再び味わう可能性のある生に賭ける愚かな選択を嘲笑わらう。


(”人”でありたかった……だから、私は現世にこだわっていたのか)


一個の辿った軌跡を他の個が辿るとは限らず、同じ境遇に置いても同じ選択を進むとも限らないけれど、全てにその可能性が無いとも限らないから、外から眺めているのに”生は面白い”。


(還ることを選んだクセに、白に憧れを抱くなど……無知とはなんと愚かなものだろう)


天は個を慈しみ、個に選択を与えてその行方を測る。

個の抵抗に笑みを見せ、罰に服す個を試す。

それらを”監視する者”は、”個”を棄て、”生”を棄てた者。


「選択の時間だ」


ニヤリと笑い、近付く瑚白の指先に身体が強張る。

苦しさに呼吸も儘ならず、零れる涙越しに見る二人は、いつかのように美しく恐ろしい。

それでも、この苦しみを消すことが出来るのは瑚白たち(白い制服の者)だけだ。


「今度はね、”消去”か」


「”消滅”か、の二択だ」


”今度は”、だと?


(以前”も”だったではないか)


味わう感覚に麻痺でもすれば、声を出すこともできるだろうけれど、身体に感じる痛みを上回る熱と、せり上がってくる息苦しさの中で必死に僅かな呼吸を繰り返すだけで気力が削がれる。

思考が働くだけマシというものだろうけれど、いつになれば”らく”になれるのだろうか。


「君は本当に我慢強いね……だから面白い」


「二度目の死はどう?」


いや、”楽”になることを許さない事が()なのだ。

わざと苦痛を与えて楽しんでいるのか、二人の声から私を眺めて微笑んでいる様が伺える。


「思い出さないように奮闘していた瑚白も面白かったけどね」


「俺は優しいのさ。彗白せいはくと違って()()を大切にするんだ」


「失礼な。僕は大人しく見守るたちなんだよ。個でありたいと願う思いを尊重してあげてるんだ」


「それが冷たいってことさ」


「そう?自らの選択の尊重ほど個を大切にしてあげてる事は無いんじゃないかな」


クスクス、クスクスと楽しげな渇いた声が周りに溶け込んで消えていく。


「だからこの前の奴は想い人を連れて消えちゃったじゃないか」


「そうなんだよね。何故かアイツはそれを望んだんだ」


(消えた?)


二人は何故か寂しげに声を落とし、足元で足掻く私を静かに見下ろしてくる。

以前と違い、死に際に味わった苦しみが消えることもなく、かといって意識が遠退くこともなく彼らの会話が聞こえてくる。


(何を、話しているんだろう……)


無駄に会話を楽しんでいる二人が気になりつつも、鉄錆が口腔内から鼻へ纏わり付き息をしているのか、していないのか解らなくなってきた。

視界もぼやけ、彼らの足先も霞んでしまっているのに反して、彼らの様子が鮮明に頭の中に入ってくる。


(この身体は、人のモノなのか、死神のモノだろうか……)


息苦しさを感じるのだから、死した身体ではないのだろう。


「そうそ、今度はよーく考えた方が良い」


そう考えが過ている間、瑚白が静かに告げてくる。

当然、私に返事を返す意思も気力もない。


「うーん、そうだね。今度が君の最期だから」


(最期……)


彗白せいはくと呼ばれたもう一人の白が軽い口調で繋げてきた。

いったい、どういう意味なのだろうか。

日向ひなた陽色ひいろ”に与えられた『最期の選択』は終わっているはずなのではないのだろうか。


(この選択は”死神”としての最期なのだろうか)


ならば、私の選択は解っているはずだろうに。


「気をつけろよ?言っただろ、お前の選択次第で”あの生者”の処遇が決まるって」


ふっと近付いた影から、低く推し迫る声がした。

凍り付いていた身体中の血が波打ち、心臓が衝撃を受け押し潰されそうな感覚が迫る。


「ああ、そうだったね。君の選択次第で”あの生者”は天の采配から外されるかもしれないんだ」


私の耳に向かって呟いた瑚白の後ろから、彗白が思い出したように独り言のように口にする。

”あの生者”とは、日向真尋のことだろうと容易に浮かんだ。


(そうだ、二人が現れた時、私の傍に日向くんがいた)


今、こうして悶えている傍らに彼の存在は目にする事もできなければ、感じる事も無い。

意識を飛ばされる前に彼はもう一人の白、彗白に昏倒させられていたはずだ。


「ここにはね、死者しか連れてこられないから彼を長く引き止めるのは可哀想だろ?」


そう話しかけてくる瑚白に、力を振り絞ってギチギチと頭をもたげて目を向ける。

揺れる視界の中に日向くんが転がるように霞から現れた。

彗白と瑚白の間、その足下に意識の無いまま横たわる。


「ああ、身体は現世にあるよ。これは彼の形をした”個”の塊、俗に言う”魂”だね」


歓談中であるかの口調を崩すことなく、彗白は口角を上げる。

赤く灯る瞳が笑っていない事が恐ろしさを象る。


「お前が選択を誤れば彼はこのまま輪に還る」


そう静かに告げてくる瑚白に瞳孔が開く。






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