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選択の時間です。



天の采配に準じた者は今世の想いを昇華させて来世に向かうべく輪廻に還る。

それが生を与えられる者に課した天のことわりだという。

その理を曲げて還ってくる者は罰として個の先導を行う……その役目を担う者を総じて”死神”という。


「俺たちは天の気紛れから外れた者だ」


「天の手足となって全てのことを知る者でもある」


天と地は一つであって、個の数は天地合わせて一定に保たれる。

個を創造する天は一定を保つための采配を行っている。


「心配ないよ、お前が”消滅”を選んでもちゃぁんと輪は回るから」


「稀なるお仲間候補だ、歓迎するよ」


二人は歓喜を表し満面の笑顔を向けてきた。

”消滅”か”消去”か、どちらかを選べば”今世の終わり”を迎えることができる。


(再び生を受けても、また自ら死を選ぶ事もある)


再び自身の無力さを嘆いて、自身の愚かさに気力を失うことになるかもしれない。

覚えはなくても誤った選択を繰り返す事になるかもしれない。

どのような生であっても、自分の思うようには生きられない事を儚い憂う日々に、自由とならない与えられる生に時をかける意味はあるのだろうか。

再び失う事の恐ろしさを味わうくらいなら、与えられた選択から最期といわれる”自由”を得ても良いのではないだろうか。


(生きる意味など、考える価値があるだろうか)


二人の言う通り、私が”日向陽色”として生きていた意味など無かった。

生に固執もしていない事実から、私はこの場に稀な者として在るのだ。


(私は……)


逡巡する思いの中、何故か覚えのある”時を告げる音”がした。

一つ、二つ、三つと一つずつ次第にその音は大きくなり、規則正しく揺れる振り子の調べが耳朶に届く。

夏の風が田園の青々とした葉を撫でる音がした。

煽られて鳴るガラス風鈴に、辺りを賑わす蝉の声と手渡される冷たい汗を滴らせた器の感触。


『陽色』───と、呼ぶ柔らかな声と懐かしい笑顔が脳裏に浮かぶ。


「私は、罪を償い……再び生きたい」


叶うのなら、彼が幸福である姿を見ていたかった。

望むことが許されるならば、彼が笑顔でいられるように見守っていたかった。

時が違えて会うことが叶わなくても、この次が与えられたなら、またあの夏を過ごしたい。


(私は、”人”でありたい……)


「───いいだろう」


「君がそう望むなら」


二人から表情が消え、心做しか沈んだような、静かな声音が言葉を紡ぐ。


「お前は”消去()”を選んだ」


「天に抗い赦されない罪を犯した罰は、いつか訪れる赦しを乞うまで続く」


「選んだ罰を享受し、時が来るまで待ち続ける意思を保て」


「いつか来る”時”のために、個が保てることを望む」


二人の伸ばす手の先が私に触れると、私は感覚の覚束無い場所へと堕ちる心地で意識を失った。

長いようであって、直後だったのかも知れない。

ついと目を開いた時、辺りは薄灰色で、壁も上下もない圧迫感のある空間に立っていた。

両手足を確かめ、黒い服装に身を固めていることに気付くと、自身がそこに居ることに疑問が沸いた。


(私は何故ここにいる?)


不可思議に悩んでいると手元に黒いファイルが現れ、書かれる内容に怪しむ事もなく、誰に教えられるでも無く”すべき事”が理解できた───


(そうだ、そうして私は死神となった)


膨大な記憶の回帰に、私は覚えのある空間で立つこともできずへたり混んでいた。

突如として襲い来る痛みの熱と、喉に味わう息苦しさに喘ぎながら蹲る。

日向ひなた陽色ひいろ”であった事を思い出した。


(なぜ……?!)


私は自ら死を選び、白い制服コートの者によって迫られる選択から”消去()”を選んで赦しを待っていた……”個”であるために自ら選んだ。


(赦しを得るには抗うこと無く従事し続けなければならないのに、そうあったはずなのに)


「お前は幾度も与えられる試練に惑わされて、”日向陽色”の記憶を思い出してきた」


「ま、仕方ないよね。その度に掛け直しても瑚白の力が跳ね返されてしまったから」


「”視える者”が陽色の縁故者だったからだろうな」


わざと天が縁故者に近付けてるってのもあるだろうね」


「戒めの試練だからな、仕方ない」


「”視える者”がいたのも、仕方がない」


狭間はざまの自室と呼ぶ空間に、瑚白ともう一人、記憶の中に見た白が霞を払って現れた。

何が起こっているのか、把握できず二人の足先で悶える事しか出来ない。

和やかな雰囲気でいた二人は記憶の回帰を終えた私を冷ややかに見下ろしてくる。


「さあ、今度お前はどっちを選ぶのかな」


「再び迎えた死に希望を持ち続けられるかな」


口角だけが歪んだ笑みを作る二人がのたうつ私の額に手を伸ばす。


「せっかく忘れさせていたのになぁ」


「忘れていられたから、一度は赦しを拒めたのにねぇ」


声にならない苦痛に喘ぎ、思考が定まらない私の前で、二人は愉しげに笑みを浮かべる。






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