罪を知りましょう。
「さぁ?」
無心で呟いた言葉に軽く頓狂な声が返ってきた。
驚いて顔を上げると、二人は至極当然といわんばかりの冷めた目で私を見下していた。
「だってお前、自分で死を選んだんだろ?」
「何でまた生きる事を望むの?」
何の温度もない、ただの空間が一気に冷気の漂う暗闇に感じて背筋が凍る。
「お前は赦されない罪を犯したんだ」
「罰を受けても次の生なんか、いつ与えて貰えられるか解らないよ」
「与えられても、また自分で死を選んじゃうかもしれないだろ?」
「同じ事を繰り返すために生きたいの?」
「何度自分を殺したい?」
「何度も”死”を味わいたいの?」
「それを選ぶのか?」
「それが望みなの?」
『この選択は君に与えられた最期の自由だよ?』
柔らかい真綿のような二人の声は甘美な囁きにも、冷酷な宣告にも聞こえた。
肌に纏わり着く冷たさと、その声音の恐ろしさに頭を上げ続けられず、自分の身体が凍りついたように動かなかった。
自身で選んだ道が自分のものではなく、自由なものでも無い、誰かに与えられた一個の道であるならば、何のために選ばされるのだろう。
(再びあの中に生きて、私は笑っていられるだろうか)
言葉に押し潰される私を、頭上から眺めて笑みを浮かべているなど、俯き震える私には知る由もなかった。
あの中に生きることを諦めて私は死を選んだ。
もう時を戻すことはないのだから、このまま消えてしまう方が良いのだろうか。
消えてしまう方が”楽”だろうか。
「罪を犯さなければ、良かったのでしょうか」
死を選んだことを後悔してはいないけれど、もしもこのまま消えてしまえば、二度と笑うこともなくなるのではないだろうか。
(再び巡る季節を味わうこともなくなるのだろうか)
それを望んで死した訳では無いけれど、死した今その事が脳裏に浮かぶのはなぜだろう。
「さぁ?」
「どうだろう?」
自分の生を捨てて望む通りにしたというのに、今になって何を望むのだろうか。
(浅ましい……)
「……お前は今世に執着がない」
項垂れ、自身を嘲る私の前で、揶揄うように面白がっている雰囲気のあった彼らの口調が、少し変化したように届いた。
小さな溜め息が吐き出されると、感じていた冷気が消えたのだ。
「通常の自死者はお前のように人の形を保ってはいない」
「僕たちの前で”想い”を持つ自死者は人の形を保てない」
静かに落ち着いた口調で語りかけてくる二人に、ゆっくりと顔を上げてその言葉に耳を傾けた。
「俺たちが目にする自ら死を選んだ者は深く重い澱みを纏い、飲まれて自我を失っている」
「澱みを纏うという事は生に固執し、遺恨を残して足掻いている証」
「お前は想いの澱みを纏っていない、という事は今世に遺恨が無い」
「自我を保ち遺恨も執着も見せない自死者にのみ選択が示される」
「来世を望んでいない可能性があるとみなされた証だ」
「全ての死した者はいずれも輪廻に還る」
「還って来る者の今世の想いは、来世を迎えるために昇華させて輪廻に還す」
「稀に天の采配によって来る者と同じように、姿形を保った自死者が現れる」
「そういう者には輪廻に還さず、永劫の時への選択を示す」
「澱みを纏った自死者は”想い”を消して否応なく罰を与え、還る時を待たされる」
「永劫の時を受けた者は生も死も、存在していた意味も、想いも記憶も全て奪われる」
嘲るでもなく、蔑むでもなく、淡々と。
選択する与えた言葉の意味を伝えるように、ただ静かに無機質に、この場に居る意味とその存在を明かしてくる。
「”消滅”とは個である事を失うこと」
「”消去”とは個であろうと赦しを乞うこと」
『”個”とは天が創る”輪”の一部であり、”輪”とは天の気紛れによって成される”輪廻”のこと』
言葉が重く迫る。
「───では、あなたたちは何なのですか?」
零れでる問いに、二人は目を合わせて口元を歪めた。
『我らは”消滅を選んだ者”。赦しを拒み天に抗い、天に縛られ天を嘲る存在』
「死神と呼ばれる者であり」
「死を奪う、輪廻の監視者だよ」
ニンマリと緩める顔は厳かな口調と反して、幼子のような悪戯っ気を含んでいた。




