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目覚めの邂逅



痛い、熱い、苦しい……痛い───いつまで続くのだろう。

強い痛みは身体内からだうちを焼く熱となり、吐き出したくてもがくけれど、喉までも焼かれているようで息をすることすら出来ない。

今までいくら痛くても、苦しくても我慢していられたのに、どのくらい我慢すればこの痛みも熱も和らぐのだろう。


『君は身体が弱いのだから、気をつけないと』


大人になればなるほど、そう言って常に気遣ってくれていた君の方が倒れるなんて。


『冷たい……陽色の手はいつも冷たいな』


花開き温かな季節であってもそう言って自分の上着を掛けてくれていた君の顔色が、私よりも悪く見えた。

この痛みも、この苦しみも君が味わい続けた思いからすれば些細なもので、この惰弱な骨や臓腑を焼く熱も君が抱える重荷よりはきっとらくだろう。


『俺はいつでも食べられるから、これも食え』


そう言って手渡してくれる夏の冷菓は冷たくて甘かった。


(ああ、またあの夏を共に過ごしたかった)


処方される薬の中に毒が混ぜられているのには気付いていた。

いつからか見せかけの親類が持ってくる薬袋の中に、僅かに異なる粒と色の粉が混ざっていることに気が付き、飼っていた魚に与えて確かめておいた。

『明日とも図り知れない』と告げられ、役に立つ日が来たと、こっそりと隠し、溜め込んでいたそれを纏めて含んでやった。

少量ずつならば、まだ多少の延命はあっただろう。

少量ずつ含み続ければ、気付かない内に死を迎えていたかもしれない。

現に私の身体は幾らか知らずに含んでいた毒で弱っていたが、彼らの思惑通りになどなってやりたくは無かった。

彼らの話など聞いてはやらなかった。

簡単に全てを好きにはさせないと、細やかな意地でもあった。

病弱だからと蔑み、思い通りに操れなくて苛立つ様は滑稽だった。

腹黒く欲深い者たちへ、最期の足掻きを見せるのは心地好い……だけれど唯一彼を巻き込んでしまうことが辛かった。

身勝手にも、彼が嘆くことが無ければ良いとだけ願いながら、全ての準備は整えてきた。

古時計の中から封書が見つかれば、遺してきた物は彼の手に渡るはずだ。

こうする事でしか、彼に手渡すことが出来ない。

こうしなければ、彼は受け取ってはくれないだろう。


(痛い……)


傲慢にも、朔に会えなくなったことに心が痛み涙が滲む。


「へぇー、珍しい」


痛みに耐えることしかできない暗闇に、堕ちたと思っていた頭上から愉悦を含んだ声がした。


「んーと、服毒か」


「こちら側だよね?」


「さぁね。”選択”次第だ」


近付く足音もなく、耳に心地の良い声音が届いてくる。

何の話をしているのか解らなかったけれど、息も絶え絶えに、半分閉じかけていた瞼を持ち上げ周囲を見渡すと、突然霞を払って白いコートを着た者が目の前に現れた。

いつの間にか自分の部屋内から覚えの無い場所で蹲っていた……彼らと私しかそこに居る様子はない。


「ほら、これでもう痛みは無いだろう」


(ここは何処だろうか……痛みが、薄れていく)


降り注ぐ声音に、なぜか味わっていた痛みも苦しみも、長く感じていた熱さえも消えた。

自身の異変に驚き上体を起こして身体を確かめていると、彼らが私に向かって腕を伸ばしていると感じて視線を向けてみた。


「君には選択する余地が与えられる。消滅()消去()か、どちらにするか選べ」


「え?」───声がでた。

薄暗く何も無い白い空間に、私は膝を着いていた。

二人が赤く光を伴う瞳をしている事に気がついた。

見たこともないそれらが人の形をしていても、人では無い者であると何故か解った。


「君はゆるされることの無い罪を犯してここに居る」


「その罪に抗い永遠の時を彷徨う我らと共に過ごす消滅か」


「その罪を悔い輪廻に還る時を待つ消去か、選択する機会が与えられた」


決まりきった口上なのか、いかにも愉しげな口振りで二人はにこやかに告げてくる。


「赦されることの無い……罪?」


自分の置かれる立場が把握できず、狼狽えて問い返す。

ここは何処なのだろうか。

私は本当に死んだのだろうか。


(それにしては四肢の感覚も目も耳も口も効ける)


「んー、お前は自分で毒を飲んで死んだ。解ってる?」


目付きも悪く、人を小馬鹿にしたように腰を折って顔を近付けてくる者。


「まだ抜いてないから、あるはずだよ。自分で死んだって記憶がね」


その場で腕を組み、小首を傾けて態とらしく悩む振りをする者。


(彼らは、何者だろうか)


白味かかる髪に青白い肌と赤い瞳、どう見ても真面まともな人間とは思えなかった。


「お前は天によって与えられた選択を誤り、自ら望んでここに来た”罪人”だ」


「天の選択を自身の解釈で歪曲わいきょくさせて道を作り、進んだ者は罪を背負うんだよ」


「勝手に手折る罪人に俺たちは新たな選択肢を与えるのが役目だ」


「君は自分で天の選択を拒み、罪人となった。素直に輪廻に還すわけにはいかないんだ」


「ま、お前の()()を尊重し、今後新たな生を受けたいのか、受けたくないのか訊いてやってるってことさ」


二人は面白おかしげに私に対して交互に話し続けた。


(天の、選択……私の、意志?)


思案するに自然と目線は下がった。

私は死んだ。

その選んだ死が罪であり、これから罰を受けるための選択をしろという。


「新たな……生」


また生きることができるのだろうか。

また生きることがあるならば、その時は今までとは違った生き方ができるのだろうか。


「……罰を受ければ、また生きることができるのでしょうか」


また生きることができるのであれば、今度はもっと長く、多く笑顔でいられるだろうか。

ふいに思い浮かんだ僅かな望みが込み上げ、つい言葉が漏れでる。






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