思う人です。
───夏は西瓜、胡瓜、茄子などが体温を下げる食べ物として重宝されてきた。
一昔前なら目や耳で涼むことや、食して涼むことでも涼を充分に得られていた。
昔から貴重とされる氷を砕いて甘味を付けるような涼み方も夏を楽しむ一つとしていた。
『いちごとメロン、どっちがいい?』───よく、問われた。
親しみのある笑顔で、必ず隣に座って、自分よりも優先してくれた。
食べ始めるまで、一口食むまで、その笑顔は崩されることもなく、食した感想が漏れると喜んで、先に食べ終えるのを待つかのようにゆっくりと食べ始めるのが常だった。
そうして半分ほど残して手渡されるのを、知っていて受け取る。
彼の好意でいつも違った味の冷菓が味わえた。
陽の差し込む甘味処のテーブルで、時折通り抜ける風の中、このようにして毎夏過ごした。
『君は身体が弱いのだから、気をつけないと』───それが、”彼”の口癖であり、いつもの”私”への気遣いだった───
『───冷たいな』
「……冷たい、ですね」
ボソリと呟く声と真横に立つ彼の真っ直ぐな目に、脳裏に浮かぶ景色が大音量な蝉の声と相まって消されていく。
(何だ?)
ゆるりと離された手の感触を、眼球が追った。
(何、だ?)
「一郎さん」
一瞬のことに頭が追いつかず、自分の手がドアノブを握ったままであることは認識できた。
死神が現世において生活するのに他からの視覚的問題はない。
ただし、死神は死者であるため、生者のように血は通っておらず体温は無く、直に肌へ触れることでその違いは顕著である。
(しまった!)
全身に冷水を浴びたような感覚が覆う。
無機質なドアノブが取れてしまうのではないかと思うほど、堅く握りしめた手が自分の意思では動かせなかった。
とり繕える言い訳が浮かばず、その場、その時が止まってしまったかのように思えた。
私にこの状況を脱却できる能力があれば簡単だっただろうに、生憎そのような能力など持ち合わせておらず、行動とともに思考までもが凍結する。
「俺、前に会ったことがあるって言いましたよね」
落ち着いた彼の声だけが私の耳に入ってきた。
屋上コンクリートの照り返しで、辺りは熱気が溢れているはずなのに、私と隣に立つ日向くんの周りだけに寒々とした風が頓着しているように感じた。
「日向陽色さんは、病弱で」
『君は……弱いのだから』
「25歳になる二週間前に」
『……気をつけないと』
「亡くなったそうです。だから」
誰かの話し声と日向くんの声が重なる。
ゆっくりと緩慢な動きで視界が動いた。
日向くんは真っ直ぐに立ち、私を直視していた。
「俺は、陽色さんを写真でしか知らないけど、会ったんです」
その眼は真剣そのもので、声にも態度にも偽りの影など見えず、日向くんが何を言っているのか、何を言いたいのか……
「祖父ちゃんの死んだ日に」
彼が、何故私の視界を彷徨くのか、知ることになった。




