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奇遇です。



死神は制服を着ていれば生者の目に映る心配などもなく、その場から静かに離れられる。

脳内で思い描けば即座に事務所へ着き、所定の手続きを終えれば二羽の待つ家に帰れると、少しばかり頬が緩んだ。

二羽との同居にもすっかりと慣れてしまい、新たに二羽が居住地を定めるといった話もなければ、その様子もなく、寧ろこのままの生活が当然となっていくようでもあった。


(確かに期間は決めていなかったけれど……長く過ごすつもりはなかったはずなのに)


誰かとの同居生活は心地好くも思え、それも悪くは無いとの考えに呆れとともに苦笑いが漏れる。

以前の自分とは反する思想である。

”同じもの”同士であれば隠し立てもなく、常に孤独であらねばならない訳では無いのかもしれない。

いつかそれぞれに時が来れば分かたれるのは生者であろうと、死神であろうと同じなのだ。


(問題はない)


私にも関わった者は数知れずといるが、その中で鮮明に記憶している者などいないに等しい。

この身となって親しくしていた者であっても、時が経つほどに忘れ去ってきた。


(いつか、二羽との別れが来れば、それもまた忘れてゆくのだろうな)


残される者の寂しさなどという感傷は記憶と共に忘却ぼうきゃくしてきた。

残される……取り留めのない事を考えながら自嘲し、目の前の手続きをこなす。

事務所内はいつもと変わらず見知らぬ同業者で混雑はしているものの、窓口の増設によって渋滞もなくすんなりと片付いた。


(さて、花火か……ゆっくりと眺めるのはいつ振りだろう)


などと目先のことに浮き足立って考えながら事務所を後にしかけると、辺りが少しざわめいているのに気が付いた。

ふと騒ぎの方へと気を向けると、人混みの隙間から白い制服コートが見えた。

事務所に白い制服コートの者が現れるのは稀である。

彼らは黒い制服の私たちと違って何処だろうと進入出来るが、召喚引き継ぎのための黒の溢れる事務所には特段用もなく、姿を見せない。

力量や職務、存在自体が稀有けうな彼らは黒を監視する立場でもあるけれど、何かしらの理由がない限り一線を画しているからだ。

故に、瑚白の私に対する言行動は珍しいといえ、滅多に目にすることの無い存在に戸惑いと驚きが混ざりざわめくのは当然のこと。


(珍しいな)


私も瑚白以外の白を見るのは二度目だ。

以前は見たというより、見かけた程度だったが、今回はどよめく間を割くように颯爽と歩いていく白の姿が確認出来た。

真っ白なロングコートが背筋の伸びた体躯に合い、交互に繰り出される長い足捌きによって裾がヒラリヒラリと舞う。

珍しさに足を止め、人の垣根より少しばかり離れてじっと見詰めていると、注目の的である白はスッと視線を走らせ私を捉えた。


(おや、目が合ってしまったか?)


大勢の中で目が合ったからと浮かれるほど自意識過剰ではないつもりだ。

目が合ったからと会話を始めなければならない訳でもないのはお互い様で、その僅かな瞬間に何を思ったのか図りあう間もなく微かな笑みを残して白は幻であったかのように消えた。

事務所内は突然現れて消えた稀有な存在の確認に興奮し、誰彼構わず捕まえては騒ぎ始める同業者たちから、巻き込まれまいと逃れるようにして家に戻った。


(赤いをしていた……な)


白い制服コートの者は皆、赤い瞳を持つのだろうか、と瑚白を引き合いにして思った。





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