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チャンスです。



何てことは無い。


「───召喚します」


死神は一個の死者であり、天の采配による呼び出しに応じて職務を遂行する。

死して尚も赦されることの無い罪を背負った者が死神となり、神の赦しがあるまでその役割を担い続けるのだ。

それがいつまでなのか分からないし、自身の罪が何であるのか、どのようにすれば赦されるのかなど知る事も出来ず、気づけば死神として存在し、誰かに教わること無く当然のようにファイルを手にして動いている。


「お疲れさまです、先輩」


「お疲れさま」


にこにこと愛想の良い二羽を見ると仕事が滞りなく進んでいると分かり安堵する。

あれ以来二羽も気を抜くこと無く邁進しているようだ。

とはいえ、あれは天による力量を図るための試験だと言っていたから、また気紛れに宛てがわれるかも知れない。

昨今”特例”は増えているとも言っていた……瑚白たち白い制服の者は元々少数だと聞くし、遊ぶ暇もなく、その仕事量たるや私たちの比ではないはずだろう。


(ざまぁみろ)


瑚白と狭間で会ってから数日経つ。

心の中で白の悪態を吐きまくっても本人には届かないのだから自分を保つためにも(ストレス発散法として)良しとし、機嫌の良い二羽と数日ぶりに隙間時間が合い、量販店での買い物に出かける。

慣れてきたとはいえ未だ生者との関わりに不安要素が残るため、やはり二羽一人での散策、お使いは任せていない。


(これは過保護というやつになるのだろうか)


私たち(死神)に空腹という概念はなく、食料品や生活必需品などまったく必要ないのだが、現世で生者に混ざり生活を送るために生者と同じ様式を辿り行っていかなければ怪しまれる。

心臓は動いていないし痛覚は鈍いが、視覚味覚嗅覚聴覚触覚は生者と等しく感じることができるのにやまいには罹らない。

自分自身の体について詳しくもなく、知ろうという気持ちもないけれど、生者と深く関わらなければ特に問題も無い。

───この様な面倒をしなくても狭間はざまに居れば良いのだけれど、私は現世に居続けてしまう。


「あ、一郎さん!」


買い物も済ませ量販店を後にして帰宅途中、後ろから小走りで日向くんが駆け寄ってきた。

現世で私たちに気軽に声を掛けてくる者など、同業者かもしくは彼ぐらいなものだからか、名前を呼ばれる事も彼と()()出会でくわすことにも慣れてきた。


日向ひなたくん、こんにちは!」


「こんにちは、二羽ふたばさん。買い物帰りですか?」


「はい!今晩は牛丼に挑戦するんです!」


隣に並ぶ好青年に二羽は何の警戒心も表さず対応する。

買ってきたばかりの食材の入っている手提げ袋を開いて見せて、満面の笑みを浮かべた。

最近の二羽は料理に興味を持ち、時間があれば色々と作っては楽しんでいる。

仲良さげに談笑しながら並ぶ二人を見ているとどちらが年上なのか分からなくなるほど、日向くんに対して二羽は幼く感じた。


(もしかして、二羽は自身の年齢を高く作っているのだろうか)


私たちは気づくと今の見た目であるため、実際に幾つなのか分からない。

象っている姿が死した当時のものなのか、それとも思い入れの強い者の姿なのか、または天に用意された姿なのか、わからないのだ。

ただ、自分で適当に(このくらいだろう)と漠然としているだけである。


「あー、でも今から帰ってお米研がなきゃなんないんですよね」


二羽は変わらず楽しげに会話を繋げる。

人通りの少ない住宅地であり、並んで歩くに然して窮屈でもなく、傍から見れば()()()友人関係に思えるだろう。

それでも触れれば生者との違いがはっきりとしてしまうため、用心はしていなければならない。


「じゃあ、ウチで作って食べませんか?」


「え?」


「ほら、前は一郎さんの家でしたし、今度は俺の部屋でどうでしょう。ちょっと白ご飯炊きすぎてるんで助かるんですけど」


日向くんは自身も買い物をして来たと言わんばかりに手提げを掲げて見せ、「今日って肉の特売日でしたよね」と屈託なく笑う。

以前の二羽なら間髪入れず二つ返事でもしていたのだが、少し躊躇う様子に、共同生活を送る内にやっと慎重さを覚えたかと感心してしまった。

私がそのように思っているとは知らずにチラリと窺う素振りを見せてくるその目には、はっきりとした期待が込められていることがヒシヒシと伝わる。

私としては断りたくてたまらないのだが、『行きたいです!』という熱い視線に決断を余儀なくされる。


「……そうだね、せっかくだから」


「お邪魔します!」


「はい、どうぞ!」


食い込み気味に喜ぶ二羽を見るとここで無下にしてしまうと可哀想……ではなく、これは彼を知るチャンスかもしれないと考え直してみた。

彼、日向ひなた真尋まひろくんは何者なのか。

何を隠しているのか───度々私たちを伺い見ている様子も、何かを探ってくるような言動にも得体が知れなくてつい警戒してしまうのだが、タイミングが掴めずその真相が分からないままだ。

さらに、計ったかのように階下へ来たことも気になる。


(彼は、もしや()を知っているのではないだろうか)


それを確かめるチャンスではないだろうか。





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