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理解できません。



真っ直ぐに見据える私に瑚白は僅かに素の表情を見せたと感じる。

いつも細められていた切れ長の目は冷酷さを表し、軽く結ばれる薄い唇は拒絶を告げる直前のようだった。

常にふざけた態度で真面まともな顔など見せることの無い瑚白の本来の姿を垣間見た気がしたが、やはりそれは一瞬のことだ。


「アレは黒の定期試験のようなものさ」


僅かな沈黙の後、そう言って諦めたような素振りで表情を緩めて答えた。


「試験?」


「そ。お前も担当した事があるはずだよ?必ずその場で捕縛しなきゃなんない死者がいるだろ。最近増えてるし、お前は即対応出来てるから面倒にはなってないけどな」


自身の言葉に疑問しか湧かない私に気づき、何がおかしいのか小馬鹿にしたようにクスリと笑う。

ニヤニヤとする顔に眉間に力が入り拳を握ってしまった。


「死者が澱みを纏う理由は?」


「はあ?そんなもの、死する時の”想い”の重さが溢れるからだろ?」


「まあ、そうだな」


イライラが全身から溢れ出ているだろうに、瑚白は変わらず余裕を見せ、私を試すかのように話を繋ぐ。


「その前に、死の状況が一因となり、死の原因が重さに比例する」


「どういう……」


「人の死は自然でない場合に”想い”は重く、死して尚増して自我を奪う」


詩を読むかの言動と、どこか瑚白の纏う冷淡な雰囲気に飲まれそうになる───背筋を冷気がなぞるようなゾクリとした感覚を味わう。


「アレは自殺者さ。自死した者はその時その場で捕えなければ澱みやすく自我を失いやすい。黒が捕えられない場合俺たちが出張らなければ対処出来ない……後輩くんに対応させるにはまだ早かったようだね」


軽々しく、何事でも無かったとばかりに貼り付けられた笑顔のまま告げる。

人の死には色んな要因があり、その中でも対応が難しいとされるのが[自死した者][殺害された者]の二種だ。

これにマニュアルはないし、そもそも死した時に捕縛出来ていれば問題など起こらない。

殺害された者に関しては直後に放心状態の者が多く、澱みを纏うまでに僅かな余裕のある場合があり、初動で捕縛出来る確率は高い。

が、自死した者はその原因として他人に恨みを抱いて死を選んだ者が多く、また、それを選択しなければならなくなった要因が現世にあれば、現世の全てを怨んだままであることがある。

死へ向かう間に澱みを纏っている場合もあれば、死者となった瞬間に澱みを纏い捕縛出来なくなることが稀に起こると聞いたことがあった。

事実、[完全な悪霊]の捕縛は黒い制服の者には難しいといわれ、主に白い制服の者が対処していると耳にしたことがあるほどだ。


[白い制服コートの者は”思いを計”り扱い、”思いを奪う”者である]


長くこの稼業にあって、私は[完全な悪霊]と対峙したことがないから、その真相について確かめたことは無い。


「二羽が取りこぼした者は……」


「そ。ファイルには重要度なんて書かれていないからねぇ……『自死』とはあったはずだけど?一郎の気にかける後輩だからね、対応出来ると判断されたんじゃないかな?」


にっこりと笑顔を浮かべる瑚白にようやく心から怒りが湧く。


「そんなにりきむなよ。試験だと言っただろ?最近多くてね、全部の黒には定期的に振り分けて力量を測ってるんだ、()()()()要因の深い奴に当たっただけさ」


睨みつけられることに全く怖じ気もせず、むしろ楽しんでいるかのような態度を見せる瑚白は適度な距離を保ち、私へ近付こうとはしない。

ここが狭間であって、対峙する私に力を使用する必要性の無いことを表しているのだろう。

思い返せばコイツはいつもふざけた態度であっても、問いに対して虚偽の判断がつかなくても必ず納得できる返答をしてくる。

私が訪れるのを待っていたというのは本当なのだろうし、おそらくこの答えは用意された真実なのだろう。


「分かった」


一呼吸置いて気を鎮めてからゆっくりと改めて瑚白を直視した。

瑚白は「そう?」と疑わしい様子を見せたがにこやかだ。


「もう一つ、聞きたいのだが」と繋げても機嫌良さげに見えた。


「死神が記憶を取り戻すことはあるのか?」


そう問い掛けた途端に、今度ははっきりと纏う空気が変わり、赤い瞳が迫った。






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