面倒です。
やはり私の担当する死者の怯えと逃亡率は変わらないようで、しみじみと自分の何が恐ろしいのかと疑問に思ってしまう。
人にとって死神というだけで恐ろしい者だろうとは想像はつくけれど。
私の声は所謂イケボと称されるもので、声質、音程、発音など自然と耳に心地好く届くとの評価を受けている。
とはいえ、評価をしたのは瑚白なのだが、あの瑚白が褒めるのだ、それ故に捕縛に関して自信を持っても良いのではと思う自分がいる。
(アイツの声は異常だからな)
白い制服の者の声はその場にいる者の好む声音となって響くという。
現世の死神像が個々に併せて変異するなどとされているのも、白い制服の者のせいだろう。
例えとして、[死神には鎌]という伝承は生者の首を落として死せるためや、身体と魂を切り離すためなどに揶揄されて装備させられているらしいが、そんな物騒な物を持ち歩くと直ぐに怪しまれて現世では居づらくなってしまうし、持ったままの移動など為悪くて邪魔だ。
持てと言われて喜んで持ちそうなのは瑚白くらいだろう。
死神は”導く者”であって”招く者”ではない。
稀に[視える]生者にはどちらでも同じ事だろうけれど、偶発的に視た者には”報せる者”としても映ってしまうのかもしれない。
「何故、行使出来なかったんだ……」
幾日経とうと私の過去に例がなく、澱みを纏った取りこぼしに対して、声が効かなかったことに疑問を抱えたままだ。
それを知っていたかの瑚白の態度にも苛立ちを覚える。
白い制服の者が必要なことを話さないのは常なのだが、アイツは私に対して”嘘”を吐くことは無い……と思うが、自信はない。
(死者に声が届かないなんて、あってはならないはず。澱みの深さのせいなのか?)
澱みを纏った者を捕縛した経験はあったはずだがと、曖昧な記憶にモヤモヤとしたまま日は過ぎる。
あの時の取りこぼしが通常とは違っていたことは間違いではない。
瑚白が現れたことがそれを裏付けているのだから、私の考えは正しいはずだ。
「面倒だなー……」
「何がですか?」
一人考えに耽っていたため周りの気配に頓着だった。
夕暮れ時の静かなリビングのソファーに体を預けている隣に、呼び出しからいつの間にか帰宅した二羽がマグカップを手に小首を傾げて立っていた。
「何か悩み事ですか?」
ふわりと揺らぐ湯気のたつマグカップを一つ私の前に置き、自分用にと用意したクッションに腰を下ろす。
この家に二羽の持ち物が段々と増えつつある。
日が経つにつれ二羽はだいぶと落ち着いて家事が出来るようになり、時折こうして気を配ってくれる。
不慣れで目が離せない頃に比べて四六時中くっついている訳ではなく、家の中では適度な距離を保ってくれるようになってきた。
慣れてくると同居していても不都合はなく、寧ろ手の届かないところへ気遣ってくれているようにも感じて助かる場合もある。
とはいえ、食器の買い直しは未だ続いてはいるけれど。
「いいや。おかえり」と少し喉が渇いていたところへの配慮に感謝を述べつつ入れてくれたココアをいただく。
牛乳のみで入れる甘みの少ないココアは私の好む飲み物だ。
「先輩、何かあるなら僕に言ってくださいね!お世話になっているんですから、僕、何でもしますよ!」
ほっと一息吐く私の様子を見て、二羽は真面目な顔でいきんできた。
唐突に何事かと目を丸くして見せたが、二羽にすればここ最近の私は何か思い悩んでいるように映っていたらしいと知る。
「何もないよ」と答えるも、「絶対ですよ?!」と迫ってくる真剣な姿が可笑しくて笑ってしまった。
「分かった、何かあったら相談するよ」
そう笑いながら返したことが不満であると拗ねさせてしまった。
最近思考を惑わす事柄が増えているのは事実だが、それらを二羽に話す事は出来ない。
話しても答えを持っているはずがないと分かるからなのだ、二羽が頼りないという訳では無い。
「ほら、拗ねてないで仕事だよ」
一緒に居る時間が長くなると個人の性格や接し方が分かってくる。
呼び出しに立ち上がりながら頭を撫でてやると、二羽は頬を膨らませつつも後に続く。
黒い制服で全身を包み、ファイルの中を確認して指定される場所へと向かって飛ぶ準備が整う。
「じゃ、先輩また後で!」
「ああ、後でな」
同じ区域であっても毎回同じ場所であるとは限らない。
人は毎秒ごとに生まれる者がいれば死ぬ者がいる。
そこに個人の意思は無く、全て”神”の采配によって行われ、私たちは指示された通りに動いている。
(面倒だが……やはり聞くが早い)
死神であれば、与えられた職務を遂行しないことは有り得ない。




