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出かけます。




「私は洋菓子は苦手なのだけど」


そう告げると途端にしょげて手にする紙切れを握る。

体調は元に戻り万全ではあるけれど、本日は雨であり、呼び出しも数件終わった寛ぎの時間だ。

態々外出をしようなどと考えるより、ゆっくりと読書にふけりたいと思うのだが、「……僕一人じゃつまらないですよ」と、泣きつかれれば重い腰を上げざるを得ない。

二羽は狭間はざまに居た時間が多く、相当現世に強い憧れを抱いているようだ。

何であっても目にする物が珍しく、積極的に接触してしまうため、生者との付き合い方や関わり方が危うく、自身の正体をバラしかねない。

以前の区域内で、一人で現世に降りて何度か怪しまれ緊急措置として持ち場を代わらねばならなくなった事が数度あるという。


「先輩が現世で一回も問題を起こしたことが無いって知って、僕、先輩と仲良くなりたいって、一緒に住んでみたいって思ってたんです!」


そう言って二羽は私を見かける度に他の誰よりも先に駆け寄って親交を深めようと努めていたのだと白状してきた。

あの日、担当区域移動が申し渡された時は念願叶ってそのまま昇天出来るのではないかと思ったようだ。

担当する区域が違うと一緒に住むことは難しい。

直ぐに職務に就けないと取りこぼしの元となり、職務不履行で厳罰対象になるため、現世よりは狭間に居るほうが安全でもある。

現世では瞬間的に移動ができるといっても、決められた区域内でのことであって、使える能力は万能ではない。


瑚白()たちは別格だがな)


自分の思考を妬んで愚痴が浮かぶと溜め息が零れた。

雨の中を現世の新聞に挟まれていた広告を手に歩けることが嬉しいのか、二羽はご機嫌で目的の店を探しつつ街並みに目を向ける。

その姿がなんとも微笑ましく、少しばかり羨ましく、色とりどりの傘とすれ違いながら私の気分も悪くはなくなった。

「ここですよ!」と声を弾ませて店の扉を開く二羽に続くと、モダンな雰囲気の演出された温かな店内に既視感を覚える。


「いらっしゃいませ」


最も近くで出迎えられた声に、お互いの視線が交わった瞬間穏やかさは驚きへと変わった。


「日向くんじゃないですか!」


「一郎さん!二羽さん!」


「……こんにちは」


「なぜここに?あ、僕たちはコレ食べに来たんです」


店の入り口で広告を手に弾んだ声の二羽に紺色のエプロン姿の日向くんは笑顔で近寄ってきた。

見て分かるのだが、「ここでバイトしてるんですよ」との返事とともに空いている席へと案内してくれる。

昼飯時を過ぎていても空席は店内の半分ほどか、なかなかの人気である。

真新しい洋食屋で、装飾も家具も艶があり埃が見当たらず、私好みでもあった。

水の注がれた硝子コップとホカホカの濡れタオルを手に戻ってきた日向くんに、「これ二つ!お願いします!」と嬉々とした声で二羽が注文すると、静かな音楽の聞こえていた店内にクスクスといった声が混じった。

成人男性が二人して果実たっぷりのカラフルな甘味を頼むのがおかしいというより、二羽の愛嬌の良さに笑顔を誘われてしまったと見える。

共に居て少しばかり気恥ずかしく平静を装うのに苦労する。

日向くんはにっこりと笑って短く返事をするとカウンター奥へと消えていった。

品が届くまで落ち着きなく周囲に目を向ける二羽に、半ば呆れて「大人しくしてないと怪しまれる」と小声で注意すると、直ぐに焦りを見せて畏まった。

来店客は女性が多く、店員は日向くんを含めて三人ほどいる。

さほど時間も掛かっていないように感じたが、目の前の二羽は待ちきれないようでチラチラと彼の動きを追ってはカウンターの様子を気にしていた。


「お待たせいたしました」と、やはり日向くんが運んできた花型のグラスに盛られた果実とクリームの山に、二羽は歓声を上げかけてまたも店内に微笑む声が湧く。

これは二羽を教育するよりも私が慣れなければならないのかもしれない。


「しぇんぱい、これ甘くて冷たくて美味しいでしゅよぉ!」


「そうだな……分かったから落ち着いて食べなさい」


「ぅんまぁ!」とはしゃぐ二羽を見ていると周りの視線が痛くて食が萎えた。

しかもこの甘味は私には向かない食べ物だと、同じ食べ物を前に溜め息がでる。

果実とアイスを少しずつ口に入れ、結局半分ほど食して先に完食した二羽が私の残りも食して席を立った。

支払いの際、「またのお越しを」と告げられ、二羽は是非にと挨拶をしていたが私は遠慮したいと心の中で呟いた。

店を後にする私たちを追う彼の視線に気付かないふりをする。


暫くは落ち着いた日が続いた。

といっても”人”の時間に期限があるため私たちに暇はない。


「死にたくない!」と踵を返して逃げ出す死者に、「残念ですが、既に死んでますので」とファイルの中を確認して読み上げる。

一文字ずつ、間違うことの無いように正確にと自分を律して職務にあたる。





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