思い馳せます。
認めなければならない。
(あいつは、取りこぼしが穢れ始めていたことを知っていたんだ)
いや、元々分かっていたはずだ。
白い制服の者は特別なのだと、比べることがおこがましく、それによって自分を貶めなくても良い。
(私たちの手に負えないと分かっていたんだな)
それでも、自分に与えられた黒を嫌悪してしまうのは、白に対して羨望しているからだろう。
あの、自分には無い力に憧れる───故に腹立たしい。
「先輩!ありがとうございますぅぅぅ!」
感涙の大粒を振り撒きながら二羽が頭を下げてくる。
取りこぼした死者は無事に次へと引き渡すことができ、二羽自身が事務処理も終えて帰宅してきた。
死者を送った直後、私たちの居場所に辿り着いた二羽に説明をし再び別れ、気力の欠けた私を抱える瑚白が楽々と自宅へと送り届けてくれた。
瑚白は穏やかな笑顔を浮かべて、用は済んだとばかりに手を振って大人しく帰った。
黒より白は断然少数であり、暇など無い。
(白と居ると疲れる……だから嫌なのだ)
以前から白い制服の者に触れられると力が抜けてしまう事象を味わっていた。
瑚白はその理由を分かっていて私に触れてくるのだ。
同業者に触れることで他者から気力を補填出来る事は白い制服の者の特質である。
白が黒の記憶を奪う時、死者に対する時と違い直に触れることを条件とすると聞いているため、白に触れられる事は好きでは無い。
なお、その時は他と同じく相手を視界に留めていなければならないし、黒の同意が無ければ行使出来ない。
瑚白は白にとって”思い”を抜くことなど造作も無く、呼吸をするようなものだというが、その実、”想い”によっては一度にかなりの精神力を削られてしまうようだ。
だから白い制服の者は常に気力を枯渇させない為狭間に留まり、余計な事に惑わされないように他との関わりを持たない───これが、存在が噂の元となる所以となっている。
私は白に記憶を与えた事がない。
いや、与えたくはない。
『消滅か消去か、どちらか選べ───お前の好きな方にしてやる』
初めて瑚白に出会った日、気付けば見知らぬ境界の中で正面に向き合い面倒臭そうに告げられ、溜め息を吐かれた。
本来ならば一方的に指令が下されるはずなのだが、何故だかその理由は明かされず、私には選択の余地が与えられると言う。
ほとんどの死神がおよそ百年を超すと神より罪の赦しを得て消えていくか、これまでの記憶を抜き死神として存在し続けるかのどちらかなのだと、瑚白は告げた。
初見で自身に嫌悪を表す私に呆れ、どうせ全て忘れるのだからと、そうして死神を輪廻の輪に還す役割を持つのも”神に近い者”の仕事なのだとも自慢げに白について色々と話してきた。
が、結局その時の思惑は外れ、私の中にその記憶は鮮明に残っている。
それまで気付けば消えていた顔見知りの行方と、死神も人である証を知らされた瞬間でもあった。
神に対し罪の赦しも求めず、記憶の消去までも拒んで存在することを許されている私は死神の中で希少らしく、故に瑚白は興味を持って私に付き纏うのだろう。
正確には、新人のころの記憶など消されなくても殆ど覚えていないのだけれど。
(あの時”消滅”を選び赦しを乞うていれば、私は今ごろ輪廻の輪に還っていただろうか)
自分がどれ程の間この姿であるのか分からないのに、あの時の事は忘れていないのが、都合の良い人の在り方に近いように思う。
ゆっくりと横になっていると、またも記憶の戻ったと噂される”蜂の一郎さん”のことが思い出された。
(生者であった記憶……瑚白に聞けば答えが分かっただろうか)
数十分前、嬉し泣きをして頭を下げてくる二羽の帰宅をベッドの上で起き上がって迎えた。
取りこぼしが澱みを纏っていたことで私に余計な負担をかけてしまったと思い込み、部屋に飛び込んできた二羽は号泣していた。
瑚白の助力があって成せたと話はしているものの、本人不在なうえに、次にまた会えるかどうかも分からずお礼のしようが無いと、愚図りつつ泣き疲れて床で眠ってしまった。
瑚白の介入があったにも関わらず二羽にお咎めがないようで、ほっとする。
二羽の前世は犬では無いだろうかと、丸まって眠る体に毛布を掛けてやりながら思う。
それから二日ほど、私の気力は完全では無い状態となった。
どれほどの精神力を吸い取っていったのか、次に瑚白に出会う事があれば殺してやろうと考えるほどにやはり腹が立っていた。
それでも呼び出しは起こるもので、取りこぼしさえしなければ何の問題も無く従事できる程度に私は丈夫といえよう。
「───召喚します」
悲しげに頬に涙の筋を描く高齢の婦人は、隣で微笑んでくる同年代の紳士とともに軽く会釈をして消えていく。
同じ日、同じ時間に逝けたとしても同じ場所に行ける訳では無いし、同じ年月を経て輪に還る訳でも無いが、どのような最期であったとしても「また、来世で仲の良いご夫婦になると良いですね」と、見送りながら呟く二羽の声に心の中で同意してしまう。
あれから幾日が経ち、元から切り替えの早い二羽は天然な二羽へと戻った。
仕事に対して怯えることも無く、家では相変わらず物を壊したりしてはいるものの、段々と現世の生活にも慣れてきたようだ。
「先輩!この”パフェ”というもの、食べに行きましょうよ!」
新たな問題といえば、現世の世情に興味を発揮し、飛び出して行くことだ。
それも私を連れて行きたがる。
白いクリームに透き通った赤いソースがかかり、果実の乗るいかにも甘そうな食べ物を指差し目を輝かせてくる。




