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手助けされました。



取りこぼした者は大抵その近くでさ迷っていることが多い。

それも数日の間だと言われ、何かに呼ばれて離れてしまうとも聞く。

だから取りこぼしてしまったなら、先ずはその付近を徹底的に探す事がマニュアルとして業界新聞で紹介されている。

新人死神によくある失敗であり、新人ならば必ずと言っていいほど死者に感化されやすく失敗率が高いからだと言われる。

手練てだれの者でも相手によっては取りこぼしてしまう可能性はある。

慢心しないように、警告する意味で数ヶ月毎に取りこぼしに対する処理方法として必ず載っている。


「何故ついてくるのだ?」


隣で飄々とした顔と存在感のある白い制服コートのたなびく様に目が座る。


「今日は非番なんだ。俺の助けが必要な事が起こるかもしれないだろ?」


死神に非番など無いし、現れてから何度も繰り返す意味ありげな言い回しに益々不機嫌が増す。

黒の傍に白が付き添うことなどありはしないのだから、二羽は気が気でなく、瑚白の目の前で再びやらかさないかとガチガチな状態になっている。


「私が迷惑だ、去れ」


余りにも不憫で二羽を庇いながら目的地へと飛んでいるが、「まあまあ」とにこやかな、どこか楽しそうな姿に殺意が湧く。

あいや、瑚白も死神であり、当の昔に死んだ者であるのだが、そう表現したくなる心境であるという事であって殺す意味の無いことは分かっている。


「しょ、召喚します!」


瑚白と私の見守る中、二羽はビクビクとしながら仕事をこなした。

二羽の声に目の前から二体の死者は掻き消える。

一つの場所で複数人もの死者を送ることは多々ある事だが、その場合数人に手分けされる事もあれば今回のように一人で任される事もある。

任される死神の力量次第ではあるが、今回は私ではなく二羽に呼び出しがかかり、落ち込む後輩を励ますために同行したに過ぎない。

一人で数人の召喚を任されるほど、二羽にはそれなりの力量があると判断されているといえる。

面倒臭がりな私にしてはかなり絆されてしまっているといえることが顕著で、ついてくる瑚白のニヤニヤが鬱陶しい。


「しっかり出来たじゃないか。事務処理を終えたら探索に向かおう」


先に始めておくからと心細そうな二羽を事務所へ向かわせる。


「この辺りだろう?さっさと見付けて後輩くんを安心させてあげようかな」


二羽が居なくなるとニコニコと今から遊びに興じるかのような素振りで風を受ける様に、思わず舌打ちしてしまった。


「随分人間らしくなったじゃないか」


「ふん、戯言を言うな」


「そうだな、そろそろ俺の手が借りたくならないかい?」


「不要だ、さっさと帰れ」


「つれない奴だな、そんな態度だから俺みたいな者に付き纏わられるんだぞ?」


「笑わせるな、君と仲良くしたくはない。帰れ」


「そう疎むなよ、益々離れ難くなるじゃないか───ほぉら、あそこ。()()()()の取りこぼしじゃないか?」


傍らを離れずからかってくる瑚白をあしらいながら地上を気にしていたが、ついと中空から示される箇所にある死者の存在に目を凝らす。

私たちのように現世で死者と対峙する死神と違い、瑚白たちは感覚が優れているのだろうか。

二羽が取りこぼした死者は私と二羽で探した二日間を嘲笑うかのように呆気なく瑚白によって見付けられた。

取りこぼした場所よりかなり離れていたとはいえ、こうも簡単に、二羽が事務処理を終えて来るよりも早く見付けられると格の違いを思い知らされる。


「お前がやる?俺がやる?俺がやると後輩くんに罰が与えられるかもよ?」


余裕綽々でニマニマとした顔がイラつく。

いくら長く死神業に就いていてもその分けられた職種による力量差は並行して変わらない。

白い制服を着るに値する何かが瑚白にはあって私にはないのだ……気に入らなくて当然だろう。

湧き起こる怒りとも思える感情を腹の中に隠して、忌々しくも私は澱みを纏い始める死者の前へと降りた。


「たった二日、いや、三日の内にこれほどまでに澱むとは」


死者は早々に送らなければ内に抱える感情に飲まれていく。

死した状況によって異なると聞くが、それがどのような感情であれ、自身が死んだと認識出来なければ出来ないほど、死を受け入れられないほどに強く理性を失っていくとされ、生きていたことを忘れ、生きている者を羨み、妬んで恨みを持ち、思いの中にあった凶暴な思想のみに支配されていく。

それが個体を包み澱みとなって表れる。


「───捕縛完了、召喚します!」


それでも死神が正確に名前を呼称し捕えられることが出来れば問題はない。

正確に呼称出来たはずだ。

捕縛は完璧だった……なのに、何故か死者は澱みを増して私の捕縛から逃れた。


「あらら」


まさかの自体に唖然とする私の後ろで間抜けな声がした。

言わずもがな、瑚白が面白げな顔で立っている。

この場から離れようとうごめく死者に焦りと苛立ちが瞬時に襲い、ファイルに目を落としたが、行いに誤りがないことを確認して眉間にシワが寄る。


「俺が必要でしょ?」


瑚白は背後から覗き込むようにして機嫌よく私の肩に左手を置き、右手に暁色のファイルを現した。


「───の者、その名を剥奪」


制するより早く瑚白は声を発した。

凛と通る声音に目の前の澱みを纏った死者が動きを止めた。


「その身を堅固に処し、その内を晒せ」


片手で器用に開いたファイルに目もくれず、正面を見据えて歌唱するかのようにつらつらと詠唱していく。

その声は私の比ではなく、私でさえ耳を傾けていたくなるほどに美しい。

耳を塞ぐことを忘れた───周囲に仄かな温かさが拡がる。


「その心我が手の内に堕ち、その者天に迎えし輪に招く……ほら、一郎?」


聴き惚れるほどの心地よい声に名前を呼ばれて我に返った。

慌てて気を持ち直し前を見ると、澱んでいた死者はすっかり色を抜かれてフラフラと浮かんでいるだけだった。


「……召喚します」


私の呼び掛けに死者は大人しく消える。

安堵とともに脱力感を味わう。


「ほらね、俺が居て良かったでしょ」


そう言って足に力の入らない私を支える笑顔の瑚白に幾度目かの殺意が湧いた。





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