特殊なのです。
キッチンとダイニングとリビングは一つ繋ぎで、二羽の使う5帖洋間と私が寝室とする6帖洋間はそれぞれ隣接する。
「ふたば……ね」と、呟く瑚白を無視して、キッチンへと立った。
珍客に出したくは無いが礼儀として緑茶を出し、ローテーブルに三つ並べる。
瑚白は硬直して直視してくる二羽を眺めて思惑ありげにニヤついていた。
その顔が何とも腹立たしい。
「あ、あの、白……瑚白さんが何故ここに?」
当然の疑問だ。
初めて見る存在不可視な白い制服の者に畏怖しながら、正座をする二羽は時間経過とともに益々不安を増してしまっているように見える。
「一郎がね、いつでも遊びに来いって」
「言ってない、帰れ」
「嘘つきだなぁ、お茶まで出してくれてるのに。嬉しいならそう言えって」
そんな様子に気づかないのか、ソファーに座り直した私の傍らで湯呑みを手にしながらふざける瑚白に、この適温である緑茶を頭から与えたらどんなに心地好い思いをすることか……などと考えながら見下すと、瑚白は「落ち着け」と緑茶を啜る。
「あのー、もしかして、僕はすでに懲罰対象なのでしょうか?」
二羽は瑚白の軽い態度に不信感を募らせ、白い制服の者を目にして思うことを口にしながら再び蒼白となった。
引っ込んでしまっていた涙線がまた決壊しそうになっている。
死者を取りこぼすと現世のように始末書を書くという事務処理の他、そのまま捕縛することが出来ず悪霊にしてしまうと罰が与えられる。
軽いもので数十年から数百年の禁固刑や、重くても半永久的な不回帰、つまり、輪廻の輪に戻れずほぼ永遠に死神として働かされるらしい。
その罰を与えられた者は過去に存在してはいないと聞くが、死神には過去に対する己の記憶がないのだ。
私たちの、いや、死者の過去や記憶を扱えるのは”神”か”それに近い者”だけ───そう、”白い制服の者”が特殊とされるのは、彼らは[死神の記憶さえも奪える者]であるからだ。
罰を受けたとしてもその記憶を消されていれば全てを無かったものとされていても不可思議ではないということになる。
但し、それを自身が望んだ場合や、神の采配によって行使された場合の話だ、白い制服の者が同業者に対して身勝手に力を使うことは許されていない。
そもそも彼らは滅多に存在を明らかにしないものだし、働いている場所が全く違うのだから会う機会など皆無に等しく、ましてや彼らは公にされてもいない。
白い制服の者について不確かな噂しか流れていないのだ、二羽が白い制服の者を目の当たりにして怯えるのも無理はないだろう。
「二羽くんは俺たちのことをどんな風に聞きかじっているのかなぁ。悲しいなぁ、同じ死神なのになぁ」
「え?!いや、あの、すみません!」
嘆くふりをして怯える二羽の感情を揺さぶる悪徳さに呆れる。
「君と同類などと寒気がする。二羽を虐めるな」
庇う言葉を吐けば「先輩……」と二羽は感涙して見つめてくる。
同居して益々二羽は子犬感が増してきたように思う。
頼られるのは気恥ずかしいが、悪くは無い。
私のその態度が珍しかったのか、「へぇー」と頓狂な声を出してニンマリと口を曲げる。
「ま、後輩くんが取りこぼしをしたって話は聞いてるけど、そんなの他の奴らもしてることだし。してない方が貴重だしな、なあ一郎」
「そうだな」
「そう、なんですか?」
「そうだよ」と不本意ながら瑚白の言葉に乗じて頷いて見せると、漸く安心してきたのか顔色が良くなった気がした。
「取りこぼしが悪霊にさえならなけりゃいいんだから」と、瑚白が軽い調子で言いさえしなければ二羽は立ち直っていたかもしれない。
「センパアァァァァァィ!!」
私が瑚白の口に湯呑みをぶつけるのが遅くなったお陰で二羽はその場に蹲って喚き始め、どのようにして慰めれば良いのか分からず怒りを瑚白で紛らわせようとローテーブルに残る湯呑みを両手にした時、”呼び出し”が掛からなければ家の湯呑みは砕けて欠片となり、買い直さなければならなかっただろう。
「だ、だから、俺が必要だろ?」
取りなすつもりなのか、謝っているつもりなのか、姿勢を正して瑚白が言う。
最優先事項は”呼び出し”による職務だ。
不機嫌を晒したまま制服に着替え、泣きべそをかく二羽を急かせて職務に就いた。




