呼んでません。
本日も晴天だ。
気持ちの良い日和に洗濯物が揺れる。
「……大丈夫だ。私も気をつけておくよ」
リビングの隅で膝を抱えて丸くなる二羽に優しく声をかける。
「でも、でも、僕は……先輩のようになれないのですね」
グズグズと鼻を啜りジメッとした雰囲気を周囲に漂わせる。
二羽とは反対にリビングに置いてある一人掛けのソファーに寛ぐ私は、その雰囲気にどのように対処して良いのか悩んでいた。
三日前の仕事で二羽は就業中二度目の失敗をしたのだ。
死神業の失敗とは死者の取りこぼしを指す。
他にも色々なミスと呼ぶ事柄はあるけれど、死神の沽券に関わるモノと言えば取りこぼし、つまり[死者に逃げられる]ことだ。
「ほら、二度あることは三度あるって言うし。そもそも僕なんか先輩の足元にも及ばないのですけど、けど、逃げた奴を探せなかったら悪霊の生成幇助で懲罰に処せられるんですよね?二日も探したのに見つからないし、いつ悪霊に変化するかも分からないのに……僕に気力が足らないから逃げられて……見つからないんだ」
二羽はブツブツと呟きながら纏う影を色濃くさせていく。
「ほ、ほら、君はまだ若いから。私のように長く務めている訳でもないし、誰もが侵す過ちだよ。気力など少し休めば回復するものだし」などと慰める。
「先輩は歴代に名を並べるほど優秀で、取りこぼしなんてした事ないじゃないですかー!」と、喚かれる。
人付き合いの嫌いな私に慰め方というモノを誰か教えて欲しい。
正直、とても面倒だ。
自分一人なら何とでもなるような事でも、他人が関われば機嫌を伺い、気遣わなければならなくなる。
これまでに何度も何人もの取りこぼしの後処理をこなした過去はある。
その中には現世に留まり続けることで[思い残し]に支配されて変化した者、つまり[悪霊]になってしまった者もいたと思う。
「だーいじょうぶさ、後輩くん!」
溜め息を吐いて困惑する私の背後から能天気な声とともに僅かな風が起こった。
途端に私の不機嫌は顕となる。
「何の用かな?」
イラつきを全面に出して軽々しく背後からソファーに手を着く不法侵入者を見上げた。
「いつでも来ていいって言われたからさ、早々に会いに来てあげたよ」
「帰れ」
眉間にシワの寄る私の傍らに白い制服を広げて膝付き、笑顔を向けてくる。
当然、早々に追い返したくて睨み付けてみたが、全く意味がなく、ふわりと柔和な表情で床に腰つけ落ち着かれる。
「嫌だなー、そんな態度が俺の気を唆ると知っているクセに……と、困ってんだろ?俺が必要だろ?」
殺してやろうかと立ち上がり、手近な所にあるソファーを握って持ち上げると、白い制服の者は落ち着くようにと諭してくる。
そんな私たちに驚いたのは二羽の方で「し、白い、制服?!」と何の前触れもなく現れた者に恐怖を示した。
「な、何故ここに?!」
二羽はその姿を初めて目にした様ではあったが、噂は耳にしていたようだ。
白い制服を着た者は死神業界に於いてその存在について詳しく知られてはいない。
現世にて死者を先導する者と輪廻の輪に導く者は事務所を介しての繋がりがある上に同じ見た目をしているし、互いの職務に交代で当たることもある。
だが、[思い残しを計る者]はその中間にあって、その姿を滅多に見せたりはしないのだ。
送られていく死者の抱える[思い]を取り除き[想い]を扱うとされる者は[神]に近い者と言われている。
「やあ、後輩くん。元気かな?」
「元気なわけなかろう!さっさと帰れ!」
「一郎は酷いなぁ。久し振りに友人が会いに来たのに追い返す気かい?俺の助けが欲しいだろ?」
「ゆ、ゆうじん?」
「違う」
「親友さ!誰よりも長ーい付き合いだからね。俺は瑚白という、よろしくな!」
「ぼ、僕は、あの、二羽と、先輩に付けていただきました」
たじろぎながらも居座っていた隅からゆっくりとにじり寄り、恐る恐ると膝を下ろして正座をし、瑚白に向かって丁寧に頭を下げる。
顔面蒼白で硬直しかけているようにも見えた。




