4-7 Retribution ー 讐 ー ⑦
仲西と田辺は更地の奥で向かい合った。
そこはちょうど物置きのようなコンテナが目隠しになっており通りからよく見えない場所になっている。
田辺の身長は仲西より一回り低いが体重はだいぶ重い。筋肉質と言うより全体的にぽっちゃりしていた。実はその脂肪が相手の攻撃を半分吸収してくれており、太っていること自体が完全にデメリットではなかった。ケンカもそれなりの場数は踏んできていた。
普段の仲西であれば余裕であるが、まだ先日の怪我が完治していない状態では手放しで油断できる相手ではない。仲西がどれぐらいのダメージなのかを田辺は知らないはずであるが、街灯の薄暗がりの下でも顔のあざがまだ消えきっていないのは一目瞭然であった。
那珂島の合図と同時に田辺は仲西に突進した。
ランバトでは投げ技や寝技は特別ルール以外禁止されているが、そんなものは仲西は実戦で山ほど経験してきている。突っ込んでくる田辺を仲西はサイドステップでいなし、距離を取りながら細かいジャブを繰り出した。それを嫌がった田辺は数歩後ろに下がるが仲西はあえて追撃しない。
次に重さで圧をかけようと田辺は大振りのパンチを繰り出してきた。仲西は真っ向から打ち合いに挑む。一歩も引こうとしない仲西に対して、田辺は打撃ではなく掴み合いにもちこもうと再度掴みかかる。それに向かって仲西はカウンターの飛び膝蹴りを合わせた。左右の二段蹴りだ。
右の膝が田辺の顎を打ち抜きそのまま崩れ落ちそうになる田辺を仲西は引っ張りあげ、そのたるんだ腹に何発も膝蹴りを叩きこんだ。那珂島が割って入るまで十発以上の膝蹴りが田辺の体を浮かした。仲西が手を放すと田辺はその場にうずくまり勝負はあっけなく終わった。
「もう俺たちに手を出すな。また何かあったら何度でもやるからな。わかったか」
仲西の息も上がっていた。やはり万全な体調とは言い難そうである。普段であればもっと手数が少なくても簡単にKOできる力はあるはずだ。
仲西は言い終わると倒れている田辺の脇腹を蹴り上げた。田辺は一瞬くぐもった声を出したが、苦しいのかまともに返事ができずにいつまでも地面に這いつくばり、顔を上げようとしなかった。
同日の内に仲西は林田と茂木にカエシを行った。
田辺から二人に連絡させ、渡したい金があるからと適当なことを言わせ、同じ場所に呼び出したのだ。
のこのこ現れた二人を四人は田辺の時と同じように取り囲み圧をかける。そして同じようにステッカーの確認をすると、田辺の時と同じ流れを作った。
仲西は二対一でもいけると思っていたが、さすがに他のメンバーがそれを許さなかった。
手負いの仲西はフィジカル面では半分の力も出せていない。ついこの間まで肋骨の痛みのせいであくびをするにも苦労しているのを他の三人は知っている。しかし仲西はメンタルの部分で今までにない凶悪さを見せ、二人をきっちりと地面に沈めた。
次の日の学校、仲西たちは前日の状況を蓮に報告をした。
仲西は別の日に田辺グループの他のメンバーにもカエシをしたいと提案したが、蓮はそれにストップをかけた。これ以上仲西の体に負担をかければ、さらに怪我の治りは遅くなるのは明らかだ。
ひとまずグループの頭と今回の元凶である茂木と林田を潰したので、これで手を打たないかと仲西を説得をした。
本音を言えば蓮としても田辺グループ全員を同じ目に遭わせたかった。が、正直不毛である。少し時間を置いて考え、それでも気が済まなかったら続きをやればいいのでは、というところで話を落ち着かせた。
いずれにせよ、今回は相手の自宅が割れたので考えていたよりも簡単に目的を達成することができた。仲西はこの情報ソースは凜であることを蓮から聞いてはいるが、一体どうやってそれを手に入れることができたのかは謎であった。
入手方法はどうであれ、それは自分たちが一番知りたかった情報であることには間違いない。そういう意味では凜に感謝するしかなかった。
その後、仲西と那珂島は、田辺、林田、茂木の三人の動きを探った。
仲西の報復の後、数日の間三人とも学校に姿を現さなかったが、しばらくして林田と茂木が登校し始めたことを美月の報告で知らされた。二人は教室で、美月に近づくどころか目も合わさないようにしていたらしい。
田辺は三年で別の校舎にいるため動きを探るのは難しかったが、茂木や林田と同日に登校し始めたことがすぐにわかった。何やら凜が校内で見かけたようなのだ。
その次の日の放課後、仲西と那珂島は三年の建物出入り口で張り込みをした。二人は建物の陰に隠れて辛抱強く行き交う大勢の生徒の中を見張った。
二人が待っていると、終学活の後時間が経ち下校する生徒がまばらになった中に田辺の姿が見えた。二人がその姿を捕らえたと同時に、遠目であるにもかかわらず田辺は二人に気づいた。途端にきびすを返しもと来た方向へダッシュで逃げていった。
仲西たちは田辺の姿を確認したかっただけなので、無駄に追いかけることもしなかった。
その様子であれば田辺のほうからけしかけてくる可能性はなさそうである。しかし、そのあからさまとも言える動きは二人の胸に微妙なしこりを感じさせた。
空には陰鬱な曇天が広がり、梅雨入りには少し早い湿った風が吹いていた。




