4-5 Retribution ー 讐 ー ⑤
谷松によるとステッカーの販売は瀬戸のやっている金集めの一つだそうだ。
「まあ俺はもうあいつらとは関係ねえけどな」谷松は自嘲気味に笑った。蓮も那珂島も黙って谷松の聞いていたが、さすがに瀬戸のやり方には憤りを覚えた。
「今の組織ってどれぐらいの人数いるの?」蓮が聞く。
「三月の終わりで俺が把握してた人数は五十人ぐらいだったな。その中にグループが七つ。今は一年も入ってきてるはずだからもっと多いかもな」谷松が答える。
「今やってる変な商売はやめさせることできないの?」
「うーん。まあ瀬戸を潰しても次の瀬戸がでてくるだろうな。一旦金儲けのうまみを覚えると人間なんてマジでおかしくなるから。金欲しさにそれを真似するアホなんていくらでもいる」谷松は苦々しげに言った。
組織を離れたとはいえ谷松にも多少情報が入って来るらしく、ステッカー以外にもイベントのパーティー券を販売したり何やら投資詐欺まがいのことを始めようとしているらしい。
「今瀬戸がやってることってあなたが考えたの?」蓮が聞く。
「は?俺はそんなクソみたいなこと考えねえよ。俺が考えていたのはもっとー」と谷松は続きを言いかけるが、
「あれは瀬戸が鈍い頭使って一生懸命考えんだろ。俺は何も関係ない」と答えた。
「田辺はその組織の一人よね」蓮が聞く。
「まあな。あいつは口だけ偉そうでで使えない奴だけど。やられっぱなしじゃメンツがつぶれるから人数使って仕掛けてきたんだろ」
「田辺と揉めたら瀬戸とも面倒なことになりそう?」蓮が尋ねる。
「うーん。どうだろうな。俺だったら田辺みたいな使えない奴なんか早めに切り捨てるけど。瀬戸はマジでアホだから」
「田辺のグループって何人ぐらい?」
「確か三年は田辺入れて三人かな、二年が二~三人だったと思う。それにさっき言ってた一年の林田とか茂木ってんのが入ったんじゃねえの」
しばらく沈黙が続いた。
「カエシ考えてんのか?」不意に谷松が聞く。
「そうね。このままやられっぱなしっていうのはおかしいと思わない」
蓮は静かに答える。
「違いねぇ」谷松とはニヤリと笑うと遠い目をして独り言のようにつぶやいた。
それから谷松は組織の他のグループや主だったメンバーの情報を話し始めた。七つある各グループのリーダーの名前や、だいたいの構成人数、そのグループのカラーなどかなり詳しく教えてくれた。
那珂島は谷松のその記憶力に単純に驚いていた。それだけの頭脳を持ちながら、以前はランバトのゴールドリーグでバトルメンバーに選ばれていたことを蓮から聞いていたからだ。
蓮も那珂島も、もしこの男が組織をまとめていたら全く別のものになっていたのではないかと感じた。谷松が組織を追い出されたのは、ある意味自業自得であるとも考えていたが、その不運がなんとも救いようがなかった。
話が一区切りついたときにはすでに夕方の五時をまわっていた。ふと谷松がガジェットの時計を確認する。
「まあ、俺はお前らが何しようが関係ないけど。がんばれよ」と言うと、それが挨拶とばかりに席を立った。
蓮も立ち上がり、ありがとう、と谷松に向かって礼を言う。あわてて那珂島も同じようにした。谷松が、じゃーな、と立ち去ろうとした時、思い出したように蓮に聞いてくる。
「そういやあの日、お前待ち合わせ場所にきたのか?」
「え?あの日って?」蓮は逆に聞き返す。
「四月五日、夜八時、そこの駐車場」谷松は親指を立てて生協の裏のほうを指した。
「行ったけど。もうあなたは倒れていてー」
「そうか。じゃあお前の差し金じゃないのか?」
「差し金って?」
「俺を吹っ飛ばした奴だよ」
「え?」蓮は困惑した。
「その感じだとマジで関係なさそうだな。俺も誤解が解けてよかった」
蓮の様子を見て谷松はニヤリと笑い、俺はこれから予備校だ、と言って振り向きもせず去っていった。
次の日、蓮たちはグリルガーデンに集まり谷松の話を共有した。
田辺たちに仕返しをするにしても、相手の動向がいまいち掴めない。不用意に動いて美月がまたトラブルに巻き込まれるのは避けたかった。
その美月であるが、蓮や凜のおかげか教室で話ができる生徒が何人かできており、茂木や林田からあからさまにアプローチされることはなくなってはいた。しかし、時折二人が再度美月に近づこうと機を狙っているような視線を投げかけることもあり、決して油断できない状況でもあった。
ここで感情のまま無計画に動いて、それぞれの状況が悪くなることだけは避けたい。ひとまずは仲西の知り合いを通して、田辺グループの立ち回りを観察しながら様子見をしてくしかなさそうであった。
そんな状態が数日続く中のある晩、アルバイトを終えて家でぐったりしていた蓮のガジェットに一通のメッセージが入った。
送り主は希峯凜。
そこには田辺グループメンバーの名前や住所などが記載されていた。




