2-7 Unnerving Presence ー 災 ー ⑦
仲西は美月を連れてあまり人目のつかない木陰にある休憩スペースに向かった。詳しい事情を聞くためだ。仲西は蓮たちと合流しようと言ったのだが、美月がどうしてもそれを嫌がった。
近くにあった自販機で買ったミルクティーを飲みながら、仲西は事のいきさつを教えてもらった。美月は泣きながら今までの林田と茂木とのやりとりを話した。
「これは那珂島にも話そう」仲西は言う。
美月はあからさまに嫌そうな顔をした。
「こうゆうことは、黙っておくのが一番駄目だよ。美月ちゃんが周りに迷惑かけたくないって気持ちもわかるけど。俺たちは自分の仲間が嫌な思いをしているのに、ほっとけるほど冷めた人間じゃない」
仲西としては、この件に関しては蓮や凜にも伝えたほうがいいという意見であった。美月としては蓮や凜に知られるのは恥ずかしくて嫌であったが、仲西は絶対にそこは譲らなかった。結局美月は仲西に従うことにしたのだが、何故だか心のつかえがとれた気がした。
ふと、美月はどうして仲西があの場にいたのか不思議に思った。
「先輩、どうしてあそこにいたんですか?」と赤い目で尋ねた。
「いやなんていうかー」
仲西はとたんに歯切れ悪くなった。
仲西が美月の様子がちょっとおかしいことに気づいたのは、彼女が最初に林田とトラブルになったその当日であった。
普段通りを装う美月の何気ない動きの中に、仲西はほんの微妙な違和感を覚えると、次の日から一年校舎の近くに行っては美月の様子を気にするようにしていたのだ。
まさに恋の執念、考え方によってはストーカーである。
仲西はだいぶ前に女性関係はすっぱりと清算しており、その思う先は美月一択の男であった。中西自身、自分でも気にしすぎかなというぐらい、美月の一挙手一投足を見逃さないようにしているのだ。というより逃したくなかった。今やその嗅覚は、美月の兄である那珂島を軽く凌駕していた。
そして何日も前から放課後になると速攻で一年校舎へ向かっては、美月の帰る様子をずっと見張っていたのだ。
「こそこそ見張るのは悪いと思ってたんだけど、どうしても心配でさ」仲西は変に誤魔化すのもどうかと思い、バツが悪そうに正直に言った。それはまるで、自分が相手を好きであることがばれて恥ずかしがっている中学生のようであった。
美月はそんな仲西の姿を初めて見た。昔から知っている仲西は、陽気でどんな異性に対しても物怖じすることなく話しかけるような人間だ。それこそリア充を絵にかいたような人間であった。
「あのー」美月が遠慮がちに声を出した。
仲西はやさしく視線を美月に向けるだけで、静かにその続きを待った。美月が何か頼みごとをするときには、決まってそうやって切り出すことを誰よりも知る一人であった。
「あ、あの、も、もし良かったら、明日も一緒に帰ってくれませんか?」
美月は勇気を出して声を振り絞った。
仲西の表情が固まる。
しばらく無言の時が過ぎた。
「ダ、ダメならいいんです」その奇妙な沈黙に耐えかねた美月がつぶやいた。
固まっていた仲西は、はっと我に返り、
「よいのではないか」と何時代かよくわからない言葉を口にした。美月が不思議そうな目で仲西を見る。
「帰ろう。一緒に」今度は場違いな倒置法を使った。
「いいんですか?」美月が確認すると、仲西は言葉を発するのをやめ、ただうなずいた。
「あ、ありがとうございます」美月がちょこんと頭を下げた。
仲西はただひたすら、何度もうなずいていた。
四月にしては暑すぎる、真夏のような日差しが通りを明るく照らしていた。




