2-6 Unnerving Presence ー 災 ー ⑥
美月は一度も後ろを振り返らず一心不乱に校舎から離れた。同じ方向に下校する生徒を追い越しながら、グラウンドに沿って続く通路を小走りで駆け抜けていく。そこを抜けた先にある図書館横の小道に差し掛かかり、もう大丈夫かなと思い遠慮がちに後ろを確認すると、林田たちの姿は他の生徒にまぎれたせいか見えなくなっていた。
美月は、ほっとため息をつきこのまま蓮たちに会いに行こうと二年校舎のほうへ歩き出した。小道を抜け図書館の入り口近くを過ぎたあたりである。一人の男子生徒が美月の目の前に立ちふさがった。
身長はそれほど高くはないが、色が黒く少しぽっちゃりしていた。服装は明らかに崩れており、見た目からしてわかりやすいヤンキーであった。
その顔に全く見覚えがない。何年生かもわからなかった。美月は怖くなって動けず立ちすくんでいると、間もなく林田と茂木が薄ら笑いを浮かべながら追いついてきた。
「この子が俺たちのこと、援助してくれんの?」ぽっちゃり男が林田に声をかけた。
「そうなんすけど。何か嫌みたいで断られちゃったんすよ」林田がイヤらしい嗤いを浮かべながら言った。
「友達が困ってんのに助けないのってひどいなー」ぽっちゃりが言う。ホント信じらんねー、と言う茂木の声も聞こえた。
「トモダチの話ちゃんと聞かないで、お願い断るとかひどくね」林田が言った。
美月は何も言えず下を向いて小さく震えていた。
「そうだよ。こっちは困ってんだからさ。少しぐらい協力してくれてもいいでしょ?」という茂木の言葉に何も答えられず美月が黙っていると、
「お前なんか言えよ!」林田が突然声を荒げた。
美月の目から、涙がこぼれる。
「ちょっと泣かすなよ。大事なトモダチなんだから優しくしろよ」ぽっちゃりが林田にニヤニヤしながら言った。
「何も話さなくていいから、俺たちのこと助けてくれる?」林田は、ぽっちゃりの言葉とは逆に、さらに厳しい口調で美月を問い詰めた。その時、
「俺も助けてほしいんだけど」突然、美月が知っている声が聞こえた。思わずその方向を見る。仲西であった。
林田と茂木、ぽっちゃりは最初びっくりしたようであったが、仲西の醸し出す雰囲気から自分たちの同類だと思ったらしく、全員またにやけ顔になった。
「俺たちが先なんだよね。別の奴当たってくれよ」とぽっちゃりが仲西に言った。
「お前らがどっかいけよ」仲西は真顔で答える。
「はあ?お前何言ってんの?ふざけたことぬかすと、どうなるかわかってんの?」ぽっちゃりはバカにするような口調で言った。
「わかんねんよ」仲西が平然と答えると、ぽっちゃりの態度が急変した。
「ちょっとこいつ裏に連れていくから。お前らちゃんとこいつに売っとけよ」とぽっちゃりは林田と茂木に言い、仲西を図書館裏のスペースへ誘った。
「お前らも来いよ」仲西は林田と茂木に向かって言う。二人は、ぽっちゃりの方を見た。
「びびって女しか相手できねえのか?」仲西は二人を挑発して鼻で笑った。林田と茂木の表情が一瞬で変わり仲西に詰め寄った。
「美月ちゃん少し待ってて」仲西は普段通りに美月に声をかけると、三人と一緒に建物の裏側へ消えていった。
しばらくの間、美月は無言でその場に佇んでいた。
数分後、仲西が建物の奥から戻ってくる。そこに三人の姿はなかった。
「行こう」仲西がさわやかに言った。




