2-5 Unnerving Presence ー 災 ー ⑤
美月が三万円を払った次の日も、林田と茂木の二人は近づいてきた。
五時間目の後の休み時間であった。美月が教室の自分の席で本を読んでいると、
「ちょっといい?」と林田に声をかけられた。あからさまに他意がありそうな明るい表情と口調であった。
美月には嫌な予感しない。しかし例の件はもう終わっているはずだ。シャツの弁償のお金は払ったし、もう何もないはずである。しかし美月が何も言えずにいると、林田に腕を引っ張られるように半ば強引に教室の外に連れ出されてしまった。
三人が教室の外にある休憩スペースに着くなり、
「ねえ那珂島さん、ちょっと買ってもらいたいものあるんだけど」と林田が先日の脅すような態度を微塵も感じさせない笑顔で言った。
「わ、わたし、お、お金ないよ」と美月は細い声で答える。
林田と茂木はじっとりとした粘つく視線を美月に向けながら、しばらく沈黙が続いた。不意に茂木が口を開く、
「嘘つかないでよ。あんだけの金、パッと出せただろ」
「あ、あれは、何かあった時のために持っていただけでー」
「今いくらあるんだよ」今度は林田が美月の言葉にかぶせた。
その声の冷たさに驚いて、美月は思わず林田の顔を見上げた。その作り笑いは消え、先日のような凶暴な顔になっていた。
美月は怯えてしまい何も言えなくなる。どんなにお金は持っていないと言っても、その言葉は二人は受け入れない雰囲気が漂っていた。
不意にチャイムが鳴る。廊下で話していた生徒がバタバタと教室に戻るのに合わせ、林田と茂木もそれに紛れるようにしてその場から立ち去った。
美月は、二人が教室に戻っていくのを他人事のように眺めるしかなかった。不安な気持ちが全く収まらないまま、歩き方を思い出したようにゆっくりと教室に向かった。
気持ちの落ち着かないまま六時間目の授業が終わる。帰りの学活の後、素早く美月が帰ろうとすると、予想通り林田たちが美月に近づいてきた。
「ちょっと那珂島さん、一緒にきてくれる?」と林田が気持ち悪い笑顔で話しかけてきた。美月は林田のほうも見ずに、消え入るような声で、
「よ、よよ、用事があるから」と言いながら逃げるようにその場を離れた。
教室を出てしばらく早歩きで進みながら一瞬廊下を振り返った。林田と茂木が、狩りを楽しむかのように美月の後を追いかけてくるのが見えた。二人の顔に薄ら笑いが浮かんでいる。美月は急いで階段を降りると、一年校舎の出入り口から飛び出した。




