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RR ー Double R ー  作者: 文月理世
RR ー Double R ー ZWEI
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1-2 Lunatic Night ー 不可思議 ー ②


 その後谷松は、蓮が一人になるのを見計らって何度も話しかけようと試みたのだが、全くうまくいかない日が続いた。

 蓮と話をしたいのは全く個人的なことであり、他の人間には絶対に聞かれたくない。どうしても一人で蓮と話をしたいのだ。しかし、谷松が蓮を見つけるたびに、決まって一人の女子生徒が一緒にいた。

 かなりの美形で、気が緩んだらそちらに気持ちが向いてしまいそうな女子だ。常に蓮につきまとっているその女子生徒にイライラしつつも、思わずその振る舞いに、自分の目が奪われてしまうことが度々あった。

 一度、その女子と一瞬目が合ってしまうことがあった。距離があったので、谷松はすぐに目を逸らすが、視線がぶつかった瞬間、脳が何かに鷲掴みされるそうになる奇妙な感覚を残した。それ以降、谷松はその女子の顔を絶対に見ないように気をつけるようにした。


 そんなことをしているうちに何もできないままずるずると時間だけが過ぎてしまった。三学期の修了式も終わり、カレンダーは三月も終わろうとしていた。

〈校内では無理か〉

 学校で話すのを諦め、別の手段を模索していた三月末。学校は春休み期間に入っていたが、永松が野暮用で忘れ物を取りに学校に行くと、中央校舎へ向かって一人で歩く蓮の姿を偶然にも見かけた。


 この時期に学校に来ているということは何かの補習だろうか。いつも一緒にいた女子生徒の姿も見えなかった。これはまたとないチャンスである。なんにしても、短時間で用件だけは伝えることができそうだ。


 歩調を速めて近づき声をかけようとしたその瞬間、蓮は不意に立ち止まり、無言で冷たい視線を谷松に投げかけてきた。

 モデルのような体つきに合わせ整った顔立ちの蓮に見つめられ、谷松は一瞬息が詰まりそうになる。が、なんとかそれを振り切ると、

「イブキレンだよな」と確認した。

「違います」蓮は即答すると、すぐにすたすたと歩き出した。

「え、お前、ちょっと」と谷松が思わぬ返答に戸惑っている間にも蓮はずんずん離れていってしまう。

 なんとか止まってもらおうと、ちょっと待てよ、と声をかけるが、蓮は全く止まろうとしない。谷松はやむを得ない言葉を使った。

「お前ふざけてると、いつも一緒にいる女がどうなるかわかってんだろうな」恫喝するような低い声を蓮の後ろ姿にぶつけた。蓮は立ち止まり振り返ると、

「どうなるのか、言ってみて」氷のような視線で谷松を刺した。

「まあ、お前の態度次第だけどさ」谷松はもったいぶって言いながら、これで少しはこちらのペースになりそうだと思った瞬間である。

「手を出したらどうなるか教えてやろうか」蓮の体が一瞬で獰猛な野獣の気配を纏った。谷松は今までの経験から、自分がやばい領域に踏み込んでしまったことを悟りながらも、なんとか虚勢を張り続ける。

「まあ、わかってるつもりで話してるんだけど」言いながら背中を一筋の冷や汗が流れた。

「わかってるんだ」蓮の全身から一気に殺気が噴き出す。

「いや、お前の連れに手を出すつもりはないんだよ。俺が用事あるのはお前だけで」

 慌てて谷松は言いながらも、今にも襲いかかろうとしている蓮に完全に飲まれてしまっている自分を感じた。

「用事ってなに?」蓮は、はぐらかす谷松の様子を見ながら、めんどくさそうに聞く。殺気は収まっていない。

「一回俺と手合わせしてくれたらいいだけなんだよ」谷松は何かの言い訳するように伝えた。

「何それ?」

「スパーみたいなもんだ」

 スパーとはスパーリングの略である。格闘技のお互いに攻撃する練習のことだ。

「なんで私がそんなことすんのよ」蓮の口調がさらに尖る。

「まあ、なんていうか、俺がやりたいからだ」

「は?意味わかんないんだけど。嫌に決まってるでしょ」

「断るんだったら、周りを巻きこむことになる」谷松は言いながら口の中はカラカラであった。

「だから今やってやるよ」蓮の目が笑うように細まり、背後が陽炎のようなに揺らいだ。

「今はまずいだろ、ちょっと落ち着いてくれよ」谷松はあわてて両手を前に出し、襲いかかろうとする蓮の前にかざした。

「ふざけたこと言ってんのそっちだろ」

「そうでも言わないと相手してくれないだろ」谷松は自分の言っていることは、子供の理不尽なわがままと一緒だなと感じながらもなんとか口を開いた。

「周りに手を出したら絶対許さない」蓮はさらに凄む。

「だから一回スパーしてくれれば、何もしねえよ」

「だから今やってやるって」燃えるような蓮の視線が容赦なく谷松を貫く。

「ちょっと待ってくれよ。せめて人目のつかない場所じゃないと、お互いやばいだろ」谷松は必死になだめながら周囲に視線を走らせた。

 蓮が目だけを動かしてみると何人かの生徒が通路を歩いていた。谷松の言うことも確かにその通りだとふと思い、

「じゃあいつ」と聞く。谷松は少し考え、

「明日の夜、午後八時に生協裏、合宿所の横にある駐車場」

「無理。明日バイト」蓮は即答した。

「じゃあ明後日」

「明後日も無理」

「なんで?」

「なんで理由言わなきゃなんないのよ」

「じゃあいつならいいんだよ?」谷松は唸るように声を出した。

 蓮はダルそうにガジェットを取りだし画面を確認すると、

「三月中は無理、四月の最初の方なら大丈夫かも」とため息をつきながら言った。

「じゃあ四月一日」谷松は即座に最短の日付を指定した。

「あ、四日まで予定入ってたわ。空いてるのは早くて五日かな」蓮はとても嫌そうに伝える。

「じゃあその日、夜八時に生協裏の駐車場な」

 蓮は、はぁー、とため息をつきガジェットをしまいながら、

「本当に嫌だけどつきあってやるよ。そのあとは二度と無いからね。私の友達にも関わらないって約束してもらうし」と言い残すと、さっさとその場を立ち去っていった。



 こうして谷松はなんとか蓮との約束を取り付けることができた。

 蓮の姿が見えなくなると近くのベンチにどすんと腰を落とし、大きく息を吐き出す。全身に汗が噴き出していた。

〈こりゃ、ダメだな〉

 なんとか平静を装おうとした谷松であったが、蓮に心臓を抉り出されるのではないかと思うほど焦っていた。

 自分ごときが蓮にかなわないことは十分わかっている。だが、負けるとわかっていても、どうしても挑戦しておきたい理由が谷松にはあった。








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