表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RR ー Double R ー  作者: 文月理世
RR ー Double R ー EN
69/286

36 Letter ― latter half ―


 わたくしごとが長くなってしまいました。

 そのような経緯があり、私は教員としての生活をスタートさせました。そして赴任した中学校の一つで仲西君や那珂島君と出会い、彼らと非常に思い出深い時間を過ごすことになりました。


 私が彼らと初めて会った第一印象は、二人とも妙に冷めた眼をしている、と思ったことです。まるで世の中の薄汚れた仕組みを小ばかにしているような猜疑心の眼でした。

 彼らはそれまでの学校生活で周囲の人間とうまくいかないことがあったようで、出会った頃は私も含め教員というものを全く信用していませんでした。そこに一抹の不安を感じながらも、彼らの態度や考え方に対して特に注意もしませんでした。


 彼らは何かにつけて要領よく振舞うことがうまく、他人が反論できない言い訳をすぐにできる賢い生徒たちでした。そんな二人にしっかりと指導できる教員は誰もおらず、二人を注意したその教員が、逆に二人に言い負かされているのを実際に目にしたことがあります。

 彼らがそんなふうになってしまった理由を聞くと、実際私自身も彼らに共感できることも多くありました。


 私がそれまで自分が会ってきた教員には、残念ながら信じる価値のある人間が少ないという個人的な意見も伝えながら本音で向き合いました。その接し方が良いか悪いかはわかりません。

 そんな二人は、私でも言い負かすことができると思ったのでしょうか。ある時、私が彼らの行動で少し気になったところを注意したところ、私に対しても詭弁のような言い訳をしてきたことがありました。


 私はそれらを理不尽に一蹴し、自らの体験の一部を静かに話しながら、彼らの内面を抉り出し、今のままではこの先の人生のどこかで、必ず痛い目にあうことになると警告したのです。

 予想通り彼らは私の言葉を理解し、その真意を汲み取る力をもっていました。それはある意味、彼らの抜け目のなさにブレーキをかけることになったのかもしれませんが、私としてはそれでよかったと思っています。


 二人とも、頭の回転もよく物事の理解も早いのですが、逆にそれが彼らを殻に閉じ込めてしまっていたと思います。私の経験上、どんなに頭が良く、要領がいい人間だとしても、それがイコールで幸せな人生になる保障にはなりません。

 逆に、その力が人生においてマイナスになる可能性もあったりすることを、実際に自分で見てきたことがあるからです。


 しかし、先日会った時の彼らの成長を見ると、以前と見違えるほど魅力的な人間になっていました。

 私が見てきた何人かの尊敬できる人は、決して頭がいいとか、知識があるとか、金をもっているだけの人間ではありません。


 それは、どんな立場であっても慢心することなく、世間の荒波に揉まれながら自分の感性を研ぎ澄まし続けている人たちでした。

 その最たる一人である健児師範に、私が金銭トラブルで命の危険に曝されたときに言われた言葉です。


「高柳、お前は自分を磨いてるか。お前は人から見てどんだけ魅力があるんだ。

 金儲けもいいけど、金なんかよりもっと大切なものあるだろ。周りがお前のことを誇れるような人間になれ。周りからお前と知り合いだって自慢されるような人間になれ。自分の大切な人に向かって恥ずかしくない生き方をしろ。

 そのために努力して苦労するのは当たり前だ。

 努力して報われないこともあるけど、大切なのはそれに向けて行動することなんだよ。

 その頑張りを周りにアピールして満足してるヤツもいるけど、その程度のレベルの人間になるな。

 俺の知っている本当にすごい人たちに、無駄に努力をひけらかす薄っぺらな人間はいない。

 外面はふざけていい加減でも、中身は分厚くて、重くて、研ぎ澄まされた日本刀のような信念もっていたりするんだ。

 そうゆう人は、滅多に自分の底力を他人に見せようとしない。見せなければ、それに気づかれないことの方が多いかもしれない。

 それでもそれを嗅ぎ分ける人間が、間違いなくいる。俺はそういった人同士が惹かれあって、仲間になっていくのが好きなんだ」


 あなたのお父上である健児師範は、間違いなく私の人生に最も影響を与えた方です。

 亡くなられた今でも、師範の言葉は心に居座り、私の生き方に常に影響を与え続けています。


 世界には何十億という人がいます。

 以前仕事をしていた新宿の街で、何千何万の人が行き交う交差点を眺めるたびに、この中に自分の人生に関係する人がどれぐらいいるのだろうか、とぼんやり思うことが多くありました。


 実際、この地球上で自分の人生を通してかかわり合える人など、大河の一滴までとはいいませんが、その流れを両手ですくった分もないような気がします。

 そしてその中で、自分と深く関係をもつ人がいったいどれほどいるでしょうか。


 人と人との出会いは一瞬です。

 日々の生活に追われ、疲れてうつむき下を向いて歩いていると、出会いは頭上を駆け抜ける流れ星のようにいつの間にか消え去ってしまいます。


 その閃光は一瞬で消えてしまい全く記憶に残らないものもあります。

 しかし、ふと偶然、空を見上げた瞬間に見たひどく眩い煌めきが、長い尾を曳き、強烈な印象を与える場合もあります。


 実におかしなことに、その出現を逃すまいと目を凝らしている時ほど、あらぬ方向でいつの間にか消え去ってしまっていることもありますが。

 いずれにしても、失われた軌跡は二度と顕れることはありません。


 人生は、悲劇と喜劇の詰まった一瞬の夢なような気がします。その内幕は、もしかしたら悲劇の数のほうが多いかもしれません。


 ただ、私が思うに、悲劇は人間に課された宿命のようなもので、避けられないものであると思います。

 もし本当に苦しくなったら、その苦悩や困難から逃げてもいいと思います。

 そして同時に、決してそのことから目を背け続けるのではなく、時間をかけながら、それと向き合えるように成長していくことも大切であると考えています。


 逆風に抗い、もがき続け、苦しみを乗り越えた時、間違いなく人間は強くなります。だからこそ、かけがえのない喜劇が起きた時、我々は前を向いて歩く力を与えられるのではないでしょうか。


 仲西君、那珂島君、二人との出会いが、伊吹蓮さんにとって素敵な流れ星であることを、心から願っています。


 高柳純真







      RR - Doubble R - EN   完








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ