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RR ー Double R ー  作者: 文月理世
RR ー Double R ー EN
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35-1 Full Moon ― 歓嬉 ― ①


 三月中旬、神宮寺高校は修了式を迎え、年度としては一つの区切りがついた。

 学校は四月から新学年が始まるまでの間、ほんの一息つくことができる短い春休みに入っていた。しかしながら蓮と仲西は例のごとく、いくつかの補習や講義に出なければならず、多くの生徒が春休みで羽を伸ばす中、せっせと学校に足を運ばなければならなかった。


 三月も終わりが見えてくる頃、ようやく最後の補習講義が終わると、蓮はその足で学食へと向かった。

 春休み中でも部活動などがあるため学食は開いているのだ。飲み物とおいしそうなドーナツを何個か買い、大体いつも座るテーブルに行くと、仲西と那珂島がすでに来ていた。仲西は別の補習に出ており、那珂島はそれに付き合って講義を受けていたのだ。


「おつかれ。補習今日で終わりだね」蓮がイスに座りながら言う。

「俺はもう一つレポートある。マジでだダリーよ」仲西が開口一番愚痴った。

「なんのレポート?」

「総合。なんか知らんけど自分の人生設計について作文書いてこいって。最低二千字とかわけわからん」

「人生設計?なにそれ」


「なんだっけ、那珂島?」仲西は那珂島に聞いた。

「ライフプランニング。自分のこの先の人生計画」那珂島が代わりに答える。

「なにそれ。どうゆうこと?」蓮が聞いた。

「学校卒業したらどんな仕事するとか、何歳ぐらいに結婚するとか、自分の将来の見通しを立てて必要な金とかを計算してくんだよ。そうすると自分の人生でどれぐらいの資金がいつぐらいに必要になるのか、グラフとかでわかるようになる」と那珂島が教えてくれた。


「そんなの授業でやってないけど」蓮は言った。

「まあ補習だからね。授業でやったことを課題に出したら、誰かのレポートパクれるからその対策でしょ」仲西が答える。

「仲西、総合の授業でなかったの?」

「三学期ほぼふけた。ちゃんと昼寝して体づくりしたくて」

「机で寝ればいいじゃん」蓮が言う。

「グループワークとかされると、周りに迷惑かかるだろ。俺はちゃんとそこまで考えてさぼってんだよ」と仲西が胸を張りながら言うと、那珂島が、俺はこいつの担任にはなりたくないなと笑った。


 蓮は、その日の講義で仲西が使ったライフプランニングの表を見せてもらった。

 ガイドブックのようなものに人生設計のお手本が載っているようだ。詳しく見ると一つの家族の計画例が図と共に記載されている。


 設定は、男性、女性ともに二十八歳、一年前に結婚しており、現在共働き。具体的な年収も設定されている。一年後に子供をもうける予定。考えとしては年子で二人。計画通りに行けば、次の年に奥さんである女性は出産のために仕事を休職し、数年間は世帯収入がガクンと落ちる。しかし同時期に戸建ての住宅をローンを組んで購入していた。そのローンの支払いに合わせ、子供が生まれれば当然養育費もかかる。


 それら全てを考慮しながら、年を追うごとにどれぐらいの費用がその世帯に必要になってくるのかを計算して具体的な金額を出していた。

 細かいところでは、月々の光熱費や、通信費、旦那のお小遣いまで設定されている。子供が生まれてからは、学校の費用や塾代、習い事の費用やお小遣いまで実に細かくシミュレーションされていた。


「なんかリアル過ぎて、逆に引くんだけど」蓮は思わず苦笑いした。

「なんか住宅ローンとかの年数見るとげっそりするよな。三十五年とかどんだけだよ」仲西は言う。

「でも、設定が細かくてすごいね」蓮はある意味感心していた。

「シミュレーションソフトによっては、高校とか大学によってかかる入学金とか授業料まで設定できるとも言ってたな」那珂島が付け加える。


「でもよー。そんな予定通りに人生うまくいくと思うか?生きてりゃうまくいかないこととか、予想できないことなんていくらでもあるんだぜ」仲西が言と、

「どっちかっていうとうまくいかないことのほうが多い気がする」と蓮は自分事のように思う。

「そういう考えも間違ってないだろうな。でも先のことを何も考えないで、行き当たりばったりで生きていけばいい、ってゆうのも違うよな」と那珂島が言うと、

「確かにねー」蓮も同意した。


「計画を立てて、少しは将来のことを考えるクセをつけろってことだろ」と那珂島が言う。

「まあ、備えあれば、って考え方かもね」蓮が言う。

「人って、何かうまくいかなかったり挫折したときに、その人の本当の力が試されるって、前に言われたなー」仲西が懐かしそうにつぶやいた。

「挫折すると嫌になっちゃうって、ある意味当たり前だよね」と蓮。

「嫌になってもそんなもの当たり前だから、それでも頑張ろうと思ってやろうと思えることが大事だとも俺は言われたな」と仲西が言うと、

「だから、自分の大切なものは絶対譲るな。他人に迷惑かけなければ、自分がどうでもいいと思うことなんかやらなくていい、だよな」と那珂島が言うと、二人は何かを思い出したように笑った。


「それができたらいいんだけどね。実際授業なんてどうでもいいけど、ちゃんとやらないと卒業できないしねー」と蓮。

「学校は〈高校卒業〉っていう資格のためだから我慢するしかないな」仲西が言う。

「だよね。私、社会にでても数学とか理科を使うような仕事は絶対しないと思う」蓮が笑った。


「蓮はなんか将来のこと考えてんの?」那珂島が聞く。仲西が一瞬ニヤリとした。

「うーん、何にも考えてない。目先のことしか見えてないかも」と蓮は笑った。

「仲西はどうなの?」蓮が聞くと、

「俺は調理師になろうと思ってるよ」と仲西は即答した。


「調理師って?料理作る人?」蓮が聞く。

「そう、高校出たら専門学校に行くから今貯金してる。うまくいけば、三年の終わりまでにある程度の学費貯められると思う」


「なんかすごい将来考えてるねー」蓮は少し驚きながら、「いつぐらいから考えてたの?」と聞いた。

「うーん、小学生の頃からかなー。昔からうちのかーちゃんに何か手に職をもったほうがいいって言われててさ。仕事探すのですげえ苦労したみたいで。なんでもいいから社会で使える資格持っておけば食いっぱぐれることないって」


「で、何で調理師なの?」

「俺んちいつも仕事で夜遅かったりするから、飯は自分で作ってたりしてたんだよね。かーちゃんのとかも作ってたら、あんた料理うまいからそっちの道考えたらって言われてさ」

「仲西、料理できるんだ」

「できるっていうか、必要に迫られてだけどね。それに俺料理するの嫌いじゃないし」

「もしかしてクリスマスの時にあった料理って仲西が作ったの?」蓮が聞く。

「そうだけど。そんなんよく覚えてるな」

「チーズちくわ揚げはすごくおいしかった」と蓮が懐かしそうに思い出した。味付けが絶妙で、凜もおいしいと言っていた。それを、仲西に伝えると、変に照くさそうにして、

「俺なんかより、那珂島の夢なんか面白いぞ」と言った。那珂島は、一瞬俺かよ、という顔になる。


「那珂島も夢とかあるの?」と蓮は聞く。

「夢っていうか、俺は公安で仕事したいと思ってる」と那珂島は言葉少なめに言った。

「コーアンって?」と蓮は聞くと、

「公安調査庁」那珂島は答えた。

「へーそうなんだー」蓮にはあまり理解できそうな話ではないが、那珂島はなにやら話しを続けた。


「公安ってどっちかって言うと、ドラマとかの公安警察を思い浮かべる人多いんだよな。公安警察はテロとか政治犯罪とか、日本の治安を悪くする案件とかを扱う組織なんだよ。日本のトップの秘密警察みたいなもので、警察の中でも選ばれた一握りの人間しかそこで仕事ができないんだ。

 俺がいきたい公安調査庁は、法務省って組織の一部で公安警察とは違うんだよね。仕事内容は、ざっくり言えばテロ組織や治安を脅かす団体の情報収集をしたりする諜報機関かな」と那珂島がさらりと説明する。


「チョーホー器官なんだ」蓮は少しの言葉は理解したが、よくわかっていない。

 それを那珂島は察したのか、

「要は、世の中の悪いことをしようとしてる奴らを見張る仕事だよ」と言いかえた。蓮は困ったような顔でうなずき、

「なんか難しくてよくわかんないや」と苦笑いする。

「俺も子供の頃聞いた時よくわかんなくて、自分でいろいろ調べたんだよね」那珂島は言う。


「なんでそのコーアンの仕事したいと思ったの?」蓮は不思議に思った。

「うちの親戚の人が、昔の特高警察に務めてたんだよ。守秘義務があるから仕事内容とかは教えてくれなかったけど。めちゃくちゃ勉強家で面白くて、俺は将来こんな人になりたいなって」

「特攻警察ねー」蓮は理解することを諦めた。


「俺が子供の頃会った時には高齢で、もうだいぶ前に亡くなったんだけど、背筋がしっかり伸びていて、おじいさんなのにカッコよかったなー」と那珂島は懐かしそうに言った。

「みんな、ちゃんと考えてるんだね。私は何にもないやー」と蓮は他人事のようにつぶやくと、

「俺たちは、たまたまだと思うよ。真野とか渡とかマジで何にも考えてないからな」と仲西が蓮をフォローするように言った。


 その後、春休み中にまた集まってランバトのミーティングでもしようという話になった。蓮は凜を誘ってほしいと仲西に頼まれる。真野と渡が凜にしきりに会いたがっているらしかった。








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