34-2 Pentiment ― 素 ― ②
三月に行われるランクバトル・シーズン二戦目の相手が決まった。
今回ダブルアールの対戦相手はアップルシーズ。前シーズンにブロンズリーグに上がり今回降格してきたチームでもある。今シーズン緒戦はダブルアールと同様に勝利していた。
実はこのアップルシーズというチーム、二シーズン前にアンダーリーグで対戦しており、当時のフライングゴリラーズは負けていた。チームバトルの内訳は一勝二敗。那珂島が勝ち、仲西と、当時在籍していた稲木は負けていた。
以前対戦した時も今回と同様シーズン二戦目だった。
FGSは緒戦で勝利した上で二戦目を迎え、それを乗り越えれば昇格戦の望みも見えてくる、はずであったが、結果敗戦。おまけにチームのレギュラーメンバーの一人であった稲木もそのバトルを最後に離脱し、仲西も怪我をしてしまった。
仲西はこの頃から常にケガとも戦いながらランバトをこなしていかなければならなくなり、そして間もなく真野が音信不通になった。ランクバトルは勝ち筋が見えず、仲西は女に走り、那珂島はバイクに走った。
「まあ、因縁の相手って言えばそうかもな」
ミーティングが始まる前から仲西の眼は据わっていた。那珂島との会話の中でわかったことであるが、仲西にケガをさせた田口という相手は、どうも知っている人間らしい。
仲西はその試合で、開始直後不用意に放った大振りの右クロスに思い切り肘を合わせられたそうだ。仲西が拳を痛めたのを田口が見抜くと、執拗にそこを攻め立られ、ろくな反撃もできず判定負けしてしまった。仲西の右拳にはヒビがはいってしまっていた。
後で調べたところ、同じように田口の肘で拳を壊された選手がいたらしい。
蓮は勝負事なので、相手がダメージがあるところを責めるのはある意味当然だと言うと、それはわかってるけどさ、と言い中学時代の話を始めた。
「あいつ同中の一こ上でさ、キックボクシングかなんかのジムに行ってて俺たち空手部のことを馬鹿にしてたんだよ。
そのこと高柳先生に言ったら、アホは相手にするな、で話終わったんだけど。先生、俺たちには何も言わなかったけど、たぶんアイツに直接なんか言ってくれたんだろうな。
それからはあんまり表立って絡んでくることはなかったけど、先生の前じゃヘコヘコしてたからムカついててさ」
その後はトラブルも無く田口は卒業していったのだが、高柳が異動し学校からいなくなったのを知ると、卒業したくせにわざわざ中学校に来て仲西たちに絡んできたのだ。
「空手部ってなんだかんだ周りから一目置かれてたから、気に入らなかったんだろうな。部が無くなったのをバカにしにきやがって。
それで高柳先生のことも馬鹿にするようなことも言いやがって、頭にきてその場でバチバチにやりあったんたんだけど。まあ途中で教員にがきて止められたけど、あいつ自分が一方的に殴られたみたいなこと言って。
教員は先に殴ったほうが悪いから、俺に謝罪しろって言われてよ。母ちゃんにまで連絡しやがって。俺だって結構殴られて怪我してたのにクソ教員がひいきしやがって」
原因が相手の悪口であるにせよ、先に手を出した方が悪いと言われ、仕方なく謝罪したらしい。その後、仲西たちは周りから一層恐れられる存在になったそうだ。
「そんなんでもう二度と会うことも無いと思ってたら、ランバトでばったりだろ。そりゃ頭に血が上るよ。しかもそんなヤツに負けたからさ。もう嫌んなっちゃって」
そんなんだから、美月ちゃんにも引かれるのよ、と蓮が言うと、それはマジでまずいな、と仲西は真剣な顔になった。
その後のチームでの話し合いの結果、ダブルアールのバトルメンバーは、蓮、那珂島、仲西のメンバーで挑むこととなった。
ランバト当日、対アップルシーズ戦。
ダブルアールのオーダーは、一番手蓮、二番手仲西、三番手那珂島。
一番手の蓮がジャッジにコールされる。続けて相手チームのメンバーが呼ばれた。
相手は仲西の戦いたかった田口であった。蓮の後ろから、なにか仲西の唸るようなうめき声が聞こえてきた。よほどリベンジしたかったのだろうが、対戦オーダーの駆け引きもバトルの重要なファクターだ。しかも仲西は内容がどうであれ、一度負けている。
蓮としては、仲西に当たらなくて良かったと思っていた。変に感情に流されて自分の実力を出せずに負ける戦いも多く見てきたからだ。
第一試合が始まった。
試合開始と同時に、相手の田口は蓮の攻撃を警戒しステップバックした。
蓮の噂は聞いているのであろう、足を使って逃げる作戦なのは見え見えだ。しかし蓮は、無造作とも見える動きで一瞬で近づき、カーフキックで川元の動きを一発で止めた。相手の脚がぎこちなくガク着くのを蓮は見逃さず、一気に距離を詰めわざと大振りの右クロスを振ると、田口は予想通り蓮のクロスに肘を合わせようとしてきた。
〈これねぇ〉
と蓮は思いながらそのまま右のクロスを振り抜く。
蓮の右と相手の肘が激しくぶつかる。バグッ、と奇妙な音が響き、次の瞬間、田口は右腕を抑え込みその場に座り込んだ。
開始五秒、レフェリーストップで試合終了となった。
結果としては、蓮はいつものバトルをしたのであるが、一つだけ意図的にやったことがあった。
振り出された拳に、肘を合わせて壊そうとする相手であれば、拳の代わりにうまく掌底を使えば簡単に対策ができる。
しかし、蓮はあえて手を握りこみ相手の肘を拳で打ち抜いた。もちろん相手の骨の構造的に弱い場所に効果的な角度をつけて、だ。田口が意図的にこちらの拳を破壊する意図で行っているのであれば、その報いであるとわからせるためでもある。
聖人君子であれば、そこは躊躇し情けをかけるのかもしれない。しかし今の蓮にその素養は無い。ある種の人間に対して変な情けをかけるのは逆効果であることをそれまでの人生経験で自分なりに学んでいた。
田口に理解できたかどうかは知らないが、蓮はその一撃に仲西の想いを少なからず乗せていた。
その後、二戦目仲西、三戦目那珂島ともに危なげなく判定勝ちをし、終わってみればバトル三戦全勝。仲西と那珂島の戦いは前回よりもさらに成長を遂げていた。
余談である。
蓮の相手であった田口は右肩脱臼、右上腕尺骨及び橈骨の複雑骨折、筋肉損傷の怪我を負った。全治三カ月以上、今シーズンのバトル参加は不可能。リハビリも含めると来シーズンのランバトも厳しいことが予想された。三月現在、高校二年である田口が、今後バトルに復帰する未来は絶望的に難しい。
こうして彼はランクバトルのフィールドからあっさりとその姿を消した。




