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RR ー Double R ー  作者: 文月理世
RR ー Double R ー EN
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33-1 Half Moon ― 棘 ― ①


 二月初旬、神宮寺高校の入試日程が終わり、約一週間ぶりの学校であった。

 蓮は久しぶりに早起きして港のほうをバイクで走ってから学校へ行くことにした。せっかくなので臨海パークで朝日が昇るのを見たいと思った。


 まだ薄暗さが残るうちに起きてサンドイッチを作ると身支度を済ませ家を出る。

 この時期の朝の寒さは中々のものだ。エンジンの暖気をしてバイクに跨り朝の冷たい空気を感じながら山下公園方面から港沿いの道を走った。


 走っている間にも少しずつ空が明るくなっていった。

 先週末に降った雪はここ数日の間にすっかり溶けてしまっていたが、建物の裏や日当たりの悪い場所に黒く薄汚れた白い痕跡を少し残していた。


 臨港パークに着くと駐車スペースにバイクを停めサングラスをかけて海のほうに向かった。

 港が見渡せるベンチに座り対岸沿いに見える建物のシルエットの後ろから朝日が昇ってくるのをじっと待ちながら、蓮はこの一か月の出来事を思い返した。


 先月末、ひとますランバト初戦が終わりようやく一息ついたところだ。

 冬休み以降、練習やバイトで忙しくなってしまい凜とは全然遊べていなかった。凜は凜で家のことで何やらいろいろと忙しいらしく、学校が終わったらすぐに下校してしまう日が多くなっていた。


 昨年末から凜の様子が何かおかしいのはわかっていた。話している途中でも別のことを考えているのか、ぼーっとしていたり、何かにイライラしているような〈気〉を感じることが度々あった。

 先日も体調は大丈夫か?と聞いたときには、家のことでゴタゴタしていて、おまけに生理痛で最悪、といつものようにおどけていた。

 凜は自分の家族のことをあまり話したがらないのを蓮は誰よりも知っている一人だ。なのであまり詮索しないように気をつけた。


 一つどうにも気になることがあった。

 神宮寺高校の入試日程のために学校が六連休になった初日、那珂島の家でランバトのミーティングを行った日であった。

 ミーティングが終わった後、軽い打ち上げをしていたので、凜も来ないかとメッセージを送ったところ、ちょうど家の用事で行けない、とすぐに返信が来た。蓮が、また今度ね、と返すと、凜からいつものようにふざけた内容の返事が返ってきてそのやり取りは終わった。


 打ち上げが終わり蓮は家に帰ると、次の日は昼からバイトが入っていたので早めにふとんに入りすぐに寝てしまった。

 ぐっすりと寝ていると不意にガジェットからメッセージを知らせる音が聞こえた。

 寝ぼけながら画面を確認すると、凜からであった。夜もだいぶ遅い時間である。

 画面を開くと、〈ありがとう〉と一言だけあった。


 蓮は何のお礼かわからなかったので、すぐに〈なんのこと?〉とメッセージを返した。その後しばらく待っていたが、一向に返事が来ないので蓮はいつの間にか眠ってしまっていた。

 次の日も、凜から返信はないままであった。そしてまたバイトとランバトの練習に追われ、あっという間に六連休が終わっった。



 蓮は水筒に入れて持ってきた温かい紅茶をゆっくり飲みながら東の空を眺めた。

 太陽がゆらゆらと空と影の境界線から浮かび上がってくる。赤やオレンジの濃淡を織り交ぜたグラデーションで空に伸びる雲を彩りながら太陽はその姿をゆっくりと現した。

〈この季節の朝日はまるで夕日だ〉

 凜と一緒に清里の展望台で見た夕日を思い出した。



 学校に着くと、時間はすでに予鈴の数分前になってしまっていた。

 いつもであれば、そのぐらいの時間に凜は来ているはずなのだが、その日は予冷が過ぎても姿を現さなかった。早起きして作ったサンドイッチを見て、蓮は何故か悲しくなった。しばらくしてチャイムが鳴り、朝学活が始まる。凜の席は空席のままだ。凜にメッセージを送るが、やはり返信はなかった。


 二時間目の終わりぐらいに、凜からメッセージが入ってきた。

 何か今は鬼退治の最中なので学校に来ることができないそうだ。相変わらず人を喰った内容を見て、蓮は少し安心すると同時に妙な違和感を覚えた。


 その思いは、以前から感じていたものだ。少し前であれば、凜のその見事な擬態に誤魔化されていたかもしれない。でも今は違う。出会ってからの時間の長さではない、一緒に過ごした時間の濃さが蓮の心の奥に刺さった小さな棘のようにうずいていた。ただその確証は何もない。

〈凜にとって、私って何なんだろう〉



 その後数日間、凜の休みは続いた。

 蓮は何度かメッセージを送ったが凜は全て鬼退治に関する内容を返してきた。そして実質十連休の後、凜はようやく学校に姿を見せた。久しぶりに登校してきた凜に、

「鬼退治どうだった?」と蓮が真顔で聞く。


「いやー、死にかけちった」と笑って話すその顔は、少しやつれたように見えた。そう言いながらも、その目は何かすっきりしたものが感じられたので、蓮はなんだか安心した。

 連休明けの初日にサンドイッチ作ってきたのに、凜が休みだったので仲西と那珂島にあげたと言うと、あの二人にはまだ早い、と言って凜はぷりぷり怒った。蓮が近いうちにまたサンドイッチを作ってくる約束をしてその話は落ち着いた。








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