32-6 Ring Less ― 絶 ― ⑥
鋭い突風が雪を巻き上げながら吹き荒れていた。
その音で凜は、はっと目を覚ます。
体は冷え切り手足が思うように動かない。口もうまく動かせない。
寒さはもう感じず、ひたすら強烈な眠気しかなかった。再度突風が起こり、玄関をガタガタと激しく揺さぶる。まるで何かに怒っているかのような凶暴さであった。
しかし凜は不思議とその風に恐さを感じなかった。
何故か不意に蓮の顔を思い出すと、最後にお礼だけ伝えておこうと思った。
見えない何かに後押しされるかのように、ポケットのガジェットを取り出し、冷え切ってうまく動かない指で蓮に〈ありがとう〉とメッセージを送った。
〈私は蓮の役に立てただろうか〉
わけもなく纏わりつく自分に、蓮は出会って最初のころは迷惑そうにしていたが、なんだかんだ時間が過ぎ、いい関係でいられたと思う。自分には蓮に返さなければならない〈大きな借り〉があるのだ。
それがちゃんとできたかどうかは心残りではある。
まだ十分に借りを返せたとは思えないが、最近の蓮は目に見えて明るくなったような気がした。
もう、自分なんかいなくてもいい、と凜は思った。
〈死ぬ前ぐらい、声聞けるかな〉
まどろみの中で、凜は東堂に教えられた番号をガジェットに表示させ、無意識に通話ボタンを押した。
どういうわけか、ワンコールで相手が出た。
「はい」
凜は思わず息を飲む。
相手も何も話さない。
無言の時間が続いた。
凜はしばらくそのままでいたが、何も聞こえてこないので通話を切った。
〈もういいや〉
最後に声を聴けただけでも私は幸せだ、そう想った。
もう後悔は無い。
ガジェットを床に落とし膝を抱えてうずくまる。
不意に玄関の扉が開く音が響く。
懐かしい気配がした。
枯れたはずの涙がまた溢れる。
「-凜」
凜はひたすら泣いていた。
風はいつの間にか凪ぎ、やわらかな白い雪の破片が蛍のようにゆっくりと二人に舞い降りていた。




