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RR ー Double R ー  作者: 文月理世
RR ー Double R ー EN
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32-4 Ring Less ― 絶 ― ④


 蓮は三学期が始まるとせわしなく動いていた。

 一月下旬に行われるランバトのシーズン緒戦は、その後のチームの行き先を決める大きな試金石である。最低でもバトル一週間前には各メンバーのコンディションを整え、できる対策をしておきたかった。


 バイトのシフトを少し調整してもらい、土日や放課後の時間をうまく使って仲西や那珂島の練習に付き合った。渡や真野も時間を作って蓮たちに合流することもあった。渡は昼の学校の普通科に行っているが、真野は通信制の高校に通っており、昼間はバイトをしているらしい。二人とも学校や仕事で疲れているにもかかわらず、懸命に稽古に取り組んでいた。


 今回のバトルメンバーは、蓮、那珂島、真野である。

 那珂島は昨年から連戦が続いているので、疲労に注意しながら練習で追い込みをかけていく。真野は、練習で蓮にダメ出しされながらも、メキメキと技術を上げ、以前の試合で目立った攻撃の粗さも修正できてきた。今回試合に出ない仲西は、筋肉量を増やしてパワーアップの最中だ。ケガで痛めていた箇所も万全になってきている。



 そうして迎えた、ランクバトル・シーズン緒戦、対ドミニオン。ダブルアールのオーダーは、一番手が那珂島、二番手真野、三番手は蓮で臨んだ。


 一戦目、那珂島。

 那珂島の戦い方は、確実に成長していた。パワーは落とさずスピードを上げる練習がうまくいったようであった。相手は決して弱くはない。身長は那珂島より少し低めではあるが、全体的にガッチリしたバランスのいい体格をしていた。蹴り技もそつなくこなし、パンチのカウンターやさばき方がやけにうまい。


 しかし、那珂島の攻撃は見違えるほどレベルアップしていた。相手は那珂島の連打のディフェンスが追いつかなくなり、時折被弾するようになる。試合中盤を過ぎたころからずるずると下がり始め、那珂島の一方的な展開となった。試合終了間際、那珂島はゴリ押しの重い連打の攻撃を仕掛け、KO勝利した。


 二戦目、真野。

 美月の調べでは、真野の相手は別のチームで数シーズン前から名前がちらほら確認できた選手であった。チームを変えながらも出場できているのは、その実力がある証拠だ。試合が始まると、相手の打撃は教科書通りの綺麗なフォームをしていた。間違いなく長いキャリアがある証拠であった。


 真野はそんな相手に怯むこと無く、距離を詰めながらミドルレンジでパワフルな打撃を繰り出していった。三発もらっても、二発は重い打撃を返し、相手にダメージを与えながら押し込んでいく。

 試合はタイムアップとなるが、判定の結果、ジャッジ二人が引き分け、三人が真野に上げ、接戦であったが、僅差で真野が判定勝ちを収めた。


 三戦目、蓮。

 三戦目の相手は、前シーズンのランバトで真野にアホみたいに打ち合って判定勝ちした選手であった。しかし、今回は蓮である。

 ダブルアールの選手がコールされる。蓮が軽やかに進み出る。前回のような嘲笑は、相手チームから一切起こらない。逆に静まり返った相手チームメンバーは、蓮の対戦相手を励ましながらフィールドに送り出した。

 試合開始六秒、蓮の嵐のような打撃の前に相手陣営からタオルが投げられた。


 緒戦の結果は、三戦全勝。

 メンバー全員が当然手放しで喜んでいたが、蓮の経験ではそれは悪い兆候であった。

 喜ぶことは悪いことではない、ただ蓮自身は、自分が勝った試合から得られた経験で役に立ったものはあまりなかった。むしろ負けから学ぶもののほうが多かったのである。


 蓮はランバトでは無敗を誇っていたが、以前通っていた道場では当時の蓮の実力では歯が立たない猛者ばかりであった。道場では屈強な大人と打ち合い、さんざんな目にあってきていたのだ。

 師範の子供だからといって贔屓したりする人間は誰もいなかった。もちろんやりすぎにように、気をつけてくれていたのはわかっている。

 しかし、たとえ子どもであっても一人の人間として対等に扱ってくれたことが、そのときの蓮にはうれしくもあり、そして自分の弱さから学ぶことが多かったのもまた事実であった。




 一月下旬に行われたランクバトル緒戦を終えると、神宮寺高校はその週の金曜日から次の週の水曜日まで入試日程のせいで生徒は六連休となった。

 ダブルアールは、六連休の初日を使って打ち上げを兼ねたミーティングを行った。

 話の中、前回のバトルの振り返りで蓮から散々なダメ出しが出された。


「那珂島は後半もう勝ちムーブなんだから、ゴリ押しして無理にKO狙う必要ないでしょ。

 あんなガード固められて闇雲に打ち込んで、拳怪我したら次のバトルどうすんのよ。もっと緩急つけてスパッと打ち込めば一発で落ちるんだから。

 あんな無駄にダメージ相手に与えて、相手が次のバトル出られなくなって誰が得するの?次の対戦チームでしょ。目先の事も大事だけど、ある程度シーズンの流れを考えないとダメだよ」とくどくどと説教された。それを聞いていた真野は、そっと蓮から目を逸らすが、蓮から「真野もだよ」と直撃される。


「真野はアホみたいに攻撃に全振りするんじゃなくて、もっとしっかりディフェンスしないと。打たれ強いからって、アホみたいに調子に乗ってるとそのうちひどいケガするよ。実際一発でひっくり返される試合なんていくらでもあるんだから、アホみたいに子供の喧嘩みたく殴ればいいってもんじゃないでしょ」蓮にアホアホ言われ、真野は何も言えずしょんぼりしてしまった。


 蓮の言っていることは、真野や那珂島の悪い点を的確に炙り出していた。しかも正論である。打ち上げはとても浮かれる雰囲気ではなく、猛烈な反省会の場となった。

 しかしメンバー全員がこれでいいと納得していた雰囲気であった。自分たちに欠けていたものを、蓮が新しい風となってもたらしてくれているのだ。


 そのことを仲西が言うと全員同じように感じてくれているようであった。蓮は言いすぎてごめんなさい、と謝ったが、

「蓮ちゃんは烈風のようにチーム盛り上げてくれるからいいんだよ」と真野が妙ちくりんな慰め方をした。

「烈風だとチームが裂かれるだろう」と那珂島に突っ込まれる。

「俺は烈風が好きなんだよ」真野はむきになって言い返す。

「お前いきなり音信不通になって逆風吹かせたよね」仲西は真野をからかう。

 そんなどうでもいいようなくだらない時間が蓮には何だかとても心地よかった。

 不意に凜の顔が頭に浮かぶ。おもむろにガジェットを取り出し凜にメッセージを送った。








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