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RR ー Double R ー  作者: 文月理世
RR ー Double R ー EN
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32-3 Ring Less ― 絶 ― ③


 東堂のオフィスから自宅に戻ると、凜はその日の戦利品を確認した。

 カード、キー、メモ。それらが手元にあるからといって、その場ですぐに何かできるわけではない。それらはあくまでも目的のための手段でしかないのだ。ただ、ここに辿り着くまでの日々を思い返し、無意識に長い間じっと見つめてしまった。


 メモに書かれていた住所は、〈千駄木〉という地名であった。

 東堂のオフィスで最初にその文字を見た時、今自分が住んでいる場所の近くなのか?と微妙にびっくりしたが、すぐに自分の住所である〈千駄ヶ谷〉との違いを見つけて、なんだか変な気持ちになった。


 その日の夜、凜は全く寝付けなかった。

 不意に心臓の鼓動が早くなったり、おまけに突然生理がきて体調は最悪になってしまった。

 すぐにでもその場所に行きたい気持ちはある。しかしどういうわけか、いつでも会える状態になったことが、逆に凜の気持ちをひどく混乱させた。あれ程一日一日が過ぎるのを望んでいたのに、その時が来てしまったことが何故だか怖く感じた。


〈私がこうなることがわかっていたんだろうな〉

 今の自分の気持ちが東堂に見透かされている気がしてならなかった。

 眠れない闇の中、寝不足と生理痛でやつれたひどい顔を見られたくはない、と変なプライドも頭をもたげ、凜は少し体調を回復させてから会いに行くことに決めた。

 あれほど再会を待ち望んでいたのに、ひとまず会わないと決めたら急に気持ちが楽になった。



 次の日、凜は学校が終わると真っ直ぐ千駄木駅へ向かった。

 教えられた住所には行かず、一度千駄木という場所に行ってみて周辺をフラフラしてみようと思いついたのだ。ネットで調べると、メモに記された住所は、千駄木駅から向かって西側のほうである。なのでまずは東側を探索してみることにした。


 マップで検索すると、谷中銀座というこじんまりとした商店街があるらしい。

 地下鉄の出口を地上に出て、時折ガジェットを確認しながらとぼとぼと歩いていくと、細い路地に風情のある店が並んでいるのが見えてきた。

 ソフトクリームやらたい焼きやらが売っている。そのまま東に向かって歩いていくと、お肉屋さんのような店があり、から揚げやらコロッケやら売っていた。めちゃくちゃ安い。凜は思わずコロッケを買って歩きながらもぐもぐ食べた。道を少し進むと、階段があった。それを上って進んでいくと、西日暮里という駅の建物が見えた。


 凜は階段まで戻るとそこから街並みの向こうにある住所の方角をじっと見据える。

 目的の場所は大きな建物の陰にちょうど隠れて見えなかったが、それで十分満足だった。

〈そこにいる〉

 そう想うだけで鼓動が早くなる。

 生理なのはどうしようもない、体が回復するのを待つしかないのだ、と先延ばしの言い訳を思い浮かべながら、夕日に染まっていく空をじっと睨みつけた。



 その数日後、凜は再び千駄木へ向かった。

 しかし、結局何もできずふらふらして帰ってきてしまう。そしてその次の日も同じことを繰り返してしまう。その度に、これは体を慣らしているのだ、と言い聞かせていたが、実際はいざ建物の近くに行くと足がすくみ、動けなくなってしまう自分がいた。

 どうしても振り払えない不安が、凜に纏わりついて離れなかったからだ。

 そうして時間だけが無情に過ぎていった。








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