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RR ー Double R ー  作者: 文月理世
RR ー Double R ー EN
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31-2 Crescent ― 兆 ― ②


 凜からの返信を受け、チーム名がダブルアールとして決定すると、那珂島が美月のことで、ちょっとみんなに相談したいことがあると言ってきた。


 その内容は、美月が学校に登校すべきかどうかであった。

 美月は現在、というよりもう何年も学校というものに行っていない状況であった。しかし今後の高校進学を見据えて三学期から少しでも学校に行って生活に慣れる練習をしたほうがいいかどうか、との相談である。


 那珂島の隣で、美月はもじもじしながらみんなの意見を聞いたが、どういうわけか全員とも行かなくてもいい、という意見の中で蓮が珍しく毒を吐いた。

「ほとんどの教員てさ、学校に来ない生徒が登校すると、無駄によく来たねとか、頑張って来たねとかいうけど、本心でそう言ってるヤツほとんどいないからね。そいつらの目を見ればわかるよ。もう死んで腐った魚の眼よ。

 そいつらが言葉に出さなくても、来なきゃ余計な仕事が増えなくていいのにってのが顔に出てるんだよね。私が今まで会って来たのは、表面だけいい人ぶってるクサレ教員ばっかりだったからさ。

 もう気持ち悪くて。あの人たちのほとんどが、せっまーい世界の中でセンセーセンセーって言われて自分は偉いって勘違いしてんだもん。たいして人生経験も無いくせにプライドだけ高い中身スカスカのヤツがほとんどだね。そうじゃない人もいるかもしれないけど、マジで会ったことない。

 私が見てきた教員なんて、学校って世界に守られて威張ってるだけで、その肩書なくなったら、なんだこいつらっていうヤツらばっかだったと思う。立場の弱い生徒相手に自分たちは正しいって自己満してて、一般的な世間の常識知らないし、教員のくせに自分でろくでもないことしても平気で問題もみ消したり、生徒のせいにしてるヤツらばっかだったな。

 だから私は、仕方なく学校行ってたけど、なるべくあいつらには関わらないようにしてた」と一気にまくしたてた。


 どうやら蓮は中学時代にかなり不快な思いをしていたらしい。美月は蓮の意見を聞いた時点で心を決めた。何故か仲西も大きくうなずいていた。

「教員ガチャは間違いなくあるな」と仲西は言う。


 ガチャ、とは、コインを入れてレバーを回すと景品が出てくるおもちゃの自動販売機だったり、オンラインゲームのクジみたいなものだ。自分がほしい景品が出るか出ないかは運であり、それを開けるまで当たる景品がわからない仕組みになっている。


「ま、ガチャで当たったものがなんであれ、それに関わるかどうかを選べるんだったら、自分が嫌な思いをしないほうを選んだほうがいい気がする」と那珂島が言った。

 それを考えたら、クラスも友達もガチャみたいなものなのかもね、と蓮が言うと、そしたら、親とか生まれた国もガチャだな、と仲西が付け加えて、

「俺は、今の家に生まれてよかったと思ってるぞ」と言った。

「俺はどうなんだろうな」と那珂島が考える。美月も同じような顔をしていた。二人は経済的には恵まれているが、それが時として思わぬ不幸を運んできたりして、その立場でもいろいろ思うところはあるのだろう。

〈私はどうなんだろう〉と蓮は考え込んだ。仲西たちに自分の生い立ちは簡単に話してはいるがそれほど詳しくは伝えていない。


「美月ちゃんは、四月までは長い夏休みだと思って、好きなことしたほうがいいんじゃないの」と真野が言った。それを言うなら冬休みだろ、と那珂島が笑った。

 その後はいつものように、渡の地下アイドルグループの話と真野のミリタリーグッズの話が一方的に飛び交った。その間も、美月の頭の片隅に、〈ガチャ〉と言う言葉がいつまでも居座り続けていた。


 そんなこともあり、美月は三学期も中学校に行かないことにした。

 一旦そう決めたら、不思議と気持ちが楽になった。受験関係の手続きなどで必要な書類は母親が学校とやり取りをしてくれているので何も問題はない。



 冬休みが終わり三学期が始まると、美月は見学を兼ねてなんとなく神宮寺高校に足を運んでみることにした。電車で白楽駅まで行き、徒歩で学校を目指す。

 自分が神宮寺高校に入学すれば、おそらくそのルートを使って通学することを考えたら変にワクワクしてきた。


 那珂島から教えてもらった通り、正門から少し歩いた場所にある本部公務センターにという建物に行くと、一階にある事務の人に来校者用のネームタグをもらってふらふらと校内を歩き回った。

 休み時間になると何千人もの生徒が一斉に動き始めるので、そのざわつき方にに少しびっくりした。


 キャンパスを行き交う生徒は制服だったり、体育着や部活着だったりであった。

 時々私服の生徒もいたので、美月は変に校内で目立つこともなくうまく風景に溶け込むことができた。今は美月の髪もだいぶ伸び、今では肩にかかるぐらいになっている。元々素材がいいこともあってか、本来の姿にほぼ戻りつつあった。


 多くの生徒で賑わうカフェテリアのテーブルに座り、美月は、ぼーっと外を眺めた。

 学校に見学に来ることは那珂島に相談したものの、蓮や凜には黙ってもらっていた。

 とはいえもしかしたら偶然二人に会えるんじゃないかという淡い期待ももっていたが、何千人も生徒がいる中で、そんなうまくいくわけもなく、二人の連絡先は知ってはいるものの、用事もないのに自分から連絡する勇気はなかった。


 不意に美月はここ何年かはほとんど部屋に引きこもってひたすら生きることを呪っていた時間を思い出した。ずいぶんと長い間なんとか自分を見失わないよう頑張っていたが、何にしてもすぐに嫌になってしまっていた。

 そんな自分を、兄はとても気にかけてくれた。自分のわがままを聞いてランバトのメンバーにも加えてくれたし、兄としてできる精一杯のことをしてくれていた。


 そして、イブキレンとの一方的な出会い。

 その後まもなく、ちょうど一年前の今ぐらいの時期にその名前はランクバトルから消えてしまった。そしてその頃から自分のランバトに対するモチベーションも失われていった季節でもあった。


 そして仲西のことである。

 仲西が美月のことをずっと気にかけてくれていることは、だいぶ前から兄から聞いていた。

 自分への気持ちを誤魔化すために、好きでもないのにいろんな女子とつきあっている、と聞いたときには、自分なんか仲西先輩の横に並べるわけないのに、と悲しく思った。


 全てがどうでもよく、ただ惰性で生きているだけだった。

 それが、今こうやって何かをやりたいと思えているのだ。

 美月は何故だろうかと思う。


 それを考えた時に、瞼の裏に最初に思い浮かぶのは、初めて蓮を見たあの日の光景だ。

 照らされるライトの下、踊るように戦う蓮は、自分にとって崇拝の人である。

 そしてその人は今、様々な運命の分岐点を超え、奇跡的に美月の近くに存在しているのだ。

 一年で寒さが一番厳しい季節の中、美月の心は今までの人生で静かに一番熱くなっていた。







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