31-1 Crescent ― 兆 ― ①
冬休みの終わり、蓮たちはチームミーティングを開いた。
その日の目的は二つ。
一つ目は、シーズン初戦のバトルメンバーについてだ。ランバト運営から連絡があり、正式に対戦カードが決定していた。今回の相手は前シーズンの三戦目に当たったドミニオンである。蓮たちのチームと同様に利確戦を行い、勝ち残ってアンダーに残留したチームだ。
フライングゴリラーズは前シーズンのバトルではドミニオンにきっちり負けていた。
相手チームは重量級の選手が目立ち、パワー主体で押し切る戦いが得意であった。前回のバトルで、那珂島は一本勝ちを取ることはできたが、渡は体重とパワーで押し込まれ判定負け、真野はアホみたいに打ち合って判定負けしていた。
それを踏まえた上でバトルメンバーは、蓮、那珂島、真野に決定した。仲西は長引いていた怪我も回復しており、コンディションも悪くなかったが、筋肉量を急激に増やしており、スタミナ稽古が追い付いていないため、今回は真野に白羽の矢が立ったのだ。
真野は前回、重量級の選手相手にアホみたいに打ち合った結果、負けはしたものの、決してパワー負けはしてはいなかった。
当日戦う順番であるバトルオーダーは直前まで相談しながら考えていくことにして、今回の戦いは蓮のバトルオーダーが間違いなく鍵になる。
ドミニオンは、GSの利確戦の結果を精査し、いかに自分のチームのポイントゲッターの選手を蓮と当らないようにするか考えてくるはずであった。
一方のFGSは当然、蓮という最強のカードを最大限に活かすつもりである。
余談ではあるが、蓮が今井から聞いた話では、先日の利確戦で当たったキュベレイズというチームは解散したらしい。
蓮の中に、やりすぎてしまったかという疑問が一瞬浮かんだが、すぐに消えた。
上位に行けば、相手の心を折らなければならない戦いばかりだ。意味のないところで下手に相手に情けをかけるようでは、そのツケはいずれ自分たちに跳ね返ってくる。
かといって、相手を身体的に再起不能にすることが目的ではない、そこを勘違いしてしまうと、どんなに力があってもいずれそのチームは崩壊する。そのことを蓮は上位リーグで間近に見てきた。
〈自分たちの目的は武を極みに近づくことであり暴を誇示することではない〉
これは父親が生前、厳しく言っていた言葉の一つであるが、蓮自身も自分の経験を通してその意義の大切さを学んでいた。
ランバトの話が落ち着くと、もう一つの議題であるチーム名の変更について話し合う。
冬休みの間、各自で考えてきた案を上げていった。
仲西〈シャイニングゴリラーズ〉
一同、冷たい視線で仲西を見た。
「お前真剣に考えてねえだろ」那珂島がぼそりと言った。
「いや進化してるから、シャイニングって輝いてんだぜ」仲西はいたって真剣である。
「フライングは飛べるけど、シャイニングは光ってるだけだろ」と真野が突っ込む。
「まあ、普通に退化だな」那珂島が切り捨てて間もなく話は終わった。
那珂島〈ダークネスドラゴン〉
「闇の竜ねぇ。厨二病全開じゃねえか」今度は渡が言った。
「お前も浅はかだな。闇の中にこそ真の光があるんだろ。しかもドラゴンだぜ。昔から強さの象徴だ」那珂島は頑張って説明するが、仲西の「闇に落ちてどうすんだよ」の一言で話が終わった。
真野〈バンカーバスター〉
「真野よぉ」仲西があきれながら、
「お前それ、自分が好きなミサイルの名前だろ」と続けた。
真野は、バンカーバスターというミサイルの破壊力の凄まじさを熱く語る。
「爆発してどうすんだよ」と渡の冷たい一言で撃沈した。
渡〈センチメンターズ〉
「あのな、渡」今度は真野が言い返した。
「人のアイデア馬鹿にしておいて、お前は地下アイドルグループの名前をパクッてるだけじゃねえか」
渡が、なにを、という目で真野を睨みながら、マシンガンのように地下アイドルグループ〈センチメンツ〉の素晴らしさを語り始める。
「センチメンツは、神」と言い切る渡に、
「うちは宗教じゃないから」と仲西がとどめを刺した。
最後に蓮〈ライオンバーム〉
一同沈黙する。
「ライオンバーム、って」仲西の思考は停止した。
蓮はリーグ残留の立役者である。そのネーミングには何かしらの意図があるに違いないとみな同じように考えていた。
「これは、どういった考えがあるのかな」仲西は慎重に尋ねる。
「おばあちゃんが持ってた薬の名前。強そうかなって」と蓮は真顔で答える。
妙な静けさが続く。
「ライオンバームって日本語で何か知ってる?」那珂島が蓮に聞くと、蓮は、知らない、と答える。
「ライオンの軟膏、ようは塗り薬」那珂島が教えた。
だからあんなベタベタしてたのかー、と蓮はつぶやき話は終わった。
残るは美月であるが、自分はバトルに出てもいないのでそんな重要なことは決められないとチーム名の案を辞退した。
結果、話は行き詰まり何のアイデアも無いまま時間が過ぎていっく。
蓮はこのまま変えなくてもいいんじゃないかと提案するが、仲西は頑としてそこは譲らなかった。長い間、誰も発言しない時間が続いた
そんな中、那珂島はふとクリスマスに美月が凜に見せていたノートの表紙を思い出した。
アルファベットのRが二つ並んで書いてある、凜〈Rin〉と蓮〈Ren〉の頭文字をとって書き留められていたものだ。
「今思いついたんだけど、ダブルアールってどうかな」那珂島が言う。
「ダブルアール?WとR?」仲西が聞く。
「いや、Rが二つ、美月が持っていたノート思い出しただけなんだけど」那珂島が美月のノートのことを説明した。
「ダブルアールねぇ」真野と渡もつぶやく。
美月はおろおろしている。
「俺はいいと思う」仲西が言うと真野や渡もうなずいている。
「蓮はどう思う?」那珂島が蓮に聞く。
「どうって言われても。それって私と凜のイニシャルとっただけでしょ」と蓮は言うが、
「それがいい」渡と真野が目を輝かせていた。
「えー、美月ちゃんはどうなの?」蓮は引き気味で美月に聞いた。
「私も、その名前いいと思います」細い声で美月は答えた。
那珂島は一瞬驚いた表情になる。チームの重要なことを決めるときに、美月がそんな風に自分の意見を言うことは今までなかったからだ。美月の中で、確実に何かが変化している証拠であった。
「あとは蓮が良ければ、決まりでいいと思う」と仲西が言うと、
「私は別にいいけど、凜にも聞いてみたい」とガジェットで凜にチーム名についてどうかとメッセージを送るとしばらくして返信が返ってきた。
〈RR 始動開始 〉




