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RR ー Double R ー  作者: 文月理世
RR ー Double R ー EN
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29-5 Karma ― 結 ― ⑤


 十二月に行われるアンダーリーグ権利確定戦の対戦相手が運営から通知された。

 相手はキュベレイズという新規チャレンジチームだ。チームデータはほぼ無いが、元アンダーリーグやブロンズリーグに所属していたメンバーが集まったものではないかとのことだ。


 それを最初に指摘したのは美月である。

 対戦通知とともに運営から送られてきた、アンダーリーグ挑戦権の試合結果のバトルメンバーの名前を過去のデータと照合したのだ。


 美月のデータ収集力は異常であった。

 運営から発表されるチームバトルの情報をもとに、選手の戦績や個人情報をインターネットで集めていた。しかしながらネット上で集められる情報は限られており、もちろん多くの間違った情報もあったがそれを精査しながら、各チームの構成や選手のファイトスタイルのデータなどを蓄積していたのだ。


 実はそれ、一年ほど前に美月がイブキレンのことを血眼になって調べようとした副産物でもある。

 ちなみに那珂島が、カロリーマイトを飲むようになったきっかけは、美月が何かのサイトでイブキレンがカロリーマイトを愛飲しているというガセ情報を入手したという経緯のためだ。

 しかし那珂島はそれを決して認めようとしない。


 キュベレイズが解散したチームのメンバーが集まったであろう事実ほぼ確実である。それがわかれば、後は相手チームのバトルオーダーを予想し対戦順を考えればいい。

「これだけ分析できてるんだから、今までだって考えてバトルすればそれなりに勝てるはずなのに、何やってんの?」蓮が仲西たちにダメ出しをした。

 仲西たちは、企業で売り上げ成績を注意されている営業社員のように、〈以後注意します〉と真顔で反省していた。



 対戦カードが決定した数日後、蓮は今井から連絡をもらった。

 今井によると、どうやら相手チームのキュベレイズはFGSを完全に嘗めきっているらしい。今回の利確戦は眼中になく、既にアンダーリーグでのバトルに的を絞って対策を立てているということを人づてに聞いていた。


 利確戦に挑戦できるのは二つのチャレンジチームである。

 どちらチームがFGSと当たって楽にアンダーリーグの権利を手に入れられるのかは、新規チャレンジチームだけでなく現アンダーやブロンズから降格戦を迎えるチームの関心事でもあった。


 キュベレイズは、これからアンダーをのし上がっていこうという勢いのあるチームだ。残念ながらFGSは今シーズン三戦全敗、低ランクの底であり、もちろんその情報は、相手チームも当然把握しているものだ。

 運営はSNSなどを通してランバトの情報を発信することを固く禁止してはいるが、当然リーグやチームの垣根を超えて、関係者の間でちょっとした情報交換はどうしてもされてしまうのが現実なのだ。


 残念ながら、FGSは相手に舐められるような戦績を残しているのは事実であった。

 そう思われても仕方がないと思いつつも、目の前の敵を軽く見る態度は、蓮はすこぶる不快であった。

 今までのバトルでも、どんなに実力が追い付いてなくても、必死に戦おうという人たちを見てきていた。そこには単純に強さだけでは測れない人の尊厳を感じるのだ。

 そして蓮はその尊厳を踏みにじることは嫌いであった。

 そして踏みにじられることは大嫌いであった。




 十二月の利確戦、FGS対キュベレイズ。

 バトル一戦目は伊吹蓮。

 このオーダーは、蓮自身がチームメンバーにお願いしたものだ。チームのメンバー全員が、蓮にはバトル三番手の最終戦に出てもらいたいとお願いした。しかし蓮は、それを頑なに拒否したのだ。


 実力を考えれば蓮を三番手に持ってくるオーダーが定石であろう。しかし蓮には蓮の考えがあった。チームに所属して間もない人間が、バトル最終戦に出るべきではないという思いもある。

 そしてそれ以外にも格闘家としてしたたかな計算も頭の中にはあった。


 一戦目、各チームの選手がコールされる。

 最初はチャレンジチームであるキュベレイズの選手だ。

 出てきた選手は、身長百八十センチぐらいのほっそりした筋肉質。ふくらはぎの発達具合から、伝統空手のタイプかとも予想できた。コールされながら進み出たステップワークが軽やかだった。

「フライングゴリラーズ イブキレン」

 蓮が一歩前に踏み出す。


 女が出てきたことに、相手チームからざわめきが起こり、それがすぐに嘲笑に変わった。蓮は既視感を覚える。

 うわー、とか、マジかよ、というような声が蓮の耳に入ってきた。あいつら萎えてんじゃん、という声も聞こえた。


 対戦相手は、蓮の方は見ず、これが対戦相手なのか、という感じでジャッジの顔を見ていた。

 ジャッジは鉄仮面の表情でルールの説明続けていた。目つき、噛みつきの禁止など、いつものようにバトル前の注意をする。祝詞が終わり、蓮と対戦相手はお互いに距離を取った。


 バトル中のアドバイスは禁止されているが、始まる前なら、一言二言、言っても問題ない。相手チームのセコンドの誰かが、「ラッキーだな」と言うのが聞こえた。

 試合開始のブザーが鳴る。


 体格で明らかに蓮に勝る相手は、試合開始と同時にその距離を詰め、スタミナ配分お構いなしにラッシュを仕掛けてきた。

 蓮はその攻撃を防ぐだけで防戦一方の形になる。

 仲西、真野、渡は、もしかしたら、と一抹の不安に駆られた。

 那珂島と美月は全く動じず、蓮の動きをじっと見守っていた。


 反撃がない状態に相手が調子づいて、攻撃が雑になってきたところに、蓮は鋭いボディのカウンターアタックを合わせる。

 蓮は意識して力を抜き撃ち抜かない。わざとダウンさせないためだ。


 カウンターとは、相手の攻撃の瞬間や最中に技を合わせる高等テクニックである。

 通常、防御を意識していれば攻撃を受けても対応しやすく、受けるダメージも抑えられるものだ。しかし、攻撃に意識や体が回っていると、自身の防御行動への反応はいちじるしく低下する。

 そこに軽くでも攻撃を合わされると自分が思っている以上に大きなダメージを受けてしまうものだ。実際に小学生高学年程度の力があればカウンター一発で並みの成人男性程度ならを倒すことも可能である。


 蓮の思わぬ反撃に、相手は受けたダメージの回復も考えずむきになってさらに手数を増やしてきた。それを合図かのように、蓮はフェイントも含めその攻撃全てにカウンターを合わせる。

 相手は何をしてもカウンターを合わされ、おまけにスタミナ切れを起こし一瞬棒立ち状態になる。その瞬間、蓮は竜巻のように回転し、相手のみぞおちめがけてミサイルのようなバックスピンキックを突き刺した。

 相手はブラックタイガーのように身体をくの字に曲げながら、自陣のコーナーに吹き飛んでいく。

 すぐさまジャッジが二人の間に割って入った。

 相手は、倒れたまま起き上がることはできない。

 試合開始二分、蓮の圧巻の勝利であった。


 蓮は、その場で佇み相手陣営を見据えた。

 相手陣営は無風の湖面のように静まりかえっていた。

 二戦目に出場するであろう選手の肩が、かすかに震えているのを蓮は確認し、ジャッジと試合会場に一礼すると、軽やかなステップでその場を後にした。


 この試合になぜ二分もかかったのか、これはかかったのではない、蓮があえて時間をかけたのだ。

 最初に攻撃をしなかったのは、相手の動きを多少見る意味もあったが隙を見つけても蓮は攻め込むことはしなかった。

 蓮の目的は目の前の対戦相手と同時に残り二人の選手に恐怖心を植え付けることであった。


 二戦目の那珂島、三戦目の仲西、ともに勝利した。

 フライングゴリラーズ、結成後初のバトル三戦全勝であった。


 仲西は勝ったのに泣いていた。那珂島は泣くのを我慢していた。真野と渡は、笑顔で歓声を上げていた。美月は蓮を穴が開くほど見つめていた。その視線に蓮が気づくと、美月はすぐに目を逸らした。


 仲西が、美月ちゃん、俺のバトルどうだったと先ほどの涙はどこへやら横から入ってくる。

 美月は、「まあ普通ですけど、優勢になると大振りになるクセ直ってないです」と的確なアドバイスで答えた。

「普通かー、普通も難しいんだよー、大振りねー、そうだよねー」と仲西は流した涙も消え去り普通にへこんだ。那珂島がそのやり取りを見て苦笑いしていた。


 蓮は妙な違和感を覚える。

 ほんの一年前は、あれほど人生に迷走していたのに、どうして今の自分は、こんな楽しいことができているのだろうか。

 まるで、全ての過去が繋がって未来が順番にやってきているような錯覚に陥った。

〈縁、か〉

 これが過去からの因果であろうが、決まっていた未来であろうがどちらでもいい。

 今の幸せを噛みしめながら、凜がそこにいないことにひどく寂しさを感じた。








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