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RR ー Double R ー  作者: 文月理世
RR ー Double R ー EN
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29-4 Karma ― 結 ― ④


 蓮のチーム加入が決まると、その週末にチームメンバー全員が集まり顔合わせを行った。

 集合場所は那珂島の家である。那珂島の家の母屋から渡り廊下をつないだ先に十畳ほどの部屋があった。地下室は防音設備になっており、楽器などが練習できるようになっているが、そこで主に那珂島がするのはサンドバックとミット打ちである。


 約束の時間になる少し前には、チームメンバー全員が集合した。仲西、那珂島、美月、そして渡と真野の二人も来ていた。蓮は初めて会う渡と真野に挨拶すると、二人は立ち上がり、よろしきゅお願いします、と二人そろって噛んだ。


 渡は実力的には仲西や那珂島よりも劣るが、アンダーリーグではそれなりにバトルできているようであった。

 渡はもともと伝統派空手の出身らしく、中学の時に真野に誘われて空手部に入部したらしい。打撃のセンスはいいものをもっており技も多彩であった。

 しかし、どちらかというと体の線が細く、スピードを中心にバトルを展開するタイプであるため、ポイント優先ではない直接打撃系の削り合いや泥試合は苦手としていた。五月のバトルで怪我を押して出場した結果、膝と腰を痛めてしまい戦線を離脱をしていたが、最近ようやく練習に参加できるようになっていた。


 真野はがっしりした体格をしていた。仲西と身長は同じぐらいであるが、体の厚みは一回り大きい。格闘家というよりボディービルダーのようである。

 なんでも音信不通だった時期は家庭の事情でどこかの施設にいたらしく、外部との連絡は一切できなかったようだ。ほぼ施設の中で過ごさなければならなかったせいで、無駄に筋トレをしていたため以前よりさらに体重が増えたようであった。

 体が大きくなった分、パワーや耐久力はついたが、スタミナとスピードがその分落ちてしまったことが、目下の課題ということである。


 美月は髪が伸びていた。

 ショートボブだった髪がだいぶ伸び肩口辺りまで届いていり。蓮が美月の隣に座ろうとすると、美月はびっくりして那珂島の隣に飛び跳ねるように逃げてしまった。那珂島が、ごめん緊張してるんだよ、といって謝ったが蓮は別に気にしていない。


 今後のチーム編成などについてみんな話しているときに、蓮がふと視線を上げると、美月が食い入るように自分を見つめている現象が何度かあった。蓮が美月のほうを見ると、とたんに視線を外し、じっと机の飲み物や意味のない物体を見つめた。そんな美月の様子を見て、仲西は笑いを堪えていた。



 話し合った結果、リーグ第三戦である次のバトルは、那珂島、真野、渡のメンバーでオーダーを組むことに決定した。

 本来であれば仲西を出場させたほうが、ポイントが取れる可能性は高い。しかし仲西は、今シーズン緒戦のダメージを引きずってしまい二戦連続で負けてしまっていた。今回は十分ケアできていない怪我の状態を治すことに集中させることにしたのだ。

 このバトルは、悪い言い方をすれば捨て試合である。その第一の優先事項はメンバー全員がケガをしないでバトルを乗り越えることであった。



 話し合いが終わると、渡は推しの地下アイドルグループの話を突然切り出し、真野はよくわからないミリタリーグッズのいい店があってどうのこうのという支離滅裂な話をし始めた。

 その時間も束の間、仲西がひとまず、ミーティングを終えて解散しようとした。


 ふと蓮が、以前から疑問に思っていたことを誰ともなしに聞いた。

「そういえばFGSって何の略なの」

「あれ、言ってなかったか。フライングゴリラーズの頭文字だよ」仲西が答える。

「え?」蓮は、よくわからないという顔をした。

「Flying Gorillas、飛ぶゴリラ」仲西は再度説明する。


「ちょっと、チームやめたくなったかも」と蓮が笑って言うと、その場にいた全員が無言になった。

「チーム名変えようか」と仲西が真顔になる。

 蓮が、冗談よ、と言っても、アンダー残留出来たらそれもあるかもな、と仲西は妙に真面目な顔をしていた。



 その日は渡以外、全員バイクで那珂島の家に来ていた。渡は誕生日が早生まれのため、まだバイクの免許が取れておらず、真野の後ろに乗せてもらっていた。

 渡が、みんないいなー、と言いながら真野のバイクに揺られ走り去っていく。仲西も、じゃあな、と言って自宅の方向へバイクを走らせていった。


 蓮も、那珂島と美月に手を振りバイクに乗って帰ろうとしたその時、美月が蓮に駆け寄りなにやら紙袋を差し出してきた。

 蓮はバイクを降りて、それを受け取った。どしたの?と美月を見るが、相変わらず何も話さないので、蓮は困って那珂島に視線を向けた。


 ちょっと開けてみて、と那珂島が言う。中身を取り出してみると、黒いカーディガンであった。生地がしっかりしており、手触りがとても気持ちがいい。広げてみると、蓮のサイズにぴったりのようである。思わす、どうしたのこれ?と聞くが、美月はモジモジして答えられない。那珂島が代わりに、

「美月が自分で作ったんだ。前から自分でいろいろ作っているんだけど」と答えた。


「自分で作るとか、すごいじゃない」蓮は驚いた。

「前一緒に撮らせてもらった写真から、サイズ割り出して作ったみたいだから、だいぶずれてるんじゃないかって心配してるけど」と那珂島は美月に向けて言う。美月は首を縦に振った。

「ううん。たぶんちょうどいいサイズだよ」蓮は言う。

「実は、凜のもあって、今日来るかなと思って用意してたんだけど。もしよかったら蓮に渡しておうか」と那珂島は美月に聞くが、

「こうゆうの、直接本人に渡したほうがいいと思う。私のは本当にもらっていいの?」蓮が美月に聞いた。

「もちろん。でも変に気を使って無理に着ないでほしいって、美月言ってるから」と相変わらず那珂島が美月の代わりに返事をする。

「着たいときに着るから大丈夫」蓮は笑った。


 その時、美月が那珂島に何か耳打ちした。蓮が様子を見ていると、

「なんか美月、こうゆうの気持ち悪がられてないか気にしてるみたいなんだけど」と那珂島が申し訳なさそうに尋ねた。

「手作りの物もらって気持ち悪い人もいるけど、美月ちゃんにもらえるなら私はすごくうれしいな」と蓮は言うと、その言葉を聞いたとたん、美月は家の中へ風のように逃げてしまった。


 那珂島がさらに申し訳なさそうに、あいつ蓮に会えてすごく嬉しいんだよ、普段はもう少しちゃんと話できるんだけど、と美月をかばった。

 蓮は、別に気にしてないよ、と笑い荷物をリュックにしまうとバイクにまたがり、那珂島に軽く手を振り走り去って行った。


 那珂島は、その後姿を遠い目で追いかける。

 そして、バイクの排気音が聞こえなくなるまで、その場に佇んでいた。

 本格的な冬の訪れを感じさせる冷たい風が静かに吹いていた。




 十一月、リーグ第三戦、相手チームはドミニオン。

 そのバトルに関しては、ほぼ予定通りの結果となった。

 一戦目の渡は攻撃を回避するために足を使って距離をとる作戦に出る。決定的なダメージは受けなかったものの攻撃の手数で押し込まれ判定負け。

 二戦目の真野は、自分より体が一回り大きい対戦相手とアホみたいに真っ向から打ち合った結果、判定負け。

 三戦目、那珂島は無理をしない試合運びをしていたが、相手のスタミナが切れたところにカウンターの前蹴りが決まりKO勝利となった。

 那珂島の一本勝ちでポイントは増えたが、何にしてもチームバトルは予定通り敗退した。


 今シーズンFGSのチームバトル戦績は三戦全敗。

 しかしメンバーに悲壮感は無い。

 その照準は既に次の利確戦に向けられていた。








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