29-2 Karma ― 結 ― ②
数日後、凜と蓮は屋上でお昼ご飯を食べた。
蓮がその日はサンドイッチ作って持っていくことを凜に伝えたところ、〈私も食べる!〉となり、秋空の下で一緒に食べようということになったのだ。
サンドイッチを食べ終え、ドリンクを飲みながら少し落ち着いた後、蓮は凜にランバトに復帰するつもりであることを伝えた。
「私は反対だけど」凜は即答した。
蓮が手紙の内容をかいつまんで説明すると、凜は、そうかーと言いながら、視線を空に向け、「蓮、縁って言葉知ってる?」と尋ねた。
「円てまるのこと?」と蓮は答える。
「ううん。縁結びの縁。えにしとも言うのかな」と凜は説明した。
「まあ言葉だけは知ってるけど」
「私はね、縁てすごく大切だとと思うの」と凜は続ける。
「こうやって、蓮が私と話してるのも縁だし、仲西たちと会ったのも縁だし、高柳さんから手紙もらったのも縁だと思うの。全然関係ないと思っていたものが、自分が気づかないところで、実はすごく繋がっていたり、何かの原因になっていたりして、お互いに影響を与えてて。その繋がりが絡み合って、今ってゆう状況があるの」
「なんかの宗教みたいだね」蓮が言う。
「うん。縁って仏教とかの言葉でもあるみたい。今の自分は今までの過去の積み重ねの上に成り立っていて、そこにはもう逆らえない何かがあったりするんだって。因果律ともいうらしいけど」
「それって前世とかの因縁とかってやつ?」
「うーん。そうだね。それも解釈の一つだと思う。前世の関係が今に繋がってるって考え方だよね。私としては、前世がどうであろうが、今生きてるのは自分だし、何かあったら前世が悪いって言われてもなんだか納得できないけど。
まあ私は宗教とか入ってないし、あんまりよくわかんない。ただ今生きてるこの世界って自分たちが何気なくしていることが、いろいろ繋がってるって気がする。
バタフライエフェクトって言葉があるらしいんだけど、小さな行動が大きな変化に繋がることがあるんだって。それと同じで何かの行動の先にある結果なんだと思う。もちろんいい縁だけじゃなくてい縁もあるんだけど」
「悪い縁てなんかわかる、こんなヤツ会いたくもなかったっての結構いる。でも会った後だとどうしようもないよね」蓮はついこの間のことを思い出した。
「悪い縁て自分の感覚でなんとなくわかることがあるから、とにかく感覚を研ぎ澄ませるのが大事だって、私は言われたな。そいで、その兆候みたいなものがあったら悪い波にのまれる前にそれを避けられる場所に動くか、波が来る前に乗り越えちゃえばいいんだって」
「それができればいいんだけど」
「たぶん普段私たちがかかわってるレベルの人間関係なら、少し注意すれば嫌な縁の流れが見えて対応できたりする部分もあったりすると思う」凜は言う。
蓮は何となく、凜が転校当初に受けていた嫌がらせに対しての立ち回りのうまさの理由がわかったような気がした。この年でそのレベルのことを考える人間に、蓮は今まで会ったことはない。
「確かに、ちょっと考えて注意すれば防げることってある気がする」蓮は思う。
「でも注意しても何ともならないことがあるらしくて」
「例えば?」
「うん。地震みたいな自然災害とか、人災にしても大規模なものとかもう無理でしょ」
「そうゆう場合はどうすんの?」
「諦めるしかないよね」と言いながら凜は真顔になり、
「まあ、この考え方は万能じゃないし、いろいろ考えてたら何もできないでしょって人もいると思うけど」と続けた。
「私は、あんまり先を見る力は無いから考えてないかも」蓮は苦笑いをする。
「私もどっちかっていうとそうなんだけどね。で、縁の考え方にはもう一つ考え方があって、実は未来はもう決まっているっていう確定論があって。有名なのは古いけどラプラスの悪魔って言われてるものらしいんだけど。
簡単に言うと、私たちの未来が過去の因果関係によって決まっていくなら、今って感じる瞬間はすでに確定してるって考え方。つきつめちゃえば私たちは決められた未来をなぞっているっているだけなんだって」
「なにそれ、じゃあ今の行動はそうなる予定だってこと?」蓮が聞く。
「簡単に言えばそうだね。同じような考え方なんだけど、一説にはゼロポイントフィールドって場所がこの宇宙のどこかにあって、そこに未来の全部が決められているとかなんとか。私もそんなこと言われても、あんまりよく理解できなかったけど」
「それって、なんかやる気無くすような気がする。何したって未来決まってるんだったら、自分がこの先やろうとしていることに意味が無いような、無駄なような」蓮は言った。
「うん。それも一つの考え方なんだよね。でも、その本質は決まってるなら何をしても無駄っていうんじゃなくて、決まっているからこそ行動をする意味があるんだってさ。ラプラスの箱もゼロポイントフィールドにしても、未来は確定してるから何をしても無駄だよってわけじゃなくて。決まってるからこそ行動したほうがいいって考えみたい」
「でもそれって、過去の行動が未来を決めていくってゆう因縁的な考え方とは逆だよね」
「うん。一般的な因果律の考え方は、過去の縁が巡って未来に繋がっていくって考え方だからね」凜は答える。
「でもなんか、もう先が決まってるんだったら、何してもなって思っちゃうな」
「そうだね。私もこの話初めて聞いたとき同じように思って、もうやる気なーいってなってたの、そしたら面白いこと教えてもらった。
未来っていうのは、今まさにこの瞬間に決められてるんだって。
決定された未来は、数ある選択肢の中から、その選ばれた結果を、今ってゆう瞬間に反映させてるんだって。だから前もって用意されている結末は一つじゃないんじゃないかって。
それなら、個の選択が未来を紡ぐ中で、人の意思も確定されるべき未来に少しは影響を与えてもおかしくないんじゃないかって言ってた。
だから、未来が決まっていようがいまいが、自分が思う最適解を探して納得できる行動をすることが大切なんだ、って」と凜は語る。
「最適解ねー」蓮は頭がこんがらがり、うーんと唸りながらミルクティーを一口飲む。
「なんか凜、すごい考えて生きてるんだね」
「全然。逆にあんま考えてないよ。今話したことほとんど受け売りだし」凜は言う。
「家族みたいな人からのでしょ」すかさず蓮が反応する。
そうだねー、と凜は笑いながら続けた。
「だから私、頑張って最適解とやらを選ぶようにしてたら。そいつなんて言ったと思う?」
「また凜の気持ちを逆撫でることでしょ」と蓮はクスクスと笑いながら言った。
「そう。〈まあ俺はノリで決めるけどな〉だって。頭に来たからそいつの服全部隠してやったの。そしたら電話来て、〈最適解が知りたい〉って。もうバカでしょ」と凜も笑って続けた、
「なんか話それたけど、結局、因果律も確定論も、同じようなことを言ってるような気がする。二つの考え方はお互い逆みたいだけど、言いたいことは、
〈今自分のできる何かを頑張って、自分の行動に後悔しないように生きなさい〉ってことなんじゃないのかな。
蓮が仲西たちと会ったのも、大切にしたほうがいい縁の一つなのかなと思う。高柳さんと蓮のお父さんの関係も、今に繋がっている大切な縁だと思う。だから、蓮がやりたいと思うことを、私は応援する」と凜はいつものように、えへへと笑った。
本心はどうあれ、凜がそう言ってくれるのは、蓮にはとても嬉しいことであった。




