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RR ー Double R ー  作者: 文月理世
RR ー Double R ー EN
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28-2 Green Flash ― latter half 破 ― ②


 その後、仲西と那珂島は宿に戻ると軽くシャワーを浴びて少しの間泥のように眠った。

 あっという間に時間が過ぎ、ガジェットでセットしておいた目覚ましのアラームが鳴る。二人とも少し仮眠がとれたおかげで、体はだいぶ楽になった。とはいっても完全に回復したわけではなく、動くたびに体のどこががギシギシした。


 その日の夜は、〈池之沢〉という居酒屋で高柳がごはんを奢ってくれるとのことであった。そこは居酒屋であるが、民宿も兼ねているらしくかなり食事がうまいそうだ。

 二人は約束の時間に待ち合わせ場所である、島に一つしかない商店にゆっくり歩いて行った。


 九十九屋(つくもや)という商店の前に行くと高柳は近くのベンチでバリバリ君というアイスをかじっていた。二人を見るなり、じゃ行くか、と言って、問答無用ですたすたと歩いて行った。


 池之沢という居酒屋は、そこから歩いてすぐのところにあった。店の中に入ると、すでに観光客と思われる人たちが数人おり少し賑やかになっていた。三人は座席に着くと、高柳はここの焼きそばがうまいんだよ、と言うのでまずは注文して食べてみることにした。


 しばらくして焼きそばが出される。見た目は普通のソース焼きそばであった。色が少し濃く、味が重そうな感じがした。しかし食べてみると、ソースの味はほどよくまろやかであり、しつこさは全く感じない。甘みと辛みが絶妙に感じられ、深い味わいがあった。なにか隠し味で使っているのであろうが、今まで食べた焼きそばの中で、ダントツにうまかった。


「うまいっすね」と二人は言い、あっという間に平らげるともう一つ注文してくれた。それから島ずしという郷土料理や、魚介系の料理もとにかくうまかった。

 食べながら二人は高柳と学校のくだらないことを以前のように話していると、まもなく二人の宿の主人である佐々山宏士が店に来て三人の近くに座った。

「先生とは、しょっちゅうしょうちゅう飲んでるからねー」と素晴らしいダジャレを再度披露すると、高柳と一緒に情け嶋という焼酎を飲み始めた。


 しばらくして佐々山は、おもむろにカラオケの通信機をいじり何かを歌い始めた。

 二人は初めて耳にする曲であったが、なんとなくメロディーはどこかで聞いたことがあるようなものであった。どうやら、軍歌であるらしい。


 佐々山曰く、点数取りやすいんだよねー、ということである。先生も歌いなよー、と佐々山は高柳にも絡みはじめるが、宏士さんの後じゃ歌えないっすよー、と慣れた感じでごまかしていた。それから他の客もカラオケを歌ったりして、それをみんなが拍手したりしていた。

 

 店全体が一つのグループのような温かさがあった。

 そのうち、佐々山が、二人にも何か歌うように言ってきた。ノリのいい仲西が、じゃあ俺、歌いますと言って、国民的アニメのドラジモンを熱唱した。なぜか外国人の観光客の人が大盛り上がりだった。那珂島もせっかくだから歌っとけと言われ、マニアックな演歌を歌った。何でその年でそんな歌知ってるんだよと、周りにいた観光客の一人に突っ込まれていた。


 佐々山に、生徒が歌ったんだから先生も一曲ぐらい歌っときなよー、と言われ、高柳はしぶしぶ通信機を操作し始めた。佐々山に勧められるまま、島の特産品である青酎という焼酎をだいぶ飲んだようで、動きが緩慢になってる。


 数曲の後、高柳の選んだ曲のイントロが始まった。おーワタクシです、と奇妙な丁寧語を使い、マイクを握ると高柳は歌い始めた。

「なつのくーさーはーらにー」

 酔っぱらっていて、全然歌えていない。はっきり言ってへたくそである。しかし、そんなことを責める人は誰もいなかった。


 不意に仲西は、中学のただっぴろい多目的ルームの片隅での高柳との会話を思い出した。それは空手部に入部して半年も過ぎた頃のことであったと思う。



 中学入学当初から周りから腫れもの扱いされてきた自分たちと、形はどうあれ正面から向き合ってくれたのは高柳が初めての教員であった。


 おそらく小学校からの申し送り事項もあったのであろう、他の教員は弱そうな生徒にはことさら威圧的な指導をするくせに、小学校時代の暴れっぷりが有名な二人に対して、一対一では何も言えない奴らばかりであった。

 そういった教員は、自己保身と出世のことしか考えていないということは、仲西も那珂島も小学校で散々目にしてきたのでわかっていた。

 二人が関わってきた教員の中には残念ながら人間的に尊敬できる者は誰もいない。そしてどいういうわけか、教員という職業では上の管理職になるほどクズのようなヤツらが多い気がした。


 しかし高柳は違った。

 第一に二人がかりでも全く及ばない力があった。だからといって高柳はその腕力にだけ頼っているのではなかった。明らかに自分たちがくだらないことをやらかした時には容赦なく怒鳴り散らしてきたが、何かしらの事情がある時には、どんなアホなことをしても逆に静かに話を聞いてくれた。


 仲西や那珂島は今までの教員とは明らかに異なる接し方をする高柳から腕力以外の妙な怖さを感じていた。

 ある時、仲西がそのことを伝えると、高柳は教員になる前に民間企業のようなところで働いていた経験があることを教えてもらった。そこで不本意にも世の中のいろんな部分を見てきたので、他の教員とは物事を考える視点が違っているようだ。


 それまでの仕事でだいぶブラックな業務もしたことがあるらしく、命の危険にさらされたことも何度かあることを、引き笑いしながら教えてくれた。

 さすがの二人もドン引きしたが前科は無いらしい。今はまともな職に就いているので、それは本当なのだろう。たぶん。



 仲西が、どうしてその時自分の身の上話をしようと思ったのかはわからない。だが、高柳には、それを話してもいいと思えたのは決して間違いではなかったと思う。


 部活の始まる前、仲西と高柳以外の部員は誰もきていなかった。バンテージを手に巻きながら、那珂島との出会いや、小学校時代におきた出来事、人間関係を、相談するでもなく、なんとなく話した。

 その時に言われた言葉だ。


〈毎日毎日、目先のことにばっか追われて、俺たちって何してんだろうな。時々アホらしくなるよ。周りもアホが多いし。だいたい生きてたってマジでむかつくことが多いんだよな。


 俺は個人的には、今まで人間関係で楽しいなって思えることなんて、あんまりなかったな。何かと嫌なヤツらに時間取られてさ。個人的には会えて良かったって思える人間と、嫌なやつの割合は、一対九かな。え、どっちが九だって?嫌な奴に決まってんだろうが。


 まあその数も実際会ったことのある人数からしたらほんの一握りで、その大多数は自分の人生にはほぼ無関係だったり、言い方悪いけど、どうでもよかったりする人のほうが圧倒的に多いけどな。

 だからって他人とかかわるのやめて生きていけないから、うまくやっていくしかねえけどさ。それに本当に時々だけど、信念もって生きてるやつに会えると、やっぱそうゆうときって、なんだか救われた気になるんだよ。


 クソみたいなことがあっても、俺も自分を誤魔化さないで頑張ろうって。年とか関係なくおまえらにも、そうゆう芯の部分を俺は感じるな。まあ俺の周りのだいたいのヤツは、人の顔色ばっかみて、芯が無いアホばっかだけど。


 何にしてもおまえと那珂島の関係は、羨ましいよ。

 自分のこと本当にわかってくれるやつが一人でもいれば、俺的にはそいつの人生上出来だと思うぞ。世の中には、友達すっげえいるように見えるけど、実は独りぼっちだったりするの、俺は何人も見てきたからよ〉

 

 多目的ルームの隅に置かれた跳び箱の上に座って、誰に言うともなしに高柳がつぶやいていたのを、昨日のことのように思い出した。



 仲西は先ほどから、何度かランバトの話題を切り出そうしたのだが、そのたびに高柳から別の話題をふられてしまった。

 そうこうしてるうちに、高柳は酔っぱらって時々理解不能な言語を話す状態になってしまった。

 なんだかわざとランバトの話をさせないようにしているように感じた。

 その高柳は今、ろれつの回っていない大声で歌っている。

 「きーみーもほしーだよー みんなー みーんなー」








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