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RR ー Double R ー  作者: 文月理世
RR ー Double R ー EN
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27-1 Irreplaceable ― latter half ハイジ ― ①


 一方の蓮と凜である。

 二人は凜の家を出発すると、まずは下道を使って高井戸ジャンクションまで向かった。

 そこから高速に乗ると一気に八王子方面まで走る。

 時折パーキングエリアで休憩をとりながら無理をせずゆっくりと進路を進めた。そして目的地の近くになると、山梨県にある須玉インターというところで中央自動車道を下り、ルート141号清里ラインで北上すると、午後二時頃に清里高原にたどり着くことができた。


 清里駅周辺をゆっくり走っていると〈ほうとう〉という看板を出している食堂の建物が見えた。

 途中のパーキングで二人は何も食べなかったので結構おなかがすいていた。ほうとうはどうやらご当地ものらしいので、せっかくの機会だから食べてみようということになった。


 バイクを駐車スペースに停め、〈清ちゃん食堂〉と看板に書かれている食堂に入っていく。

 時刻はお昼時を過ぎてしまっていたのでお客さんはほとんど見えなかった。メニューはいろいろとあったが二人とも〈清ちゃんほうとうスペシャルセット〉なるものを注文した。


 見本の写真で見てみると、ほうとうというのは、ちょっと平べったいうどんのようなものであった。

 しばらく待っていると、お鍋に入ったほうとうが出てきた。カボチャやニンジンなど野菜と一緒に煮込まれている。見た目は普通の味噌煮込みのうどんのようなものだ。


 スペシャルと言う割には、ほうとう以外おかず二品と普通であったが、味は普通においしい。日差しはあったものの、バイクで走っている間、風で体温を持っていかれるので、体を温めるのにちょうど良かった。

 二人が食べ終わりそうな頃を見計らって、店員さんがおかわりどうしますか、と聞いてくきた。蓮は逆に、おかわりできるんですか?と聞いたら店員は、スペシャルなので、と答えた。


 凜はもう十分です、と頼まなかったが、蓮はせっかくなのでおかわりをもらうことにした。

 二杯目を食べ終わったら、先程と同じ店員の人が、おかわりどうしますか、とまた聞いてきた。蓮は再度、またおかわりできるんですか?と聞いたら、スペシャルなので、と変わらない表情で言った。

 せっかくなので蓮はもう一杯お願いした。凜は、やっぱスペシャルみがすごいねー、と全く興味無さそうに感心していた。蓮が三杯目を食べきると、さすがに四杯目のおかわりは聞いてこなかった。スペシャルのおかわりは二回までらしい。

 その後、二人は食後のドリンクで少しおなかを落ち着かせ、お店を後にした。



 店を出ると凜の目的であるソフトクリームを食べに行くことにした。

 ネットの情報によると、清里のソフトクリームはいろいろなところで売っているのであるが、実はどこもおいしいらしい。しかし凜のこだわりは清成荘というお店のソフトクリームでなければならない、というところであった。


 清成荘の場所は二人が食事をした場所からバイクですぐのところにあった。

 その日は土曜日ということもあり、紅葉を見に来た観光客で多少の賑わいが見られる。

 二人は売店に行き、お目当てのソフトクリームを購入すると店の外のデッキにあるテーブルへ移動した。


 テラス席に座って蓮が一口目を食べようとすると、凜はもう半分ぐらいまで食べ終わっていた。

 蓮が一口ソフトクリームを口にすると新鮮な牛乳の香りが鼻に抜けていく。クリームの口溶けは素晴らしく濃厚でそれでいて程よい上品な甘みが口いっぱいに広がっていった。

「おいしい」思わず蓮がつぶやく。

 凜を見るとうなずきながらすでにぱりぱりとコーンの部分をかじっていた。


 蓮はその味を楽しみながら、ウッドデッキの手すりの向こうに広がる広大な緑の草原を眺めた。

 心地よい風が、さわさわと吹いていた。空は一面抜けるようなライトブルーで、ところどころ薄い雲が少しだけ流れている。

 地平線の奥に富士山が見えた。

 ゆっくりと白い線を描きながら一筋の飛行機雲が抜けるように高い水色の空を東の方角から西へ横切っていく。

 蓮はぼーっと魅入っていると、イスを引く音がした。視線を向けると凜がいつの間にか買ってきた二つ目のソフトクリームをもぐもぐ食べているところであった。



 清成荘から少し離れた場所にちょっとした展望スペースがあるので行ってみることにした。

 美ら森展望台という場所だ。

 展望台は小高い山の上にあり、下の駐車スペースにバイクを置いて案内の看板の案内通りに上り始めた。


 案内によると、本来であれば使える遊歩道が現在工事中のため、別のルートを上って頂上を目指すらしい。最初は砂利道みたいな、緩めのなだらかな道を登っていくが、道なりに進み右に曲がると急な坂道になっていた。

 そこに幅が比較的広い木の階段が設置されている。登っていくと、所々木製の階段が無い箇所もあったが、特に問題なく先に進めた。頂上までは思っていたほど遠くなく、十分程度で到着した。


 展望台には売店のような建物があったが、閉鎖されているようであった。

 少し整備された広場の端に行くと、そこからは八ヶ岳という山の連なりが一望できた。その反対側を眺めると、遠くに富士山が見える。


 ちょうど夕日が沈む時間帯であった。

 二人は頂上の見晴らしがいい場所に立って夕日が地球の向こう側に隠れ始めるのを眺めた。

 朱色の太陽はその光で空を鮮やかに染め上げ、アルプスの峰の濃い影を浮かばせながらゆっくりと沈んでいった。



 その後、凜が予約をしてくれた〈少年少女自然の家〉という宿泊施設に向かった。

 凜によると、どこかの自治体の施設らしいが、そこの地域の住民ではなくても利用できるそうだ。陽が沈んでから、あっという間に辺りは暗くなり、寒さというより冷気を感じ始めた。


 二人は、あまりスピードを出さずのんびりと向かった。走っている途中で、少し先の通りから奥まった場所に小さな看板が見えた。凜がそこを左折したので、蓮もついていくと、道なりに少し進んだところに建物が見えた。


 駐車スペースにバイクを停め建物の中に入る。

 カウンターには誰もいなかったので受付のカウンターの上にあったベルをチリンチリンとならすと、しばらくして中肉中背の年配のおじいさんが現れた。


 凜が先日予約した二名ですというと「ようこそようこそ」と言ってその男性は受付表を持ってきてくれた。

「私は樫見かしみっていいます。珍しい名前で名前覚えずらいだろうから、みんなには、おかしみさんって言ってもらってます」と、よくわからないザレゴトを言っていたので、蓮は、はあ、とあいまいな返事をしたが、凜は「おもしろーい」と笑っていた。


 それで機嫌をよくしたのか樫見さんは空いている部屋の中でも角部屋のよさそうな場所を用意してくれた。その部屋は十畳以上あり二人で泊るには十分な広さである。

 しっかりとしたホテルや旅館というわけではなくワンルームにちょっとした設備がついた程度であるが、夕食付きで一泊四千円程度の料金を考えれば十分だ。


 二人は荷物を部屋に置き、身軽な服に着替えると少し休憩した。

 すぐに食事の時間になったので、食堂に行きご飯を食べた。メニューはおかずの種類が多く、サラダや刺身、刺身、てんぷら、ベーコン、一人用の鍋などもついていた。

 蓮はご飯のおかわりをしながらパクパク食べた。凜はおかずを残さず食べるので大変そうだったので、蓮はご飯を食べるのを手伝ってあげた。

 その後また少し部屋で休んだあと、お風呂を済ませると、少しだけ涼もうと、建物の外に設置されているウッドデッキで休憩した。

 外は思った以上の寒さが感じられたが、風呂上がりの二人には心地よかった。


 見上げる空はとても澄んでおり星があちこちに瞬いていた。

 東京で見る夜空とは全く別物である。蓮が凜にそのことを言うと、私あんまり夜空とか見てないからわかんない、と言って、えへへと笑った。


 その時、一筋の流れ星が、蓮の眼に入った。

 思わず、流れ星だよ、と凜に教える。しかしそれは一瞬の出来事であり、凜が見上げたときには、その軌跡は跡形も無く消えていた。

 その後しばらくの間、二人は流れ星を見ようと一生懸命夜空に目を凝らした。

 しかし、いつまで経っても一向に流れ星はその姿を現すことはなかった。



 その日の夜、せっかくだから東京に帰る前にどこかに寄ろうという話になり、近場で遊べる場所を調べた。

〈ハイジの園〉というテーマガーデンは、蓮が偶然見つけたものだ。

 そこは〈ハイジの青い空〉というかなり古いアニメのテーマパークらしい。

 蓮はテレビのCMやインターネットの動画などで、その名前だけは知ってはいたが、実際にそのアニメを見たことはない。


 サイトに載っている写真を見ると、赤茶色の屋根をしたヨーロッパ風の建物があり何やらお花畑がいっぱい写っていた。蓮は特に惹かれるものはなかったが、凜にこんな場所あるよー、と一応伝える。すると凜はそれに妙に反応した。


「凜、ハイジの青い空のアニメ好きなの?」と蓮は聞く。

「んー。知らない。初めて聞いた」と言いながら、ガジェットでそのテーマガーデンのサイトを熱心に見ていた。

 あまりにもずっと見ているので、蓮が、じゃあ明日そこに行こうかと聞く。

 凜は、そうだねーと生返事をしてガジェットを見ながら、唐突に日本でハイジって言うのはよくいる名前なのか、と蓮に聞いてきた。


 蓮は少し考え、今まで直接会った人はいないけど、芸能人とかでそうゆう名前の人がいたような気がすると伝える。へーそうなんだーと言いながらガジェットをいじる凜は、心ここにあらずな感じがした。

 しばらくして、ここ行ってみようか、と凜がつぶやく。

 蓮は、いいよー、と返事をする。どうして凜がその場所に行ってみようという気になったのかわからなかったが、特に理由は聞かなかった。


 次の日の予定が決まったので、二人は早めに寝ることにした。電気を消すと、ツーリングの疲れからか、蓮はすぐに眠りに落ちた。



 それからどれぐらい時間が経っただろうか、不意に蓮の意識が頭をもたげ、そのまどろみの中、自分がよく知っている匂いを感じた。

 涙の匂いだ。

 自分は泣いているのだろうかと、蓮は薄い意識の中で不思議に思いながら、再び深い眠りに落ちていった。








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