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RR ー Double R ー  作者: 文月理世
RR ー Double R ー EN
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25 Irreplaceable ― first half 別世界 ―


 目まぐるしく季節が過ぎていく中、蓮の通う神宮寺高校では十月の最後に学園祭が行なわれる予定になっていた。

 学園祭は土曜日と日曜日の二日間開催され、二日目の後夜祭以外は一般開放もされる。

 そのため、地元の中高生や一般の人も遊びに来る結構な人の出入りがあった。


 その運営の少し変わったところといえば、出し物に関しては、クラス単位の動きするというよりは、個人や各グループが各々に企画し、それを実行委員会が取りまとめて許可を出したり、人員を募集するという流れであった。

 もちろんクラスで出し物を希望することも可能であるが、全体の割合としては少数であった。

 クラス単位になってしまうと、部活の集まりで時間を割かれる生徒や学園祭に興味が無い生徒たちとの調整が難しいのなどのさまざまな理由が原因であるためだ。



 蓮たちのクラスでも、演劇や吹奏楽などに出なければならない生徒がそれなりにいて、クラスでは出し物はしないことになった。

 蓮と凜は実行委員が取りまとめる企画系の出し物には参加せず、会場の設営を行う係になった。

 各クラスや活動団体の会場の割り当を確認したり、立ち入り禁止の場所に張り紙や看板を置くだけの楽な仕事だ。

 後片付けは、別の係や出し物の各グループ、部活動の生徒が行なうため、準備さえ終わってしまえば文化祭をエンジョイするだけの気楽な立場である。


 とはいえ実はこの二人、学園祭当日に休もうと考えていた。

 学園祭は土日で月曜は振替休日である。

 学校に行かなければある意味三連休だ。そこを利用して二人は一泊二日でバイクを使ってツーリングをする計画を立てていた。

 目的地は、清里高原という場所である。



 そこに行きたい、と言い出したのは凜であった。

 なんでもネットの動画で見た名物のソフトクリームを食べたいそうだ。

「私のバイト先の近くにも、おいしいソフトクリームあるよ」と蓮が言うと凜が、「ちがうちがあう」と手をひらひらさせながら全否定する。

「せっかく免許取れて、バイクもあるんだから、それを使わないで君は何をするの?バイクは通学のためだけに使うなんて、宝の持ち腐れでしょそうでしょ」とぷりぷりしていた。


 清里高原は山梨県にある自然豊かな観光スポットである。以前は雑誌などで頻繁に取り上げられていた時期もあったが、ブームが去ると一気にその熱も冷めてしまい、観光客もめっきり減ってしまったらしい。そして今現在はひっそりとその存在を継続しているようであった。


 調べてみると、高速道路を使えばバイクでも数時間で行ける場所である。蓮は、確かに通学だけにしかバイクを使わないのもなんだかもったいないと思い、凜の提案に乗る事にした。


 計画が決まると、グローブやジャケットなどいろいろと必要なアイテムを買いそろえた。ショッピングモールやバイクショップで、二人はおそろいのアイテムや、色違いのものを買ったりして楽しんだ。蓮には、バイク代にしようと貯めていたお金があったので、必要なものすべて揃えても十分お金が手元に残った。


 そして学園祭の準備も着々と進み、無事前日準備も終わった。

 出発は土曜日であるが、前日のうちに集合して朝一緒に出たほうがいいという話になると、蓮は凜の家に初めて泊まりに行くことになった。


 学園祭前日の金曜日、学校が終わると、凜はそのまま家に帰っていった。

 蓮は一旦部屋に戻って荷物をまとめ、バイクに乗り凜の家に向かった。自宅から下道を抜け、三ツ沢インターから第三京浜を使い一気に玉川インターまで走る。

 そこから目黒通り抜け、下道を縫うように渋谷方面に向かう。千駄ヶ谷に着いた頃には、夜の七時を回っていた。



 凜から送られたメッセージの示す住所近くに行くと、何やら閑静な住宅街のマンションであるようだ。近くに本屋さんがあるというので探したが、どこにもないので、メッセージを送り近くまで着いた事を伝える。すぐに電話がきて、下まで迎えに行くと言うので、目印になるような近くにある看板を伝え一旦電話を切った。


 少し待つと、通りの向こうから見慣れた細い人影が歩いてきた。

 蓮が本屋さんなんて近くに見当たらないことを言うと、そこにあるじゃないと指さした場所は、幻春社という出版社であった。

 蓮は出版社は本屋さんではないと凜に伝える。そうかもしれない、と凜は軽く流す。いやそこは、そうかもしれないじゃないだろ、と蓮は思ったがいつもの凜のことなのでそのままスルーしておいた。



 凜の家は厳重なオートロック付きのやけに立派なマンションであった。

 以前、凜の話の中で、母親の使わなくなった部屋に一人暮らしをしているという話は聞いてはいる。しかし、一般的な団地のようなほのぼのした住居をイメージしていたので、その外観にかなりびっくりした。


 蓮が辺りをきょろきょろしながらマンションのエントランスに入ると、凜も一緒になってきょろきょろし始めた。やけに広い共用スペースの奥にエレベーターは二基あった。いろんなものが全体的に余裕をもって大きめに造られていた。

 エレベーターに乗り目的のフロアに着くと、凜はてくてくと歩いていく。自分の家と思われる場所に着くと、明らかに蓮の家のドアとは造りが違う重厚な扉を開け中に入っていった。


 畳三畳分ほどある玄関は閑散としており、玄関の端に凜の靴と思われるものがいくつかあるだけでそのスペースを持て余していた。廊下を歩いてリビングに通されるまで、ほとんど生活感がない雰囲気が漂っていた。部屋はいくつかあるようであるが、凜が普段使っているのはベランダ側にある部屋とリビングだけらしく、他の部屋は荷物置きのようになっているそうだ。

 不意に蓮は、この広い家にある空室と凜の心の内側に感じる漠然とした何かに、奇妙な共通点の様なものを感じた。



 リビングに荷物を置き、蓮は楽な格好になろうと思い着替え始めると、凜はそのとなりにある部屋に入っていった。どうやらそこが凜の部屋のようだ。着替え終わると、なんとなく部屋が開けっ放しのその部屋をのぞいてみた。


 そこはどうにもその年頃の女子のものとは思えないほどシンプルであった。

 変な言い方をすれば殺風景で味気ない部屋である。主なものといえばホテルにあるようなベッド以外に妙に立派な化粧台しかなく、かわいらしさの欠片は皆無であった。

 凜はというと、部屋の収納の前で何かをごそごそとしながら、今エプロン出すからちょっと待っててー、と収納の中にあるプラスチックケースの中を探していた。


 ふと蓮の目に、化粧台の上にあるネックレスが目に入った。

 ときどき凜の首筋にネックレスが光っているときを見かけたことはあったが、全体をまじまじと見るのは初めてであった。


 それは、デザイン重視と言うより強度を優先させた丈夫そうな銀色のチェーンであった。

 ドレッサーの上に置かれたチェーンのそばに、小さな手のひらサイズのガラスケースがあった。。その中には濃紺のクッションの上にちょこんと楕円形のペンダントトップがのっている。

 小指の先ほどの大きさの銀色のペンダントトップの表面に模様は無く、古いものなのか細かい傷がついていた。デザイン的に凜のような女子が好んでするようなものではないように感じた。


 蓮の様子に気づいた凜が、どしたの?と聞いてくる。

 蓮は、このネックレス、いつもつけてるやつだよね、と言うと、蓮の思ったことを察したのか、似合わないでしょ、と凜は再度エプロンを探しながら言った。


 そのネックレスは、凜が海外にいたとき手に入れたようであった。ネックレスのチェーンもトップもチタン製らしく、見た目ほど重くないとのことだ。何やらその持ち主から凜が半ば奪うように自分のものししてしまったらしい。

「おかげですっごい嫌われちった」と凜はいたずらっこのように苦笑いしていた。



 それから凜がキッチンでなにやら動き始めた。以前に凜が蓮の家に泊まりに行ったとき、蓮が料理を作ってくれたので、今日は私が作る、と言ってはりきっていた。

 のだが、料理の最初から、蓮、このピーラー壊れてるよ、とニンジンの皮をピーラーでこすりながら聞いてくる。見てみると、ピーラーの刃の向きが逆になっていた。蓮が、それ向きが逆だよというと、凜は刃の向きは変えず、ニンジンの向きを変えた。


 結局下ごしらえの大半を蓮が行ない、凜はお湯を沸かしたり、具材を入れたりするだけだった。それでも凜は楽しそであった。

 出来上がったのは、カレーである。具材はシンプルにジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、鶏肉である。ナッツもあったので適量入れ、味の調整でチョコレートやチャツネを加えた。


 カレーを食べる前に凜が買っておいたポテトサラダを食べた。なんでも近くのスーパーで人気の総菜らしい。食べてみると、ポテトが大きめに入っていて食べ応えがあり、味もさっぱりしていた。それからカレーをよそい、いただきますをした。

 カレーはできたてであるが十分味に深みがあり、野菜もしっとりしていてとてもおいしい。凜が、おいしいでしょー、と言うが、実際に味付けなどをしたのは蓮である。


 後片付けをすると、二人は軽めに飲み、食後の余韻を楽しんだ。明日の朝の出発は九時に決めていたので、十二時前には寝ることにする。蓮が寝る場所は、来客用のベッドルームがあるらしく、そこを使わせてもらうことになった。部屋に入ると、蓮の寝室の二部屋分ぐらいの広さがあった。

「ここまでくると、なんだか別世界の人みたいだね」と思わず蓮が言うと、

「別世界の人は蓮でしょ」と言って、凜はえへへと笑った。


 蓮は凜にだけ先日の雨の日の出来事を話していた。

 あの日の翌日、登校した蓮が何か元気がないのを察した凜が問い詰めたのだ。凜は、蓮の取った行動にダメ出しをしながらも、もうそんな危なっかしいやり方で相手とやり合わないように、と本気で心配してくれた。


 公園で蓮を襲った連中と岡田は一緒にいなかったものの、それを仕向けたのは彼女であることは間違いないだろう。そしてあの日以来、岡田はまるで化け物に怯えるような目で蓮を見るようになり、必要以上に距離を置くようになっていた。

 蓮からしてみたら、本当の化け物はお前だろ、と言いたい気分である。



 次の朝、朝七時ぐらいに蓮が起きると、凜はもう起きて朝ごはんの支度をしていた。見てみると、ベーコンエッグ、トースト、そして牛乳である。

 寝起きであったが、蓮はけっこうおなかが減っていたので顔を洗ってそのままごちそうになった。食べてみると、ベーコンと半熟卵の焼き加減が絶妙であった。凜にそのことを伝えると、昔からこれだけは自分で作ってきたから、と言って、えへへと笑った。

 牛乳と思って飲んだドリンクは、ラッシーという飲み物であった。牛乳にヨーグルトと砂糖を適量加え、よく混ぜた後にレモンを少量絞って風味をつけるらしい。それも蓮好みでとてもおいしかった。



 その後軽くシャワーを浴び、持っていく荷物を確認した。

 秋の晴れた日とはいえ、清里は夜になるとかなり冷えることは調べて分かっているので、しっかりとした防寒対策をしていく。ツーリング用の服に着替えると駐輪場に行きバイクの安全確認をする。

 タイヤ、ガス、電気系統、大丈夫そうだ。


 往路は、蓮が前を走ることになっていた。

 エンジンをかけ少し暖気する。バイクにまたがりスロットルを軽く開くと、四ストロークのエンジン音が息を吹いた。

 父親から譲り受けたバイクが、喜んでいるような気がした。


 蓮はバイクにまたがり、後ろを確認する。凜は親指を上に上げ、OKのサインを見せた。蓮はクラッチを引き、ギアを一速に落とす。

 秋のやわらかな風を受け、二台のバイクが共鳴するかのように心地よいエンジン音を響かせながら滑らかに走り出した。








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