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RR ー Double R ー  作者: 文月理世
RR ー Double R ー EN
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24-2 Rain ― Dance with Ren ― ②


 駅を出ると、蓮はまっすぐ目的の公園に向かっていった。

 早足でしばらく歩いて、そこに着いた頃には小雨が舞うようになっていた。これから本降りになるであろう空模様の下の芝生スペースには誰もおらず、聞こえるのは風が吹き付ける音だけである。

 まるでゴーストタウンにでも迷い込んでしまったかのような奇妙な静けさが辺りを支配していた。


 蓮はふと、以前別の公園で見かけた猫を思い出す。

 最後に遠くに見た姿は、奇妙な男にのそのそと寄って行く姿だ。

〈あの猫、生きてるかな〉


 野良猫の寿命が短いことは、何かのきっかけで知っていた。

 しかし、あの猫はどう考えても飼い猫な感じであった。飼い猫が野良になって生き残れるのだろうか。不意に、父親の言葉が浮かぶ。


〈自由っていうのはいいものだ。ただ、自由だからといって、なんでもかんでも好き勝手出来るわけじゃない。自由だからこそ、何が最適解かを自分で考えて決めなければならないんだ。それでもちゃんとやっていける力が無ければ、他人が決めた枠組みの中で、おとなしく生きている方が幸せだったりするんだよ〉


 蓮は思う。

 自分は決して間違った道を進んではいないはずだ。なのにどうして、向こうから嫌なことがやってくるのだろうか。



 公園を横切り海沿いの歩道スペースに到着すると、蓮はくるりと踵を返した。

 例の集団は、視界のすぐそこまで迫っていた。

 数は八人。

 蓮は海と歩道スペースの間に設置された柵を背にじっと待つ。

 不意に雨足が一段階強さを増した。


 集団は足を早めながら近づくと、海を背にした蓮を逃げられないように半円状に囲んだ。その集団の中に見かけたことのある顔があった。

 その中から偉そうな態度の男が一歩前に出てくる。

「お前、どうなるのかわかってんだろうな」


 蓮は無言で佇む。

 上半身は雨に濡れ、胸元の下着が少し透けてしまっていた。

「こんなとこに来て、わざと誘ってんのか」別の生徒が言うと、集団に下卑た笑いが起こった。また別の誰かが、「育ちが悪いな」と言う声も聞こえた。

 蓮の脳裏に、昔の記憶が蘇ってきた。



 中学二年の一学期、始業式からそれほど時間が経っていなかった頃の話だ。

 当時の蓮は荒れに荒れており、学校やクラスの決め事などに今以上に全く協力しようとしなかった。そんな蓮をもてあました担任のアホ教師が、蓮の両親がいないことをクラスの生徒の目の前で罵倒したのだ。


 どんな言葉だったか正確には忘れたが、親がいないからと言ってクラスに迷惑をかけるのはゴミだとかカスだとか、そんな内容である。

 その後蓮は数日休んだのだが、事の次第を心あるクラスメートの何人かが教育委員会に連絡し、担任と副校長が蓮の自宅にまで謝罪に来た。


 蓮としては学校には行きたくなかったが、祖母に促され何日かぶりに仕方なく登校した。

 教室に入ると空気は一変し、妙な緊張感が漂っていた。休んでいる間、根も葉もない噂がいろいろと広がっていたのだ。その何の根拠も無い噂の一つが、蓮が金のために体を売っているというものであった。



 その日の昼休み、蓮が教室で本を読んでいると、一人の上級生の男子生徒が近づいてきた。

 その生徒は三年の三浦という生徒でほぼ全ての生徒に嫌われている不良の典型であった。三浦はいやらしい笑みを浮かべながら蓮に近づくと何の前置きもなく、

「お前、金目当てで体売ってんだろ。相手探してんなら、俺が買ってやるよ」


 だらしなく着崩した制服、汚く染めた髪、下品なピアス、安っぽい香水の変な臭い、全てが蓮の燗に触った。話す気にもなれず無視して本を読み続けると、

「おい、金恵んでやるって言ってんだよ」三浦はいらだった口調になる。それでも蓮は何も答えないでいると、三浦はさらに態度を豹変させた。


「てめえ無視んな!ふざけてんじゃねえ!」とキレながら恫喝するが、蓮はその美貌を崩さず涼しい顔で、何も聞こえないかのように本を読み続けた。

 教室は奇妙な静寂に包まれていたが、全員の視線が二人に集まっていた。


 突然、三浦が蓮の読んでいた本をはじき飛ばした。

 本を拾うため蓮が席を立とうとすると、三浦が蓮の胸倉に手を伸ばしてくる。

 直後、机を数台蹴散らしながら三浦が吹き飛んだ。

 三浦は派手な音を立てながら床にしたたかに叩きつけられ、呻きながら倒れた体をよろよろと起こそうとした。蓮はその頭を蹴りぬく。

 その後、中学校で蓮に嫌がらせをするものは誰もいなくなった。

 そして同様に近づいてくるものもいなくなった。



 土砂降りの雨の中、目の前の男たちはどこで蓮を輪姦しようかというような話をしていた。中学で援助交際の噂をたてられた蓮であるが今まで男性経験は全くない。


 ランバトのチームの先輩に告白されたことは何回かあったが全て断っていた。セックスに興味がないわけではなく、自分の心が動かされない相手とはそういう関係になりたくないという妙なこだわりはあった。そんな自分の目の前で犯す計画を楽しそうにしている相手に蓮は殺意を覚えた。

 雨足が強まった。


 大粒の雨を受けながら二人の男がにじり寄ってくる。

 不用意に襲いかかろうとしないのは、蓮の格闘の腕前を多少は知っているのかもしれない。じりじりと距離を詰め、ある間合いを過ぎた瞬間、その二人は跳ねるように蓮に襲いかかってきた。


 蓮が取り押さえられたかのように見えたその直後、二人の男は蓮の背後にある柵の向こうの海に吹き飛ばされていた。

 すかさず第二陣が蓮を襲う。

 前方、左右の三方向から同時に打撃が飛んできた。

 蓮は竜巻のように迎撃し、三人の男が一瞬でぼろ雑巾のように地面に倒された。


 残った三人は、少しの躊躇の後、連携もくそもないバラバラの攻撃を仕掛けてくるが、すぐに雑巾の仲間になった。

 海から何とか這い上がってきた二人は上陸直後、蓮のカミソリのような蹴りを喰らい柵沿いにぐしゃりと崩れ落ちる。

 その場だけが、瞬間的なハリケーンに襲われた直後のような光景になった。



 大粒の雨が降り注ぐ。

 蓮は空を仰ぎ見た。

 遠い遠い昔、母との思い出がうっすらと蘇る。

「蓮はね、雨の日に生まれたの、だからあなたの名前は英語の〈Rain〉からもきてるのよ」








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