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RR ー Double R ー  作者: 文月理世
RR ー Double R ー EN
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23-1 Silent Birthday ― 託 ― ①


 蓮と仲西、那珂島は、時間があれば会って話をするようになった。

 美月の件以来、蓮からすると二人との距離が縮まり、ょっとした友達のような感覚になっていた気がしていた。のであるが、一方の仲西と那珂島は逆に蓮と凜に対する態度が妙に固くなった。


 蓮と凜が美月に会う前は、二人のことを呼び捨てで呼んでいたのがいきなり伊吹さん、希峯さんと〈さん〉付けで話すようになったのだ。

 何やらそれは、美月を元気づけてくれたことに対する二人のお礼の気持ちらしい。

 とはいえ蓮も凜も逆に気持ち悪いのでそれはやめてもらい、今まで通り普通に呼び捨てで呼んでもらうようにお願いした。

 そう言われ、仲西も那珂島も呼びすてに戻したが、一つ変わった点は、呼ぶ名前が苗字から下の名前になったことだ。



 仲西と那珂島は、時々蓮から格闘技の動き方のアドバイスをもらった。自分たちのスパーリングを動画で撮影したものを蓮に見せ、修正点を指摘してもらうのだ。

 蓮の感想では、仲西や那珂島の動きはそれほど悪くはない。ランバトで言えばブロンズやシルバーのチームでも十分通用するレベルだ。


 小学校からの二人の経歴を聞いた蓮はさほど驚かなかったが、ほぼ我流でここまでできているのは大したものだと感心した。しかし、プラチナリーグでシノギを削る連中を相手にしてきた蓮の眼は厳しい。特に気になったのが、足の使い方、ようはステップワーク、それに打撃のタイミングである。


 蓮が小さいころから道場で厳しく指導されていた点が二人にははまだまだできていなかった。道場の稽古で練習していた猛者に比べると、二人の動きはまさに大人と子供のようなレベル差である。

 とはいえ蓮がいた道場はある意味特殊な環境であり、化け物ぞろいのずば抜けた資質を持っている人たちばかりであった。


 実際のところ仲西も那珂島も普通の高校生のはるか上を行く動きをしていた。そのことを蓮が正直に伝えると、

「中学の二年間、マジで鍛えられたからな」と二人は少し嬉しそうにして照れていた。


 蓮はそれとなく、ランバトの状況はどうか聞いた。

 どうやらこの間行われたリーグ二戦目も負けてしまい、十二月の降格戦がほぼ確定したらしいことを仲西が歯切れ悪く説明する。


 那珂島は引き分けを取れたが、仲西は判定負け。怪我から復帰したメンバーが、相性の悪い対戦相手と当ってしまいKO負けをしてしまったようだ。しかも仲西ともう一人のメンバーは肋骨にヒビを入れられるというおみやげつきであった。


 ただ一つだけ朗報があり、数か月前から所在不明だったメンバーが帰ってきたおかげでチームとしては不戦敗のカードは切らなくて良くなったらしい。

 とはいえチームの状況は依然として厳しくリーグ最終戦の一戦を残して二敗。目先の次の試合よりも、二月の権利確定戦にも暗雲が漂い始めていることがはっきりとうかがえた。



 カレンダーは十月になった。

 まだ夏の名残りを時折感じさせる日が続く中、蓮はせっせとアルバイトとバイクの教習にいそしんでいた。免許の資金はなんとかなったので今はバイクを買うための資金を貯めている。今月と来月頑張れば、中古であれば年内にはなんとか自分のバイクを買えるかもしれなかった。


 ほしいバイクの車種は決まっている。

 昔見た形を覚えていてネットで検索したらすぐにわかった。そのバイクはだいぶ前に生産終了になっているため、運よく状態の良い中古車が売りに出されればいいのであるが、なにぶん古いため流通量も限られており高校生には中々高額な買い物になりそうであった。


 ショップで買ってもいいのだが、なんだかんだ割高になってしまう。ネットオークションで買う方法も一つの手段であり、毎日チェックはしているが良さそうな車体は個人売買であってもいい値段になってしまっていた。

 そのことを雑談のついでに仲西たちに話したら、バイクの車種を選ばなければ地元の知り合いに安く譲ってもらえるかもしれないと教えてくれた。しかし蓮にとって重要なのは車種なのだ。



 その日も蓮は、家でネットのバイク情報を検索しながら、誰かバイクに詳しい人はいないかな、と考えていた。ふと、今井のことを思い出す。

 今井は蓮がランバトに参加するきっかけを作ってくれた恩人である。高校入学のドタバタ以来、いろいろと忙しく、昔の仲間とは一度も会っていなければ今井とも久しく連絡を取っていなかった。


 今井は今年の三月に高校を卒業した後、何かの設備関係の会社への就職が決まっていると言っていた。確か実家は車両の整備工場の仕事をしていたはずである。

 整備工場とバイクの販売は全く別物であるが、三月以来連絡をとってないので、その後の報告もついでに話そうと思い、夜の少し早い時間のころ合いを見て電話をかけてみた。数コール目で今井は電話に出たが、どうやらまだ仕事中らしく、後でかけなおすね、と言って一旦電話を切った。


 それから一時間後ぐらいに、今井から連絡が入る。どうしたの、と変わりない感じだ。蓮は簡単に近況を報告した。

「なんか三月大変だったらしいね。今地元じゃないんでしょ。こっちからも連絡しようと思ってたんだけど忙しいだろうと思ってしなかったんだ」今井が言う。

「はい、そっちから結構離れた場所に来ちゃったんで」

「横浜だっけ。こっちからだと行くの結構時間かかるよな。チームのみんなは蓮ちゃんいなくなってマジで寂しがってるよ」

「そんなことないと思いますよ。もともとそっちにいても練習以外でチームの人と会うことあんまりなかったから」

「まあ知らないと思うけど、俺の引退より蓮ちゃんの引退を残念がる奴らばっかりだったよ。蓮ちゃんが抜けてサンクもなんか華が無くなったし」今井は笑った。

「そんな大げさですよ。先輩はもうランバトかかわってないんですか」

「え、ランバト?まあかかわってないっていえばそうだけど。オーバー19の試合は考えてる」

「オーバー19って何ですか?」蓮は聞いた。


 蓮が参加していたランバトは、基本十八歳以下というルールがある。

 十八歳でも出場できるのであるが、十九歳になる誕生日をそのシーズン中に迎える場合には参加が認められない。今井は六月生まれであったため、昨年の十二月の時点で次のシーズンの出場資格がなくなることがわかっていた。それも昨年末で引退した理由の一つでもあった。


 そして今、今井が考えているのが十九歳以上に出場資格が与えられるバトルである。ランバトと違って誰でも申し込みできるものではなく大会等で一定の成果を上げた人にだけ声がかかるものであった。しかし、声がかかったからと言って必ずバトルに参加できるわけではないらしい。

 選抜があり一握りの人間のみバトルランクを競って戦っていけるのだ。そのバトルは興行としても成立しており、賭けの対象にもなっている。賞金の額は非公表であるがかなり魅力的な金額であるそうだ。


 そんなのはどうでもいいんだけど、と今井は話を変えた。

「蓮ちゃんも俺の引退に付き合わないで、ランバト続けてればよかったのに」

「あの時は私、高校行かないで働こうと思っていたから、引退するのはちょうど良かったんです。いろいろあって、今は高校行かせてもらってるんですけど。そういえば今、チームどうなんですか」蓮は聞く。


「まあうまくやってるみたいだよ。時々メンバーから連絡来るけど、この前のシーズンも普通にプラチナに残留してたみたいだし」今井は言う。

「やっぱりあのチームすごいですね」蓮は素直に驚いた。

「蓮ちゃんがいなかったら、たぶんあそこまで成長しなかったと思う。みんな本当に君のこと好きだったからね」

「そんなことないですよ。私はメンバーにいろいろやってもらえてたから」

「いやほんとだって。蓮ちゃん自分がバトルメンバーだからって威張ることなかったし、勝っても絶対自慢しないし、それにランバトでもらった賞金をほとんど家に入れてるの、みんな知ってたからね」

「それって私、今井さんにしか言ってませんでしたっけ」蓮は、賞金が出ることは、チームに加入するときに聞いていた。蓮は賞金の振り込み先を、二つ指定し、最低限の自分の生活費を差し引いた残りは全て祖母名義の口座に送金してもらっていた。


「ごめん。誰にも言わないでって言われてたのはわかってたんだけど、最初からみんなに言ってた」今井は申し訳なさそうに言う。

「なんすかそれ」蓮は笑った。


 今井が以前通っていた求道会の道場と蓮の関係に合わせ、その家庭環境が厳しく、決して恵まれていないことはチームの全員が裏では理解していた。

 そして自分たちが蓮の事情について知っているという事実を、決して蓮本人に悟られないようにする優しさをメンバーの一人一人が持ち合わせていた。

 あるメンバーにとっては、それは自分の境遇に似ており、またあるメンバーにとっては、ただ純粋に応援したくなる何かを蓮から感じていたのだ。


「蓮ちゃん前のチームに戻る気ない?」今井が唐突に聞いた。

「戻るって、サンクにですか?」

「うん。実は前から蓮ちゃん復帰できないのかって、サンクのメンバーに何度も聞かれててさ。蓮ちゃんが忙しそうなのわかってたから、あんまり余計なこと言わないほうがいいと思って話さなかったんだけど」

 蓮は少し考えながら、

「せっかくなんですけど、戻るつもりはないんです。前は高校生活が落ち着いたら連絡しようかなって考えたこともあったんですけど。住んでる場所も遠いから、練習とかミーティングもあんまり出れないし、それにチームでもバトルに参加して、賞金稼ぎたい人もいると思うんで」


 ランバトに参加する動機は人それぞれである。

 単純に強さを確認したいという者もいるが、やはりそれなりにもらえる賞金は大きなモチベーションであった。プラチナリーグに行けば、バトルに一回出るだけでもそれなりの金額がもらえるのだ。


「確かに蓮ちゃんが戻れば、バトルメンバーの枠は一つ埋まるだろね」

「それはわかんないですけど。チームにいた時も、なんか気を遣われて私ばっかり出させてもらってる感じがしてたんです。あれだけメンバーの層があれば、もっとローテーション組んでもいいのかなって」

「うーん。蓮ちゃんに気を遣ってなかったと思うよ。単純に実力があるから選ばれただけで。一回のバトルで、一つの勝ちが確定に近くなるってだけででかいからね。シーズンの賞金も、順位一つで全然違ったりするし」


「まあでも、もうチームに戻らないと思います」蓮は考えながら言った。

「そうかー。残念だなー」今井は本気で残念そうであった。その時蓮は何故か、仲西たちのチームのことを話してみようという気になり、

「実は少し前、ランバトに出てる別のチームの人が同じ学校にいて、メンバーにならないかって誘われたんです」

「え、それってまさかサンクのライバルチーム?」今井が驚く。

「全然そんなんじゃなくて。アンダーのチームです」

「アンダーなんてチームあった?」今井は聞く。


「チームじゃなくて、アンダーリーグです」

「アンダーリーグ?」今井は少し記憶の糸をたどり、

「それってブロンズの下のリーグ?」と尋ねた。

「そうです」蓮は以前自分が仲西たちとしたやり取りのことを一瞬思い出した。

「いやそれはないでしょ。そんな下のリーグに行かなくても、蓮ちゃんならいくらでもチーム選べるのに」

「なんかそのチーム、メンバーがいなくて困ってるんです。大変みたいだから、何かできないかなと思って」

「うーん。にしても、プラチナのメンバーがブロンズに移籍ってのすら聞いたことないしな」今井は独り言のように言った。

「なんかまずいですかね」

「いや、まずくは無いと思うけど。まあブロンズの下って言うと、蓮ちゃんはあんまり楽しめないかもね」

「バトルのレベルわかんないですけど。なんかそのチーム頑張ってて、応援したくなったんです」蓮が言う。


 今井はうーんと唸る。

「そうかー、自分でそう思うんなら、それが正解なのかもね。なんか師、、蓮ちゃんらしくて俺はいいと思う」と言った。今井は〈師範らしくて〉とい言いかけてやめた。

「で、いつぐらいに復帰すんの」と今井は続けて聞いた。

「いや、まだ何も話してないんです。実は、六月ぐらいに誘われて断ってるんですよ。向こうも諦めてくれたんで、今はスパーの動画とか見せてもらってアドバイスしたりしてて。それにやっぱりサンクチュアリってチーム最高だったし、今さら別チームもどうかなって思う部分もあって」

「うーん。そうかー。もしよかったらそのチームの情報、知り合いに聞いてみるよ。なんて名前」

「チーム名ですか。確かアルファベットでFGSって言ってました」

「FGS?なんかの略?」

「多分そうだと思います。詳しく聞いてないんでわかんないんですけど」

「そうなんだ。まあ何かわかったら連絡するよ」と今井は言った。


 その時蓮は、バイクの件を聞くこと思い出した。今井に自分が今バイトをしながら教習所に通っており、もうじき免許が取れそうなことを話す。そして、

「ほしいバイクがあるんですけど、そのバイク古くて、あんまり安いのが出まわってないんですよ。ネットとかお店で買うと高くて。どこか少しでも安く買えるところがあれば教えてほしいんですけど」と蓮はお願いした。


 今井はそのバイクの値段を聞いた。高いと言っても数十万円である。もしも蓮が、ランバトで獲得した賞金を全て自分のものにしていたら、余裕で買える額であるはずであった。サンクチュアリのメンバーも自分も、その蓮の不器用な生き方に魅かれていたことを、今井は改めて感じた。不意に目頭が熱くなる。


「ちょっと親父とかに聞いてみるよ。あと何人かバイクに乗ってる人いるから、ちょっと聞いてみる」今井は車種を確認し、何かあったら連絡してくれると約束する。

「なんか、いろいろすみません」蓮は申し訳なさそうに言う。

「いいって、じゃまた連絡するね」と今井は答えた。

 蓮は、よろしくお願いします、と言って通話ボタンを切り、ガジェットをテーブルに置いた。親しい間柄ではあるが、目上の人と久しぶりに話して緊張したせいか少し体が熱くなってしまった。窓を開けベランダに出る。

 秋を感じさせる甘い風の匂いがほてった頬に心地よかった。




 その数日後、今井から連絡が入った。

 蓮の探しているバイクで手ごろなのが見つかった、とのことである。

 蓮は、一瞬〈えっ〉と思ったが、ありがとうございます、と状況がわけのわからないまま、まずはお礼を言った。








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